2008/11/29 10000m記録挑戦会兼2008国立ロングディスタンス
長距離記録会の学生&実業団コラボ大会

@日本選手トップ編
前田、風の影響で28分20秒73にとどまるも
「日本人トップは自信」に


 日本人トップは今季好調の前田和浩(九電工)。4000m過ぎで岩井勇輝(旭化成)がリードしたが、5000mでは前田と佐藤悠基(東海大)が追いついて3人がひと固まりに。
 しかし5600m付近で佐藤、6400m付近からは岩井と“ゆうき”が相次いで遅れる。そこからは前田1人が数10m前を行く外国選手たちを追った。優勝したジョナサン・ディク(日立電線)とは約12秒差のフィニッシュだったが、引き離されたという印象ではなかった。
 タイムが28分20秒73。思ったより伸びなかったのは、風がやや強かったためだ。4コーナーの出口から直線にかけて、かなり向かっていると選手たちは感じたようだ。

「九州実業団駅伝から1週間で、動けていたら27分台、悪くても28分ヒト桁では行きたかったのですが、この条件ではちょっと…。でも、最後のトラックを日本人トップで終えられたのはよかった。相手が弱い選手というわけではありませんでしたから。これも自信になります」

 今季の前田は28分00秒29(日本選手権4位)がシーズンベストで、昨年2回出した27分台には届いていないが、安定した強さが見られる。夏のヨーロッパ遠征では5000mで13分25秒24、1500mで3分43秒68の自己新をマーク。5000mは今季日本最高記録である。
「昨年の27分台2回などそのへんが自信になって、今年に良い感じでつながっています。速いペースで入っても粘れるようになりました」

 ニューイヤー駅伝は前回、2区で区間25位とブレーキとなってしまった。マラソン出場の話もあるが、まずは駅伝で借りを返したい。
「前回は10km手前でいっぱいいっぱいになってしまい、脚がつり始めてしまって、15kmからは完全に痙攣していました。チームに迷惑を掛けてしまったので、まずはニューイヤー駅伝で頑張りたい。マラソンはその後、上手く練習できれば、ですね」

Aニューイヤー駅伝編
2、3、4区の距離が変更に
チーム事情によって異なる影響

 ニューイヤー駅伝は09年大会から、コースは変わらないものの、中継位置を2個所移動させることで各区間の距離が下の表のように変わる。従来の2区を2つに分け、従来の3区と4区を1つにした。その結果、2区が最短区間、4区が最長区間になる。外国人選手の出場は2区に限定された。

  2008 2009
1区 12.3km 12.3km
2区 22.0km 8.3km
3区 11.8km 13.7km
4区 10.5km 22.3km
5区 15.9km 15.9km
6区 11.8km 11.8km
7区 15.7km 15.7km

 リベンジの意欲に燃える前田にエース区間が何区になるかを質問した。
「4区だと思います。5区で頑張ってもレースの流れが決まってしまっていることもあります。1、3区でバラされてしまってもダメなんですが、距離も一番長いし4区でしょうね」

 どの区間が重要か、新しくなった区間編成をどう乗り切るか。
 答えはチーム事情によって異なってくる。九電工の前田のように絶対的なエースがいるチームは、迷うことなく4区に起用するだろう。
 その一方、中部実業団駅伝を制したトヨタ紡織の佐藤信之監督は、「4区が山本、5区が中尾にできれば一番良い」と言う。トヨタ紡織の場合、世界ハーフ5位、前週の国際千葉駅伝でも好走した中尾勇生が、この1年で日本のトップレベルに成長した。
 しかし、他の選手たちで4区までをしのぎきり、5区にエースを置くことができれば有利な展開に持ち込める。この日は29分30秒44と振るわなかった山本芳弘だが、今季は年間を通じてまずまず安定した成績を残している。元々、亀鷹律良総監督が“将来の五輪選手”として育ててきた人材である。山本が4区で他チームのエースに食い下がれば、5区の中尾で勝負ができる。
 エースを何区に置くかは、チーム2番手選手の状態にも影響されそうだ。

