2007/12/14 中大共同取材
シーズン前半の危機的状況から、
全日本3位にまでチーム状況を好転させた
中大
上野の出場区間を決めるのは、
上野以外の選手たち

 前回8位のメンバーから5人が抜けた中大。箱根駅伝2008(ベースボール・マガジン社)の記事の見出しにあったように、5000mで北京五輪A標準突破の上野裕一郎(4年)がジョーカー(切り札)となっているチーム。この1年間、メディアに掲載された中大記事のほとんどを、上野の記事が占めてきた。しかし、今回の共同取材では他の選手たちと、田幸寛史監督の話をしっかりと聞けた。“上野以外”に焦点を当てた中大記事が実現した。

危機感
 その上野裕一郎(4年)を5月に取材した際、自身のこととは別に、「チーム状況はヤバイですよ」と話していた。そのチームが、11月の全日本大学駅伝では3位になっている。上野のワンマンチームから脱却していることは明らかだった。田幸監督は「本当のところは、脱却しているかわからない」としながらも、トラックからロードに移行する時期に「このチームはスタートした」とも言う。
「危機感を持ってやっていこう、でも、危機感と絶望感とは違うよ、と選手たちに話しました」
 駅伝初戦の出雲は7位。1区・上野の区間賞で飛び出しに成功したが、2区・梁瀬峰史(2年)で2位に、3区・徳地悠一(3年)で8位にまで後退。まだ、危機的な状況から脱却していなかった。
「不安を抱えて前を走るのは、非常に怖いものだと改めて感じました」(田幸監督)

全日本3位と徳地の成長
 ところが、第2戦の全日本では1区・梁瀬こそ区間13位だったが、2区・徳地で9位に浮上。3区・森誠則(3年)は区間3位と好走し、4区・上野が区間賞で2位に浮上。上野の爆発力を生かすことに成功した。
 後半区間も踏ん張り、5区で山本庸平(2年)が区間3位、7区で加田将士(4年)が区間2位。4〜7区まで2位をキープした。アンカーの8区で平川信彦(3年)が北村聡(日体大)にかわされたが、東海大・伊達秀晃の追撃をかわし、前述のように3位でフィニッシュした。
 全日本の2区はスピードのある各校のエースたちが揃う。区間8位だったものの、そこで徳地が見せた順位をしっかりと上げる走りは、明らかに出雲とは違った。12月2日の記録会では1万mで自身初の28分台(28分54秒62)も記録。
 高校時代は「800 mやマイル(4×400 mR)をやっていた」(徳地)という選手。前回の箱根でも9区区間3位と好走しているが、箱根の9区と全日本の2区は要求される走りが異なる。今の徳地は持ち前のスピードとスタミナが、上手く噛み合ってきたのだろう。今回の箱根では復路ではなく、往路の主要区間候補といえそうだ。

前回メンバー漏れの平川の奮起
 スピードなら森も非凡なものがある。高校時代の記録は5000m14分17秒85、1万m29分05秒74で、3年生の間ではナンバーワンだった(1万mは“ダブル佐藤”に続く高校リスト3位)。昨年は全日本で2区に抜擢されてもいる。徳地と後述する平川の活躍に、刺激されていないわけがない。きっかけさえつかめば、28分台を出せる人材だろう。
 平川は自身のことを「後半の安定感が特徴」と言う。今季の出雲、全日本と最長区間のアンカーを走った。同学年の徳地、森よりも、スタミナ面に特徴がある。しかし、2年時は全日本で6区区間4位で走りながら、箱根ではメンバーから外れている。
「箱根を走れなかったのが、自分にとっては大きなポイントになった」と平川自身が言えば、田幸監督も「去年との違いは走力以上に、チームを担おうという気持ちの違い」と言う。
「オマエがやらないと今年のチームはダメになるだろう、と話したことがありました。わかっています、と答えてくれましたし、この1年間、本当にそう思ってやっているのが伝わってきます。力的にはまだまだですが、そういう思いでトレーニングをしていますから、伸びる要素はあります」
 徳地、森が往路候補なら、平川は復路の長距離区間(あるいは5区?)を担うことになるだろう。

