2007日本選手権種目毎展望
短距離編

男子100 m
 A標準は誰でB標準は誰、ということはどうでもいい。純粋に“日本一速い男”が決定する瞬間を、固唾をのんで見守るのが男子100 mという種目である。
 なかでも末續慎吾からは目が離せない。大阪GPではタイムこそ10秒23だったが、圧勝と言える内容。どこがというよりも、全体がスケールアップした。条件に恵まれれば9秒台が出るのではないか。一方、本格復帰した朝原宣治が関西実業団で10秒15をマーク。久しぶりに2人の対決が白熱する可能性も。塚原直貴も関東インカレの後半で2位以下を圧倒。三つ巴の混戦に持ち込めるか。


 という記事を陸マガに書いたが(誌面掲載は末續欠場が判明したため編集部で修正)、末續欠場となったので、朝原と塚原のアジア大会新旧銀メダリスト対決に焦点は移った。
 朝原はその時点の力を出し切るだろう。調子が良ければ10秒0台も可能と見た。
 テレビで見た関東インカレの塚原は、後半で一気に抜け出した。2位の江里口匡史(早大)に0.23秒の大差。朝原を相手に、関東インカレと同じ走りができるかどうかが勝敗を分けそうだ。3位争いが混戦。今季10秒3台の石倉一希、菅原新、小島茂之が候補。東日本実業団優勝の菅原が、新たな走りに自信をつかんでいた。


女子100 m
 スプリント・クイーンの決定戦も興味深い。29歳の信岡沙希重と18歳の高橋萌木子。元々は2人とも後半タイプだが、信岡の今季はスタートが格段に速くなった。その反面、終盤の強さがなくなった。P★の記事にあるように、2次加速局面を改善することで解決できると信岡は考えている。一方の高橋は、これもP★の記事にあるように、スタートでリードを奪うのでなく、後半につなげようと動きを工夫している。北風沙織も絶好調で、持ち前のスタートの良さに加え、中盤から後半がスムーズにつながり始めた。三つ巴となる可能性も十分だ。

 というのが陸マガに書いた記事だが、本サイトの優勝者予想は高橋。今季の直接対決では静岡国際、大阪GPと高橋が信岡に勝っているからで、これは動かしようがない。ただ、信岡も文字通り“ほとんど優勝候補”と言っていい。その根拠は“経験”である。以前は不得手としていたスタートで出遅れると、“追いつけない”と焦ってしまったが、ここ2〜1年でスタートが速くなったこともあり、その欠点を克服している。
 今回の女子100 mは、ある意味心理戦のような気がする。高橋は「抜ける」と思ったときは必ず終盤で逆転している。高橋がそう感じる根拠は解明されていないが、陸マガの日本選手権展望特集記事に書いたように“戦闘モード”に入ったときはほとんどそう感じている。ただし、日本選手権でそこまで感じたことはない。高橋が初めて“本気”で狙う日本選手権が今回。テンションがインターハイのように高まって「抜ける」と思うのか、逆に力みにつながるのか。
 北風沙織も同じように心理面が影響しそうだ。日本インカレは“勝ちたい”思いが強すぎて失敗した。得意のスタートで僅かしかリードできなかったのだ。世代別の選手権の方が、その手の思いは強くなる。もしかすると、日本選手権の方が平常心に近くなるかもしれない。
 3人とも照準は日本選手権に合わせている。信岡はもちろんのこと、インカレに出場した高橋と北風も、気持ちは一度インカレで高めているが、練習の組み立ては日本選手権にピークを合わせていた。“がちがちの競り合い”でなく、“伸びやかな競り合い”になれば、11秒40のB標準も突破可能だろう。


男子200 m
 世界選手権で銅メダルを獲得した2003年のように、今季の末續は試合数を絞っている。03年の日本選手権では20秒03のアジア新。昨年は連戦の中で20秒25のサード記録をマークした。今季は19秒台が出てもおかしくない。
 2位争いが面白い。2004年以来、末續以外に負けていなかった高平慎士を、静岡国際で石塚祐輔と長谷川充が破った。高平がこのまま引き下がるとは考えにくい。石塚に塚原直貴、斎藤仁志を加えた学生トリオ、大前祐介、吉野達郎らの実業団勢が入り乱れ、激しい戦いが予想される。100〜150mで誰がリードするかに注目したい。


