2008/3/16 全日本実業団ハーフマラソン
“ハーフの赤羽”復活!!
1時間08分11秒の日本歴代3位で独走V


“丸亀以外の日本最高記録”、野口の大会記録も更新
 赤羽有紀子(ホクレン)がリードを奪い始めたのは4km前後だった。
「特にペースアップをしたつもりはなかったんです。金曜日まで徳之島で合宿をしていて、坂の練習がきつかったので、そこと比べたらそれほどでもなく、スムーズに行けました。(1人になってしまったが)普段の練習も1人ですし、今日は体が動いていたので、自分のペースで行った方がいいと判断しました」
 フィレス(ホクレン)、ダニエル(ユニクロ)、カマウ(スズキ)、渋井陽子(三井住友海上)といた集団が縦長になったのは3.5km付近。山口のコースは3kmから5kmにかけて約30mを上るが、そこを赤羽が自然と走ったら、他の選手たちがつけなかったということだろう。
 1時間08分11秒は日本歴代3位で、福士が1時間08分00秒でも走っているためパフォーマンス歴代4位。だが、その全ては丸亀で出た記録。赤羽の記録は“丸亀以外で出た日本最高記録”になる。大会記録の1時間08分29秒(03年・野口みずき=当時グローバリー)も更新した。

イーヴン型で「あわよくば」日本記録狙い
 5km毎の通過タイムは以下の一覧表の通り。
選手 大会 年月日 通過/スプリット 5km 10km 15km 20km 21.0975km 備考
福士 丸亀ハーフ 2006/2/5 通過 15:26 30:52 46:55 1:03:41 1:07:26 道路日本記録
スプリット 15:26 15:26 16:03 16:46 03:45
野口 丸亀ハーフ 2006/2/5 通過 15:33 31:25 47:56 1:04:09 1:07:43
スプリット 15:33 15:52 16:31 16:13 03:34
赤羽 全日本実業団 2008/3/16 通過 16:06 31:57 48:05 1:04:42 1:08:11 大会新
スプリット 16:06 15:51 16:08 16:37 03:29
「アップのときから軽く感じられて、16分前後で押して行けたらと思っていました」
 16分00秒イーヴンなら10kmは32分00秒、20kmは1時間04分00秒となり、日本記録の1時間07分26秒と同じくらいでフィニッシュする。福士加代子(ワコール)が日本記録を出した丸亀は、風向きの関係で前半型のポジティブ・スプリットの展開になるが、この日の山口は微風。イーヴン型のレース運びでも記録に結びつく。15kmを48分05秒で通過したときは、可能性があったが、そこからペースダウンしてしまった。
「練習も順調に積めて、最後の刺激も良かったので、1時間7分台が目標でした。あわよくば日本記録もと考えていましたが、後半が全然伸びませんでしたね」
 赤羽は伸びなかったというが、後続との差は確実に開いていった。微風ではあるが、どの選手も折り返し後に向かい風を少し感じている。また、この日は気温も*℃まで上がり、全体に記録は悪かった。この日の赤羽は、1時間7分台の力があることを示した。

3年半ぶりのハーフ出場の理由は?
 あまり知られていないが、赤羽はかつて“ハーフの赤羽”だった。国際大会デビューは99年(城西大2年時)のユニバーシアードで、ハーフマラソンで銀メダルの活躍。学内の事情もあったのかもしれないが、長めの距離に適性を感じていたということだろう。
 しかし、その後はトラックに重点を移し、4年時のユニバーは5000m(銅メダル)、1万m(8位)で出場した。昨年は日本選手権で15位と失敗したが、5000mで世界選手権代表を目指していた。
 1万mには苦手意識があり、あまり走ろうとしなかったが、昨年末には1万mでA標準を突破。北京五輪は1万mでの出場を、いっそう強い気持ちで目指している。
 ハーフマラソンへの出場は2004年の札幌以来、3年半ぶり。この時期にハーフマラソンに出る理由を問われ、次のように説明した。
「去年は5000mで狙っていたので、そこまで長い距離の練習は必要なくて、10kmくらいまででした。今回は1万mなので、その倍くらいをやっておこうということです。スタミナをつけることで余裕を持てるようにしたかった」

北京五輪後はマラソンも視野に
 1万mにあまり出なかった時期も、実は駅伝の10km区間では好成績も残している。1万mへの苦手意識はあっても、長い距離への適性がなかったわけではない。3年半ぶりのハーフマラソンではあったが、その間に5000m・10kmで安定した強さを身につけていることを考えれば、今回の快走は予測できた。
 レース後の取材中に、高地トレーニングの話題が出た。その際の「マラソンをやるときは、高地練習もやってみたい」という赤羽のコメントを受けて、北京五輪後にはマラソン出場を考えているのか、という質問が出た。
「いつかはマラソンを走りたいと思っています」
 北京五輪後にすぐに進出するのか、少し休んでからとなるのかはわからないが、元からあった長めの距離への適性を生かす機会は、いずれは来ると思われる。そのときに、今回のハーフマラソン出場が、それなりの意味を持つような気がする。

1万mでは福士&“若手”と対決
 という先の話の前に、1万mで北京五輪を経験することが目下の優先事項。A標準未突破ではあるが、日本選手権6連勝中の福士が最大の強敵となる。
「色々なレースパターンを経験しているという点では、福士さんの方が上です。私にはそれがありません。お互いにベストコンディションでガチンコ勝負になったら、向こうの方が上かな、と思ってしまいますが、それでも(日本選手権は)優勝を目標にしたい」
 相手の力を認めた上での発言は、やみくもに「勝ちます」と話すよりも重みがある。
 A標準突破者は現時点で以下の3人。
赤羽有紀子 ホクレン 31.23.27
絹川 愛 仙台育英高 31.35.27
脇田 茜 豊田自動織機 31.39.32

 絹川、脇田と世界選手権代表になった若手との争いになる。
 順位が優先される日本選手権で、今回のように自分で押していく展開もあるのか、という質問に対し次のように答えた。
「そのときの体調によりますが、ベストコンディションで、去年みたいに暑くなければ、自分でハイペースをつくるかもしれません。でも、わかりません」
 ラスト勝負になったときの自信はどうなのだろう。
「去年の感じではラスト1周は70秒くらい。70秒を切れたら勝てると思うので。今回のハーフはまあまあの結果。スタミナはついたと思うので、これからはスピード重視の練習になります」
 長めの距離と短めの距離に、交互に取り組み、当初は結果が出なかったものの、ここに来て双方で結果を出せるようになった。赤羽は長距離選手として、オールラウンドな成長を遂げつつある。


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