2007/1/21 全国都道府県対抗男子駅伝
トヨタ自動車九州に強力同学年トリオが実現
三津谷祐=1万m日本歴代3位
今井正人=箱根駅伝5区3年連続区間賞
植木大道=全国都道府県対抗男子駅伝7区区間3位

@今井が三津谷のいるトヨタ自動車九州に進む理由とは?

 今井正人(順大4年)が入社するのは福岡に拠点を置くトヨタ自動車九州。東北出身(福島県原町高)選手が九州の実業団に入るのは珍しいが、チームに魅力があれば地理的な理由は選択の妨げにはならない。しかし、同チームには三津谷祐がいる。三津谷は1万mのヘルシンキ世界選手権代表で、27分41秒10と日本歴代3位の記録を持つ。ロードが得意な今井とは対照的なタイプだが、学年は同じ。それが“敬遠する理由”になっても不思議ではなかった。タイプが違えば“自分にはないところを学ぶ”こともできるが、同学年ではライバル心が前面に出てやりにくい面も生じる可能性がある。
 そこを今井がどう考えて、トヨタ自動車九州入りを決断したのだろう。

「三津谷は考えていることのレベルがすごく高い。話していて、自分の甘さを感じさせられます。トラックであれだけのものがありますし、マラソンに移行しても大成すると思うんです。僕と走りは違いますが、一緒にいて学べる点も多い。同学年として、お互いを高められる存在だと思います」

 2人が互いのことをよく知ったのは、高校2年生の世界クロカンだった。遠征で同部屋となり、色々と話しをした。2人の高校2年時冬季以降の主要大会の成績は下記の通り。三津谷がリードしている現時点の2人から見ると、予想以上に今井が健闘していた。トラックで三津谷に先着することもあったのである。

三津谷と今井の2002年主要大会成績
大会 三津谷 今井 備考
千葉国際クロカン・ジュニア8000m 2位・24分04秒 8位・24分11秒  
世界クロカン・ジュニア8km 32位・25分16秒 25位・25分01秒 今井が日本人2位
インターハイ1500m 3位・3分48秒42   三津谷が日本人1位
インターハイ5000m 6位・14分11秒56 5位・14分09秒82 今井が日本人2位
国体少年A5000m 6位・14分01秒42 11位・14分07秒44  
国体少年共通1500m 4位・3分49秒99 7位・3分53秒67 三津谷が日本人2位

 高校卒業後は関東の大学と九州の実業団と進路が分かれ、目指す試合も異なり始めた。タイプの違いも明確に表れるようになった。今井の記憶で同じレースに出たのは、大学1年時の全国都道府県対抗男子駅伝3区だけだという。
「瞬殺されました。僕も1kmを2分40秒ちょっとで突っ込んだのですが、2kmで置いて行かれました」
 今井が1秒先にタスキを受けたが、三津谷が23分59秒で区間2位だったのに対し、今井は25分00秒で区間27位。入社1年目の三津谷が28分23秒40と、1万mのジュニア記録迫っていたのに対し、今井がブレイクするのはその1年後のこと。勢いに差があった。
 しかし、その後も食事などをする機会もあり、2人は連絡を取り合っていた。

「気さくな人柄で、つんつんしたところがない。あまり気を遣わずになんでも言ってくれる。良いところは良い、ダメなところはダメと、はっきり言ってくれる存在です。競技に対しても高いものを持っている。こんな考え方で練習をしているんだって、すごく刺激になる。僕が入ることで、チームを高められればいいのですが」

 昨年のニューイヤー駅伝後、故障が続いて結果を残していない三津谷だが、今は回復過程終盤にあるという。本人は今年のニューイヤー駅伝出場を考えていたほどだ。
 今井が同じチームに加わることにより、成長過程の違った2人がどう変化をして行くのか、興味が持たれるところである。

Aもう1人の同学年選手の存在

 トヨタ自動車九州にはもう1人、同じ学年に植木大道がいる。福岡大大濠高出身。05年に1万mで28分27秒94をマークした選手で、今回の全国都道府県対抗男子駅伝では7区で区間3位。学生の有力選手をことごとく抑えた。こちらの記事で紹介したように、区間4位の今井が「実業団選手として努力している。森下(広一)監督が信用を置く選手」と一目も二目も置いている。
 植木の今回の走りについてはその記事を参照していただくとして、今井の入社を植木がどう考えているかを、本人のコメントで紹介したい。

「今井君とは合宿で同じ部屋になり(おそらくトヨタ自動車九州の夏合宿に今井が参加したとき)、とてもしっかりした考えを持っているのがわかりました。学生には箱根でちやほやされている選手もいますが、彼は箱根で結果を残したからこそ他の試合でも結果を出したいと言っていました。上りだけとか、実業団に比べれば劣ると噂されても、惑わされたりしていません。トラックの記録は今はそこそこ(1万m28分57秒93)ですが、合宿を一緒にやると強い。キッカケがあれば28分台前半もすぐ出すと思います。尊敬できる選手ですが、同学年として負けられない気持ちも大きいですね」

 入社3年目で28分台前半に入った植木だが、タイプとしてはロード、マラソン向きだと森下監督は言う。
「ラストはないけど、1人でつくって行ける。自分を攻められる、追い込める選手です。動き的にはロードタイプ。今井と同じ流れでマラソンにトライさせられたら、と思っています。考え方とか、三者三様で面白くなりそうです」

 今井が就職先にトヨタ自動車九州を選んだ一番の理由は、森下監督の存在だという。有望ランナーがひしめく現在の大学2〜3年生には「まずはトラックで結果を出してからマラソンに」という選手が多いのに対し、今井はトラックの記録も重視しながらも比較的早い段階でマラソンに挑戦することを考えている。
 バルセロナ五輪銀メダリストの森下監督の下で、日本の男子マラソンを再度世界のトップに押し上げたい。それが、実業団での今井の目標だ。そこに植木がからみ、いずれは三津谷も参戦してくる。トヨタ自動車九州の同学年トリオが、監督に続く日が来るかもしれない。


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