2007日本選手権種目毎展望
中距離編

男子800 m
 下平芳弘、口野武史、横田真人と学生陣が充実している。下平は一昨年のチャンピオンで、ラストの強さは目を見張るものがあった。横田は高校時代は先行型だったが、昨年はラスト勝負でも強さを見せ、ジュニアながら日本選手権を制した。口野はロングスパートが得意なタイプ。今季は兵庫リレー、関東インカレと連勝した。
 しかし、ここに来て笹野浩志がラストの強さを取り戻しつつある。ゴールデンゲームズinのべおかでは1分47秒95の今季日本最高で口野を抑えた。ラスト勝負までの力のため方で得たものがある、と自信を見せている。


 上記のように陸マガ記事には書いたが、横田が復調していると状況は変わってくる。春先の不調は故障による冬期の練習不足が原因。しっかりと練習が積めてくると、やっぱり強い。本来、目標としていたのは8月のユニバーシアードだが、その代表はなくなった。逆に思い切ったレース、本来の先行型の展開ができるかもしれない。
 最近の中距離を見て感じたのは、どんな展開でも力んだらダメだということ。笹野浩志が一時、学生選手に勝てなかったのも、位置取りに対し力んだり、タイムに対し力んでいたのが原因だった、と思われる。それをゴールデンゲームズinのべおかで克服した。優勝者予想は笹野である。


女子800 m
 シーズン前に故障や移籍で練習不十分だった杉森美保が5月に復帰。ゴールデンゲームズinのべおかでは2分05秒38で優勝した。福島大・川本和久監督門下となり、ラストの直線の動きで新たな発見をしたという。
 学生選手も好調。本校締め切りが日本インカレの前だが、岸川朱里、久保瑠里子、山下沙織の3人もゴールデンゲームズで2分5秒台をマーク。4月末の織田記念では陣内綾子がその3人を破って優勝した。杉森が完全に回復すれば日本新狙いのハイペースを、そうでなければ熾烈なラスト勝負が見られそうだ。


 というのが陸マガ記事。杉森の状態だが、福島大TC公開練習時の話しぶりからも、まだ1分台を狙うところまで回復はしていないようだ。しかし、最後の直線の動きには自信を得たようだ。「重心への乗り方と、地面から伝わってくる力の利用の仕方」がポイントだという。
 コメント取材はできなかったが、久保瑠里子の大きな走りも、福島大TC公開練習時には光っていた。
 しかし、今回杉森に勝つとしたら、日本インカレ優勝の陣内綾子だろう。上手く説明できないが、そろそろという雰囲気が感じられる。


男子1500m
 29歳の小林史和と19歳の渡辺和也の対決が注目されている。関係者が驚かされたのが静岡国際の残り250 m付近。昨年までの自己記録3分47秒23の渡辺が先頭に立ったのだ。最後は小林に逆転されたが、評価が一気に上がった。「普段通りに走ってほしい。静岡のように、小林より先にスパートできたら面白い」と永里初監督。対する小林も今季は好調を維持。ゴールデンゲームズinのべおかでは2周目が遅くて好機を逃したが、日本記録を出すくらいの仕上がりだったという。田子康宏も以前のように思い切って引っ張れば、主役の座を奪う可能性も。

 なんとなく、であるが、小林が日本記録保持者の貫禄というか、意地を見せるというか、まだ渡辺には勝たせないのではないか。B標準突破済みで欲をかく必要もない。だが、“勝たなければならない”という意識が強すぎると、どうなるかわからない。レース前の作戦でも、レース中に判断した作戦でも、自信を持って押し通せば勝てるはずだ。
 もしも渡辺が、今の時点で小林に勝つようだと、一気に突き抜ける可能性がある。体格的に中距離ではどうか、という線の細さだが、細い中にも強靱さも感じられる。ひょっとする可能性はある。
 渡辺にこのまま行かれてしまうと、田子康宏と村上康則の立つ瀬がない。田子が前半から積極的に行ったり、村上が目の覚めるようなスパートを見せるなり、得意の型で意地を見せてほしい。意地と力みはまったく違うものである。


女子1500m
 吉川美香と小林祐梨子。世界選手権B標準を破っている2人が激突する。小林は昨年、今年と国内ではハイペースで押すレースが多く、それが日本記録の2度更新にもなった。だが、2年前の日本選手権や、昨年の世界ジュニアとアジア大会などでは、競り合いに強いところを見せている。どちらの展開を選択しても、力まないことが勝敗を左右しそうだ。一方の吉川は、ラスト300 mをきっちり走りきるのが得意パターン。800 〜1200mで“ため”をつくるためにペースを落とす展開もあったが、走力アップができればそこも押していけるようになる。

 大阪GPの小林は明らかに力んでいた。力みをなくせば、先行策でも、一昨年のようなラストスパートでも、力を発揮するはずである。大阪GP後も日体大長距離競技会、プレフォンテイン・クラシックと2試合に出場。レースが多いという指摘もあるが、レース毎の意図をしっかりと把握し、レースに出場するスタンスに力みがなければ、日本選手権にきっちりと合わせることも可能だろう。
 一方の吉川も期待できる。日本選手権展望特集記事で取材をさせてもらったが、レース展開に対して意識過剰になっていないところがいい。そこを気にしすぎると力みにつながるからだ。昆明合宿で全体的な走力アップに成功していれば、大阪GPで遅れた3周目もきっちり着くことができる。仮に3周目で“ためる”必要があっても、大阪GPのときのように焦らなければ、得意の残り300 mで追い上げられる。
 優勝者予想を吉川としたのは、優劣をつける根拠があったわけではなく、直接取材をさせてもらったのが吉川だったから。力が接近している場合、そういった理由で予想をするのが本サイトの優勝者予想である。


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