2007/6/29 日本選手権1日目
全種目の簡単な記事と個人的な懺悔だけど外したのは1種目だけ
2日目
<優勝者>
男子200m 末續慎吾(ミズノ)20秒20(+1.2)2年連続4回目、世界選手権代表内定
男子1500m 小林史和(NTN)3分49秒86 3年連続5回目
男子10000m 松宮隆行(コニカミノルタ) 28分47秒37 2連勝
男子110 mH 内藤真人(ミズノ)13秒55(±0)
3年連続4回目、大会新、世界選手権内定
男子400 mH 為末 大(APF)48秒87 2年ぶり6回目 世界選手権代表内定
男子棒高跳 澤野大地(ニシ・スポーツ)5m65 2年連続6回目 世界選手権代表内定
男子三段跳 杉林孝法(チームミズノアスレティック)16m90(+0.2)3年ぶり6回目
男子ハンマー投 室伏広治(ミズノ)79m24 13連勝 世界選手権代表内定
女子100 m 高橋萌木子(平成国際大)11秒61(±0)初優勝
女子400 m 丹野麻美(福島大)52秒48 2年ぶり3回目
女子1500m 吉川美香(パナソニック)4分16秒80 2連勝
女子100 mH 石野真美(長谷川体育施設)13秒31(−0.6)2連勝
女子三段跳 吉田文代(秋田ゼロックス)13m16(±0)3年連続4回目
女子砲丸投 豊永陽子(生光学園)15m67 3年連続6回目
女子やり投 吉田恵美可(京産大)57m19 初優勝
男子200m
優勝者に予想した末續慎吾(ミズノ)が20秒20(+1.2)で2年連続4回目の優勝。世界選手権代表に内定した。日本記録=大会記録である20秒04には及ばなかったが、末續にとっては自己2番目の記録。伊東浩司の20秒16をはさみ、パフォーマンス日本歴代3位でもある。「この(20秒)20は、僕の中で重みがある。課題が明確になった」と末續。
「後半20m(最後の20mなのか、後半のある区切りの20mなのか不明)たれましたが、中盤で伸びたのが良かった。19秒台の選手みたいに行けた」というのがレースの反省。末續のいう中盤はコーナーの出口近辺のこと。ここが1つの課題だったが、いい感触だったのだ。レース展開に即して言えば「勝負あった」(末續)。その部分に関してはさらに「回転がもう少し上がりそう」という。その結果、今後の課題が「1つ決まった」と言う
「2つじゃありません。1つです。そこを世界選手権まで2カ月、徹底的にやります」
その課題とは130〜150mの走り。海外のトップ選手と対戦すると、そこで2mくらい離されることが多い。「そこが19秒台の選手との明らかな差。どうしても乗り切れないところ」だと言う。
これ以上を書くと通常の記事になってしまうのでこの辺で。
2位には高平慎士(富士通)が20秒52とA標準を上回るタイムで入った。実績も十分の選手で、代表入りは確実だろう。今季は“末續以外”の日本選手に3年ぶりに敗れ(それも数回)、周囲を心配させた。日本選手権の会場でも何度も、「どうしたのか」と質問されたが、本人なかでは今年はインカレもなく、日本選手権だけに合わせていたので、当たり前の感覚でいたという。
男子1500m
優勝者予想の小林史和(NTN)が3分49秒86で3年連続5回目の優勝。B標準突破者であり、世界選手権代表に大きく前進した。手元の手動計時だが、
400 m 1分04秒77
800 m 2分10秒17
1200m 3分10秒64
とスローペースの展開だった。
その展開にも、残り300 mで渡辺和也(山陽特殊製鋼)に先にスパートされたときも、小林は慌てなかった。「残り200 mから」と決めていて、その通りにスパート。井野洋(順大)に一度前に出られたが、最後の直線で勝負をつけた。
「ラストスパートの評判が高い選手も多かったですけど、レース経験なら自分が上。ラスト200 mで位置取りがしっかりと取れていれば、負けることはない」と、自信を持って走っていた。それが、力みのない走りとなり、最後までしっかりと走りきることができたのだろう。
敗れたとはいえ、2位の渡辺も最後は0.03秒差まで小林を追い上げた。直線に出た時点で井野の左後ろに位置する形となり、追い上げのタイミングが一瞬遅れたようにも見えた。
「小林さんより先に仕掛けようと思っていました。でも、最後まで押し切る力がまだありません。なかなか勝てません。悔しいですね」