2年生にも注目選手
 全日本では今ひとつだった梁瀬も、11月の上尾ハーフでは学生の部で3位。優勝した阿久津尚二(日大)とは14秒差、ホンダに入社した中大OBの奥田実(Honda)には1秒先着した。仮に箱根で1区を任されても、全日本のようなことはないだろう。
 同じ2年生では山本にも、田幸監督は一目置いている。
「(気持ちの面で動揺しないのは)山本庸平でしょう。彼なら2区と言われても、それで彼の走るタイムが変わることはありません。どんな練習を組んでも、自分のパフォーマンスがしっかりとできる選手です」
 2区の候補と言っているわけではなく、そういった特徴を持っている選手ということである。1年生で7区に起用された前回は区間6位で4人を抜いた。今年の全日本は5区で区間3位と、上野のつくった流れをしっかりと持続させた。
「つなぎの区間なら区間3位以内、主要区間なら順位を落とさない走りをしたい」と本人。やりそうな気配はある。

箱根出場のない4年生
 学年別に紹介してきたので、最後は4年生ということになる。上野裕一郎というずば抜けた選手がいるが、過去3年間の箱根に出場しているのは、現4年生では上野1人だけだ。
「4年生が強いチームは強い、というのが僕の持論です」と田幸監督。「上野がいるので今年の4年生も強いのですが、あまりにも上野が突出しています。4年生の中でもトーンが違う。ただ、今年の上野は以前とは違って、意識してチームのために発言もしています。ここで頑張らないとメンバーから落ちるぞ、とか、この練習は大事だから、とか。チームメイトに頑張らせたい練習の時は、自分のペースを落とすこともいといません」
 問題は、箱根に出ていない他の4年生ということになるが、決して力がないわけではない。加田は全日本7区で区間2位。箱根には5人がチームエントリーに名を連ねた。腐ってやる気がなくなっていたわけではないことが、わかる。
「上野にかなわないのは認めつつ、それでも同じようなやり方をやろうとしてしまった。上下の学年の選手たちは上野は別格と考えて、違うやり方で強くなった。しかし、最後の箱根を前に、“上野と自分”という考え方でなく、チームでやっていく考え方になってきた。自分がやらないと、という危機感も持ったのだと思います。4年生のエントリーが増えたのは、“自分たちの箱根”という意識になっているからでしょう」
 加田以外はそれほどトラックの記録が良いわけではない。往路の主要区間というわけにはいかないかもしれないが、復路や、もしかすると特殊区間の選手としての登場があるのかもしれない。

ジョーカーを切る区間は?
 今年の中大の特徴を紹介してきたが、全てにおいて言えるのは、上野というジョーカー(切り札)の存在が前提としてあることである。上野がいて初めて、今季の中大の特徴が生まれてきた。しかし、こと区間配置ということになると、ある意味、上野以外の選手が状況を左右する。
「今の上野なら、どの区間を走ってもチームで一番強いです。(しかし、上野が一番走れる区間という考え方ではなく)上野がどこを走ったら、チームとしてベストになるかを考えます。(理想としては)上野のところで前に出るか、前と競る状態にすること。仮に守りの状況にならざるを得なくなっても、上野で上げていかないといけません。ただ、その区間がどこになるかは、他の選手がどこを走れるかによって決まってきます。これからの1週間、10日でどうなっていくか」
 箱根駅伝では山の5・6区やエース区間の2区など、ポイントとなる区間が決まると、他の区間が決まっていくこともある。そちらのケースが多いかもしれない。だが、今年の中大は他の区間が決まって初めて、ジョーカーが登場する区間が決まる。キャスティングボードを握っているのは、ジョーカーではない選手たちである。

田幸監督コメント
「これから先は、トレーニングではないと僕は思っています。“気持ち”とひと言でいうとあれですが……“目標意識”だと思います。自分はどこを目指したいのか、どこに立つべき選手なのか。本気になることが大変なのですが、そこが指導者としても勝負だと思っています。現実問題として、今回の箱根駅伝は駒沢さんが強いです。主導権をとっている。現時点ではウチが仕掛けることはできないでしょう。相手が崩れたときに仕掛けられるように、足下を固めるしかありません。ただ、差のない大学駅伝ではあります。崩し方もあります。何番でもしょうがない、と考えるのでなく、勝つことを前提に考えていきます」


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