 と陸マガに書いたが、状況は今も変わらない。末續慎吾のブログの文章を見ても、試合数を絞ったことで集中力は相当に高まっているのがわかる。11年前の日本選手権も新装なった長居で行われ、東海大の先輩にあたる伊東浩司が20秒29と、あっと驚く日本新を出した。今回も舞台は新装なった長居競技場。19秒台が出ると、筆者は本気で思っている。
 2位争いは高平慎士の調子次第。判断材料が少ないが、昨年も4大学で動いていない状態から、塚原直貴との対決でテンションが高まった関東インカレでは、一気に動きが良くなった。
 長谷川、石塚、斉藤の筑波大トリオ(OBを含む)は、チーム内で変に意識し合わなければ、抜け出すことができるのでは。石塚は400 mに絞る可能性もあるが。


女子200 m
 信岡沙希重が4月に追い風2.8mの参考記録ながら、23秒12と自身の日本記録(23秒33)を大きく上回った。先に行われる100 mで勝ったり、11秒40前後を出せたりすれば、200 mで一気に記録短縮の可能性がある。
 400 m日本記録保持者の丹野麻美が日本インカレで23秒64の学生新をマーク。23秒3〜4の勝負となったら可能性が出てくる。東日本実業団で信岡に続いた福島千里も、面白い存在になってきた。昨年、23秒48を出した中村宝子は、ケガで冬期練習にブランクが生じた。どこまで復調できるか。高橋萌木子は100 mに絞る可能性が大。


 と、陸マガに書いた状況は今も変わらない。結局、信岡次第ということである。信岡がスピードを生かすことに成功すれば、B標準の23秒30のみならず、A標準の23秒10、さらには22秒台の可能性もある。
 信岡が“終盤失速しての23秒台3以降”になれば、丹野麻美が一気に迫る。昨年のアジア大会がそうだったように、丹野の追い込みは、力んでも仕方のない状況でもしっかりと進んでいる。天性の接地のうまさが可能にしているのだろうか。


男子400 m
 金丸祐三に3連覇がかかっている。しかし、大阪GPでは4×400 mRこそ好走したが、400 mでは48秒47と失速。関東インカレは46秒07で制したが、昨年までの勢いがない。大阪GP日本人1位の山口有希が今季唯一の45秒台。同大会日本人2位の堀籠佳宏は、織田記念では山口に先着。混戦模様を呈している。関東インカレで金丸に迫った石塚祐輔、大阪GPの4×400 mR3走を45秒2(非公式計時)で走った太田和憲の2人が、ダークホース的な存在に浮上している。昨秋の国体優勝者の向井裕紀弘、03−04年連覇の佐藤光浩も合わせてきそうだ。

 と陸マガには書いたが、日本インカレの4×400 mRを見る限り、金丸祐三の状態が上向いている。45秒1というラップだけでなく、高校時代の良かった点を上手く取り入れ(主に生活面)、停滞していた勢いを取り戻した感じがする。元々、テンションが走りにも現れる選手。地元大阪の日本選手権は、一気にテンションが上がるはずだ。
 陸マガ記事で名前を出した以外の選手では、山村貴彦が注目選手。金丸同様大阪出身。ひょっとすると、ひょっとするかもしれない。


女子400 m
 昨年は大会期間中に腰痛が出て400 m決勝を欠場した丹野麻美だが、普通の状態なら3回目の優勝は間違いない。序盤でトップギアに入れるが、バックストレートはリラックスしながらスピードを維持する。そこで“頑張って”スピードを出すと、終盤が苦しくなる。バックストレートでの力の入り方が記録を左右するポイントか。
 2位候補は昨年優勝の久保倉里美だが、400 mHとの兼ね合いをどうするか。木田真有は今度こそ、02年の自己記録(53秒47)を更新したいところ。4×400 mRの世界選手権出場も決定的。53秒を切る人数も注目したい。


 と陸マガに書いたが、6月20日の福島大TC公開練習の際に、川本和久監督が丹野のA標準(51秒50)突破に自信を見せた。多種目出場の両インカレで52秒30(東北)と52秒32(日本)。昨年と違い400 mと400 mHに準決勝はなくなった。一気に記録を伸ばしてくる条件は整った。
 面白いのは久保倉。川本監督は「丹野とそれほど変わらずに入れる」と言う。公開練習日の300 mでは37秒5と、4月に自身が出した38秒12のアジア記録を上回った。木田の自己新も出そうで、52秒台突入がなるかどうかが焦点。
 丹野のタイムはフィニッシュライン脇のタイマーでわかるので、ストップウォッチを持って観戦する人は2位・3位の選手で止めてみるのもいいかもしれない。


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