どこかできっかけをつかめば、抜け出てくる選手かもしれない。
男子10000m
優勝者予想の松宮隆行(コニカミノルタ)が28分47秒37で2連勝。
終盤、伊達秀晃(東海大)のスパートについた松宮隆行(コニカミノルタ)が、そのスパートを利用してリズムに乗り、先頭に出た。いったん伊達にトップを譲ったが、残り900mでスパートして振り切った。
とにかく強いという印象。以前はいったんスパートしても、それが続かなかった。それが今は、押し続けられるようになっている。「距離を踏んで、後半が粘れるようになりました。マラソン練習がいい方向に出ています」
唯一のA標準突破選手の竹澤健介(早大)は、それほど調子が上がっていないことを自覚していた。松宮のスパートは予想していたが、それにつくかどうかは「走りながら判断させてください」と、渡辺康幸監督にレース前から言っていた。実際、それほど良くないと判断し、松宮たちにはつかなかった。結果的に、その判断が成功して、最後は伊達をかわして2位になり、世界選手権代表をほぼ確定させた。
5000mではA標準突破者の三津谷祐(トヨタ自動車九州)を、そして1万mでは竹澤を破った松宮が今、男子長距離最強との声も聞く。だが、今回の選考規定には優先順位がつけられているので、竹澤を選ばずに地元枠で松宮を選ぶことはできないのではないか。松宮もそのつもりで、ホクレンロングディスタンスで標準記録突破を狙うという。
男子110 mH
優勝者予想の内藤真人(ミズノ)が13秒55(±0)の大会新で優勝。4回連続世界選手権代表に内定した。
もう少し接戦になると思っていた。田野中輔(富士通)は大阪GPで内藤に勝っているし、八幡賢司(モンテローザ)は東日本実業団で13秒58をマークした。ところが、1台目こそ(おそらく)田野中がリードしたものの、3台目にはもう内藤が出て、中盤でさらにグンと出た。2位の八幡に0.20秒差。
今回は13秒55の大会新だったが、13秒3台の日本新はいつ出てもおかしくない。
「ブログでは情けないキャラだけど、やるときはやる」と内藤は自分で言ってしまっている。おかしな自慢の仕方だが、今回はものの見事な有言実行だった。次は3大会連続準決勝の世界選手権で“やるときはやる”ことを見せてほしい。
内藤以外の選考がどうなるのかはわからない。A標準の田野中が4位となったからだ。
1案:内藤、田野中、八幡と3人選ぶ(標準記録A・A・B)
2案:内藤と田野中を選ぶ(A・A)
3案:内藤と八幡を選ぶ(A・B)
4案:内藤1人だけを選ぶ
この組み合わせが考えられるが、どうなるかは神のみぞ知る。
男子400 mH
優勝者予想にした為末大(APF)が48秒87で2年ぶり6回目の優勝。4回連続世界選手権代表に内定した。レース展開も“前半型の為末が、ホームストレートで追い上げる展開になる可能性がある”と、どこかで書いた。「そうはならないだろう」という気持ちも大きかったが、実際にそうなってしまった。
そうなった要因はバックストレートの向かい風。1つ外側の成迫が5台目で1人だけとばしていると為末は感じ取った。その一瞬の状況判断が、後から思い出す通りだったのか、為末も自信がないというが、以下のようなものだったという。
「直感的に“危ない”と思いました。5台目を越えた瞬間に、みんな押し戻されていたんです。そこを成迫だけ行っていた。2つ外側の選手は見て、1つ内側の選手は足音でそう感じました。成迫につられて新歩数を自分に押しつけるとまずい、ラストに力を温存した方がいいと判断しました。あの向かい風の中をかっ飛ぶとつらいはずです」
最後の10台目を越えてから為末が逆転したが、これは昨年来強化に励んできた、ラストの直線で減速しない走りが成果を出している。
男子棒高跳
この種目も200 mの末續と同様、澤野大地(ニシ・スポーツ)以外の優勝は考えられなかった。5m65で2年連続6回目の日本選手権制覇で、3大会連続の世界選手権代表に内定した。
「不安は大きかったです」と、大会前の心境を明かした。
「ヨーロッパ遠征でフォームを崩し、この3週間はきつかった。5m65はいい方向に向かっていると感じられた。跳躍が元に戻ってきました」
痙攣も出なかったようである。
澤野についてはいずれ、TBSのコラムで取り上げる予定。
