2007/12/23 日体大長距離競技会
赤羽が31分23秒27の日本歴代9位
五輪A標準突破&今季日本最高!
夫婦“あうんの呼吸”でペースメーカーの前に
後半は独走でも1周75秒台をキープ
「76秒をちょっと切るくらいです」
女子1万m2組のスタート前に、赤羽周平コーチがペース設定を教えてくれた。1周1分16秒0なら1万mは31分40秒0となり、北京五輪A標準の31分45秒00を切れる。仮に1周0.25秒ずつでも貯金をしていけば、10周(4000m)で2.5秒、20周(8000m)で5秒の貯金がプラスされ、ゆとりをもって走ることができる。
秋以降の赤羽の調子であれば31分台前半も難しくないと思われたが、1週間前に全日本実業団対抗女子駅伝の5区(区間2位)を走ったばかり。「3〜4日間はダルダルだった。治療でお世話になっている先生に同行してもらって、昨晩やっとほぐれた」(同コーチ)という状態では、控えめのペース設定になるのはやむを得なかった。
スタート時の15時の気象状況は<晴れ、気温14.5℃、湿度59%、北北西の風0.6m>と、記録を狙うにはうってつけ。好コンディションに恵まれることで名を馳せる日体大だけある。
エントリーしていた福士加代子(ワコール)が欠場したため、出場選手は赤羽とペースメーカーの白人選手、そして早大同好会の選手の3人だけ。カスリン・アンダースン(米国)は170cmを大きく超える長身選手で、3000mSCで9分40秒台の記録を持つという。だが1万mでは未知数。本人は31分台で走りきるつもりだったようだが、スタートしてすぐに赤羽の“足が詰まる”状態になった。
ラップは3000mを過ぎて77秒近く要するようになっていた(表参照)。ペースは完全に下降線。このままではA標準を切れなくなってしまう。終盤に切り換えてタイムを稼ぐことも不可能ではないが、独走でそれをすることはリスクが大きい。自身でペースを作るのであれば、早めの決断が必要なケースだった。
赤羽の400 m毎
距離 通過 スプリット 400 01:15.8 01:15.8 800 02:32.3 01:16.5 1200 03:47.8 01:15.5 1600 05:02.5 01:14.7 2000 06:18.2 01:15.7 2400 07:34.3 01:16.1 2800 08:49.8 01:15.5 3200 10:05.8 01:16.0 3600 11:22.7 01:16.9 4000 12:37.8 01:15.1 4400 13:51.8 01:14.0 4800 15:07.5 01:15.7 5200 16:23.1 01:15.6 5600 17:38.2 01:15.1 6000 18:54.0 01:15.8 6400 20:09.1 01:15.1 6800 21:24.3 01:15.2 7200 22:39.6 01:15.3 7600 23:55.0 01:15.4 8000 25:10.4 01:15.4 8400 26:26.1 01:15.7 8800 27:41.5 01:15.4 9200 28:57.3 01:15.8 9600 30:13.1 01:15.8 10000 31:23.27 01:10.2
赤羽の1000m毎
距離 通過 スプリット 1000 03:10.2 03:10.2 2000 06:18.2 03:08.0 3000 09:27.5 03:09.3 4000 12:37.8 03:10.3 5000 15:45.3 03:07.5 6000 18:54.0 03:08.7 7000 22:02.0 03:08.0 8000 25:10.4 03:08.4 9000 28:19.2 03:08.8 10000 31:23.27 03:04.1
第1コーナーに陣取った夫の周平コーチが、前に出るように声を掛けたのは3600m。「自分が行けと言ったのと、ほとんど同じくらいに前に出た」と同コーチ。3700mでは1〜2mリードした。ペースアップをした関係で75秒1、74秒0と予定よりもペースが上がってしまったが、4400m以降はまた75秒台に戻し、そのペースで9600mまでを押し通した。合宿などを除けば周平コーチとマンツーマン。練習ではつねに1人で走っていることが、安定したペースキープに役立ったようだ。
9600mでは「いつもと同じで70秒で!」と声がかかり、赤羽はその通りに70秒2で上がって見せた。31分23秒27は日本歴代9位で、狙い通りに五輪A標準突破と今季日本最高を達成した。
表面的には目的を“あっさりと”成し遂げたようにも見えたが、そう感じさせるところが今の赤羽の強さだろう。確かに、それだけの力は十二分にあったと思われるが、過去、記録だけを狙って失敗したケースは数知れない。“記録だけでいいんだ”と考えればいいところを、“記録を出さないといけない”と力みが出てしまう。その点、今回の赤羽はレース直前の表情からすべて、落ち着きがあった。
昨年8月に長女の優苗ちゃんを出産して1年4カ月。
「1年経って練習が思い切りでき、それでいてケガがなくなった」(赤羽)
「出産しても続けると決めてから、世界を目指す気持ちが強くなった」(同)
“母は強し”の言葉に代表されるのだろうが、それだけで済ませられるものでもない。
練習メニューもかなりの工夫をしている。周平コーチによれば「1000mのインターバルなら、リカバリーの200 mを60秒を切るようにしたり、400 mのインターバルなら200 mを100 mにしたり」と、負荷を大きくした部分がある。その一方で、レース前の最終刺激をやめることもあるという。
驚かされたのは食事面への配慮だ。合宿や遠征先で外食となるケースでも、「こういった食事はありますか」と、事前に店に確認しているという。
これらの取り組み方全てが力となり、結果として表れているのだと思われる。そうした裏付けがあるからレース前に過度に緊張することもないし、予定外の展開になったときも当たり前のようにペースアップの決断ができ、見た目には“あっさりと”記録を出せるのだろう。
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