2007/12/17 日体大共同取材
森に日体大“準エース”の自覚
「北村さんからタスキを受け取りたい」


 森賢大(2年)に準エースの自覚が出てきた。夏頃から北村聡(4年)に、練習でも後れをとらなくなった。設定がフリーとなるインターバルのラスト1本など、森だけが北村に食い下がる。「勝ったり負けたり」だという。
「夏合宿から絶対に一緒に練習をこなすと決めました。去年の駅伝が全部ダメで、ここで変わらないと、北村さんの陰で甘えたままになってしまうと考えたんです。それでは、他の大学の選手にも勝てません。最初のうちは練習が終わったら倒れるくらいでしたが、今は、北村さんがきついときは僕が引っ張るまでになれました」
 出雲の1区は上野裕一郎(中大4年)の飛び出しには対応できなかったが、2位集団で最後まで粘り、区間2位の山崎敦史(順大3年)に2秒差の区間4位。10月20日には1万mで28分25秒08と自己記録を大きく更新した。全日本の2区は各大学のエースが集まったなかで区間6位。好走が続いている。

 前回の箱根も1区で区間5位と、決して悪い走りではなかった。ただ、佐藤悠基(東海大3年)の飛び出しに、なすすべがなく、4分29秒の大差をつけられた。
 現4年生は北村、上野、松岡佑起(順大)、伊達秀晃(東海大)が、高校時代から高いレベルでしのぎを削ってきた。現3年生では佐藤悠基が1万mで高校最高、佐藤秀和(トヨタ紡織)が5000mで高校新を出し、竹澤健介(早大)は今年1万mで学生日本人最高、5000mで学生新を記録した。
 その下の学年(現大学2年)は“谷間”と言われた。そのくらい、2年続けて強力な選手が揃っていたのである。その学年にあって森は、高校3年時の国体に優勝するなど、リーダー的な存在だった。
「こだわる部分はありませんが、言われて気持ちの良いものではありません。実際、僕らの学年も高橋(優太・城西大)や宇賀地(強・駒大)が、どんどん強くなっています」
 全日本大学駅伝2区では宇賀地が、松岡と竹澤に追いつかれてから粘り抜き、3区以降の駒大独走の起爆剤となった。そのとき宇賀地が区間5位で、森は12秒差の区間6位。
 3・4年生たちは目先の勝負にこだわらず、ケニア選手にも積極的に食い下がったが、森は高3の国体優勝時に、ケニア選手たちを抑えている。全国高校駅伝の1区でも、最初の1kmは食い下がった。
「その気概は持っています。今は、モグス選手(山梨学大)やダニエル(日大)とは力の差があるので、つくことはできませんが、自分の力が上がればついていきます」

 1万mの記録を出したのが10月。インカレでは活躍できなかった。箱根駅伝は、存在をアピールする絶好の場であるが、今季の日体大は「優勝したいとか、3位以内に入りたいとか、順位や記録にこだわらない」(別府健至監督)というやり方を徹底し、出雲3位、全日本2位と成功してきている。森も、そういった目標の立て方はしていない。
「持っている力を全て出したい。どの区間でも走ります」
 希望区間がないのはやる気がないわけではなく、“どの区間でも行ってやる”という気概の裏返しだろう。ただ、チーム内の自分のポジションは、しっかりと自覚している。エースが北村で、自分がそれを支える。
「できれば3区を走って、2区の北村さんからタスキを受け取りたい。北村さんが上位で来たら、僕がそれを流れに乗せる。それができれば、チームとしても良い流れになる」

 1年生の野口拓也が成長し、全日本でも区間6位で走るなど、1区を任せられる存在になった。だが、北村が3年間走ってきた5区の後継者や、復路をしっかり走れる選手の育成など、課題は多い。それが下馬評で、駒大・東海大の下に位置づけられてしまう理由だろう。
 しかし、外部からは課題に見えても、毎日一緒に練習をしている当事者には、わかる部分もあるだろう。キャプテンの北村が次のように話していた。
「出雲、全日本が終わって、それまでは未知数の部分が多かったのですが、各選手の特性がわかりつつあります。まだまだ未知数のところもありますが、才能を持っている選手は多いと感じています」
 優勝できるだけの戦力があるとは、現時点では言えない。だが、終わってみたら選手たちがその力を持っていた、という結果になる可能性も、ないわけではなさそうである。


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