澤野以外の選手たちも頑張った。「有力候補2」に名前を挙げた有木健人(ハート&ハート)は6位、日本インカレ優勝の川口直哉(筑波大)は14位だったが、鈴木崇文(東海大)をはじめ5m30を4選手がクリア。13位までが5m20と、全体のレベルアップが感じられる内容だった。
男子三段跳
優勝者予想の杉林孝法(チームミズノアスレティック)が3年ぶり6回目の優勝。驚かされたのは記録で、2回目の16m44(+0.6)が優勝記録になるかと思われたが、6回目に16m90(+0.2)の大ジャンプ。B標準(16m70)を大きく突破した。
今季で31歳になる杉林は、4月末の織田記念で16m36と健在ぶりを示した。今春から大学の教員となって指導をする立場になったこともあり、技術をしっかりと見直した。「体力とのバランスも良くなった」(杉林)ということで、テーピングも「何年かぶり」にしなくなったという。5月の東日本実業団は15m74で2位だったが、踵に痛みがあったため、無理をしなかった結果である。狙った試合にはきっちりと合わせられるようになった。
男子ハンマー投
優勝者予想の室伏広治(ミズノ)が79m24で13連勝を達成。昨年の初戦は79m82。本人は「自分の感覚と1mのズレがあった」というが、十分に許容範囲だろう。
2位の土井宏昭(ファイテン)は70m09。B標準を突破しているので世界選手権初の代表入りは可能性があるが、室伏との“最小差記録”の7m70を縮めることはできなかった。
女子100 m
優勝者予想の高橋萌木子(平成国際大)が11秒61(±0)で初優勝。
スタートは5レーンの北風沙織(北翔大)がリード。日本インカレでは意気込みが強すぎて、得意のはずのスタートダッシュで僅かの差しか奪えなかったが、今回はいつもの北風だった。
しかし、高橋も日本インカレよりも、精神的にも身体的にも良い状態にもってきていた。インターハイ3連勝を達成したのと同じ長居競技場。清田監督によれば「戦闘モード」にしっかりと入ることができた。北風と隣の4レーンだったことも幸いし、スタートしてすぐに「抜ける」と感じたようだ。
しかし、北風がいつもより健闘した。というよりも、今季はスタートから中盤、後半への流れが良くなっている。
「90m過ぎからが勝負と感じました。95mくらいでとらえたと思います」
と高橋。実際の逆転は90m付近だった。
学生コンビが1・2位を占めたが、信岡沙希重(ミズノ)と石田智子(長谷川体育施設)のベテラン同学年コンビも3・4位に続いた。2人とも万全の体調ではなかったが、しっかりと上位に入った。1〜4位は昨年のアジア大会リレー代表。
女子400 m
優勝者予想の丹野麻美(福島大4年)が52秒48で2年ぶり3回目の優勝(昨年は腰に痛みが出て欠場)。
JAAF Statistics Informationsの手動計時(非公式)では
100 12.3 12.3
200 24.5 12.2 24.5
300 37.8 13.3
400 52.48 14.6 27.9 (前後半差−3.4)
という通過タイム。日本記録が狙えるペースだったが(状態もそのくらいの仕上がりだったという)、後半でペースダウンした。
2位の久保倉里美(新潟アルビレックスRC)は53秒08の日本歴代3位を記録したが、期待された52秒台には僅かに届かなかった。
3位の青木沙弥佳(福島大3年)は53秒44。日本インカレで出した自己記録に0.04秒届かなかったが、高いレベルで安定してきた。
4位の渡辺なつみ(福島大1年)は決勝では53秒98だったが、予選で53秒40をマーク。青木が日本インカレで出したタイムと並び、学生歴代2位タイ(学生記録は丹野の日本記録で51秒80)。ジュニア歴代でも丹野の52秒88に次いで歴代2位の好記録である。
5位の木田真有(ナチュリル)、7位の吉田真希子(同)と福島大OBが後輩の後塵を拝したが、福島大の川本和久監督は「前半型の4人が失敗して、後半型の2人(青木と渡辺)が成功した。原因はおそらく前半の風。向かったところでふかしすぎたのかもしれません」と分析する。
男子400 mHの為末大も話していたように、今大会中の長居の風は全体的には弱かったが、ところどころで向かい風もあった。1周ずっと追い風が吹くこともあるが、毎回そういうわけにはいかないようだ。
女子1500m
優勝者予想の吉川美香(パナソニック)が、得意のラスト勝負で快勝した。4分16秒80で2連勝。世界選手権代表に大きく前進した。