 1週間前の九州実業団駅伝を制した旭化成は、1区候補の状態が影響しそうだ。
 旭化成の場合はそもそも、エースの定義が難しい。トラックや10km前後の距離なら大野龍二が間違いなくエースだろう。アテネ五輪代表で、今季は27分台を4レース連続で記録した。
 しかし、マラソンであれば07年世界選手権代表の佐藤智之がエースである。20kmの距離でも、九州一周駅伝で九電工・前田を一蹴していることから、エースといっていいだろう。
 その2人に、1万mでも20kmでも迫ろうとしているのが岩井勇輝である。ロングディスタンスでも前田に次いで日本人2位を占めた。そしてもう1人、トラックでは新人の豊後友章の成長が著しく、日本選手権1万mで7位になっている。記録も28分07秒20と中位以下のチームならエース級である。
 大野が1週間前の九州実業団駅伝を欠場して心配されたが、山本佑樹コーチによれば「ヒザに引っ掛かる感じがあるので大事をとり、練習をしっかりと積むことにした」のだと言う。今季の安定ぶりからしても、ニューイヤー駅伝は問題ないだろう。
 それよりも九州実業団駅伝1区を走った豊後が、前田に32秒差をつけられた方が気になる。「2区が外国人区間だけに、ウチにとって1区は出遅れは致命的になる」と山本コーチ。豊後のメドが立たなければ、大野の1区起用の可能性もある。
 旭化成の4・5区は佐藤と岩井が受け持つことになりそうだが、佐藤は福岡国際マラソンに出場する。どちらが4区になるかは、佐藤の回復次第になるだろう。
 また、2区の人選についても難しいところで、ある程度外国人選手のスピードに対応できる選手を起用するのか、とにかく自分のペースで行ける選手を置くのか。九州実業団駅伝で、短い6区(6.8km)で白石賢一を試すなどして対応を考えている。
 いくつものパターンが考えられるだけに、今回の旭化成の選手起用は注目される。

 東日本実業団駅伝を制したHondaは日本選手の粒が揃っているのが特徴。前週の日体大競技会1万mでは金塚洋輔、石川末廣、奥田実、池上誠悟の4人が28分20秒台で走っている。区間変更の影響よりも、その時点で誰の調子が良いかで、4区への出場選手が決まりそうだ。
 明本樹昌監督は、冗談口調ではあるが「ウチは短くなっても2区が中心ですから」と言う。Hondaの外国人選手は北京五輪3000mSC4位入賞のヤコブ・ジャルソ(エチオピア)で、東日本予選2区では区間1位のダビリ(小森コーポレーション)に2秒差の2位。1区は誰が走ってもそれほどタイム差はつかない。ニューイヤー駅伝2区でも日清食品・ゲディオンらとともに上位に進出してくるだろう。
 課題は3、4、5区で他の有力チームと何秒差にとどめられるか。明本監督は「3区間で1分半差なら」という。粒ぞろいではあるが、日本代表やタイトルを持っている選手がいない(パリ世界選手権マラソン代表の藤原正和が該当するが、現時点では間に合うかどうか不透明)。他チームのエースに名前負けしないような精神力も、4区5区に起用される選手に求められる要素かもしれない。

 選手起用はチーム事情によるが、選手層の厚さがより重要になったのは確かである。
 前回優勝のコニカミノルタ・酒井勝充監督は区間変更の影響を次のように予想した。
「1、2区は離されないようにして、3区からの勝負になる。3〜5区の重要区間でどう返すか、あるいは引き離すか。それでも、今の各チームの現状で、ドーンと飛び出せるチームはないんじゃないでしょうか。6、7区まで接戦になるかもしれません。いずれにしても、前回までの4、6区のような“つなぎ”という位置づけはできにくくなる。日本選手の選手層が問われる駅伝になる」
 選手層の厚さに加えて、選手個々の力のアップも区間距離変更の狙いである。
 3、4、5区と、1人でも走れる選手が必要となる。前回まで、最長区間(2区)は集団で進むことが多かったし、追い風にも乗れた。今回からは1人で走ることに加え、前述のように4区終盤は向かい風も予想される。
「特に4区終盤の向かい風をどう走るかで、かなりタイムが違ってくる。マラソンができる選手、粘れる選手につながってくるのかな、と思っています」
 選手起用とともに、強化にどう結びついて行くかにも注目したい区間距離変更である。

B箱根駅伝編
学生では大西が好調
佐藤は予選会以来の出場

につづくのは厳しそう

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