JAAF Statistics Informationsの手動計時(非公式)では
先頭 小林
100 16.0 16.3
200 33.5 33.8
300 51.1 51.4
400 1.09.4 1.10.2
500 1.27.5 1.28.3
600 1.44.9 1.45.7
700 2.02.5 2.02.8
800 2.19.9 2.20.4
900 2.37.8 2.38.3
1000 2.55.8 2.56.3
1100 3.12.6 3.12.9
1200 3.29.6 3.30.0
1300 3.45.8 3.45.8
1400 4.01.6 4.01.7
1500 4.16.80 4.18.65
というペースだった。
小林祐梨子(豊田自動織機)はハイペースに持ち込まずに、集団待機の作戦を採った。何度か書いているように、ラスト勝負でも強い選手であるが、今回はまったく伸びなかった。5月から思ったような練習ができていなかったことと、踵に痛みがあったことが大きな要因だったのだろうが、本人は「気持ちのコントロールが弱かった。世界陸上が懸かっているようなところで、思う通りの走りができないのが弱さです。こういう試合で走れる選手が強い選手」と言う。
女子100 mH
優勝者予想の石野真美(長谷川体育施設)が13秒31(−0.6)で2連勝。昨年、B標準を突破している。
2位に入った熊谷史子(北海道ハイテクAC)の13秒53は日本歴代13位。
女子三段跳
優勝者予想の吉田文代(秋田ゼロックス)が13m16(±0)で3年連続4回目の優勝。三澤涼子(ヤマトT.C)に13m10でリードされていたが、6回目の13m16で逆転するという薄氷の勝利だった。
吉田は織田記念で13m50の日本歴代2位タイをマーク。5月には走幅跳の自己新も出して好調だったが、その5月中旬からホップ脚(右)の足底に痛みが出て「体が乗り込めない」状態になってしまっていたという。
女子砲丸投
優勝予想した豊永陽子(生光学園)が15m67で3年連続6回目の優勝。優勝記録が16mを割り「がっかりしてしまいます」と、首をうなだれた。「重心が高く、脚の引きつけが遅く、流れが悪い投てきでした。一番悪いのは右脚の引き込み。そこが遅いので、慌てて手で投げてしまいました」と反省しきりの豊永だった。
2位の美濃部貴衣(筑波大)は自身初の15m台となる15m06。高校時代は14m28がベストで全国タイトルも取った。大学1年時こそ13m91と記録が落ち込んだが、2年時以降は14m40、14m72と記録を伸ばしてきた。
「インカレ後の大学の競技会でも、前日に練習量が多かったなかで出て14m89でした。15m行くかな、と思っていました」
大学1年時までは技術的にそれほど考えずにやっていたが、2年時以降は「体幹の使い方や、構えで右腰をバーンと前に出すこと」など、技術的にも追求してきた。この日も15mの投てきこそ「今日の中では上手くはまった」というが、「狙ってコントロールできたかというと、もうちょっと」だったという。
日本インカレではキャプテンとしてチームを引っ張ったが、筑波大女子の総合優勝がとぎれ、悲嘆の涙を流し続けていた。美濃部に笑顔が見られたのがよかった。
女子やり投
吉田恵美可(京産大)が57m19で初優勝。学生歴代2位というだけでなく、来年の北京五輪のB標準を破る快投だった(世界選手権のB標準は59m00)。
優勝予想した海老原有希(国士大)は54m49で2位。冬期に故障があった海老原がここまで復調してくるのは予想できたが、吉田のここまでの成長は予想できなかった。この手の予想は所詮、過去の実績で判断するしかない。
吉田は昨年の兵庫リレーカーニバルで腰を痛め、低迷していたが(51m09が年次ベスト)、大学2年時には55m60を出している選手。ジュニア時代には54m13のジュニア日本記録もマークした。
「助走の流れが速くなって、下半身を使えるようになりました。それに対してなかなかタイミングが合いませんでしたが、そこを何回も練習してきました」
昨年、学生記録(57m47)を出した海老原とは同学年。女子やり投が有望種目となった。
日本選手権を10倍楽しむページ2007
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