2006/11/17 東京国際女子マラソン前々日会見
対照的だったトレーニング消化
従来のパターンを微調整して完璧にこなした土佐
チームQの成長で新パターンを試した高橋


 高橋尚子と土佐礼子。練習の消化ぶりは対照的だったようだ。
 会見中に高橋と土佐は、今大会に向けたトレーニングについて、次のように話した。
高橋 5月からボルダーで練習をしてきました。初めて4300mでトレーニングをして、しっかりした基礎づくりをしてきました。しかし、半年間ずっとよかったわけではなく、ケガをしたり、体調を崩したりの繰り返しでした。
土佐 昆明で3週間、東京で1週間から10日間、というパターンを3回繰り返しました。内容はいつもと変わりませんが、監督が昔のメニューとにらめっこをして考えてくれたメニューを、すべてこなすことができたと思っています。

 土佐のトレーニングについて、会見後のカコミ取材で鈴木秀夫監督は次のように話していた。
「これまで(マラソン前の)3カ月で必ず、どこか痛いというのがありましたが、今回は何もなかった。こけることもなかったですね。アテネ五輪の前も強かったけど、あの時はピークが早く来すぎてしまった。アテネではちょうど、下降し始めたところでしたね。練習コースの自己新が出るぞ、とタイムを追いすぎたところがあった。今回はそこまで追い込まず、でも、積極的な持ち味は生かした練習ができた。ロンドンで自己新(2時間22分46秒・02年)を出したときと比べて、マイナスと思える点はありません」
 過去最高の状態、と鈴木監督は言い切っている。

 この話を聞くと土佐有利とも思える。しかし、高橋の“才能”は侮れない。新しいことをしっかり、自分の力にする能力とでもいえるだろうか。小出監督にシドニー五輪前に行った超高地トレーニングが有名だが、それ以前から“常識破り”のレースとトレーニングが、高橋の特徴だった。
 今回はチームQという新しいシステムで、新しいトレーニング・パターンを試した。
高橋 “体の声”を聞きながらトレーニングを進めて来ました。昨年までは、過去5〜6年の練習日誌を見てメニューを決めていました。これをやると決めたら、絶対にやるんだと、かたくなに変更を拒んで、それがケガをした原因にもなったと思います。今回は、これをしないといけない、という考えにとらわれずに、ケガをなくすのを一番の狙いとして、迷ったらチームに相談して練習してきました。去年はチームを立ち上げたばかりで、自分が頑張らなきゃ、という気持ちが強すぎました。その点、今年はチーム力がアップしています。みんな、自分の人生を懸けて私が走ることを支えてくれている。そういう人たちから出てくる意見です。それを聞くことで私が楽になれた。みんなでチームQを作り上げてこられたことが、一番大事なことです。
 チームQという新しい取り組みを、高橋がしっかりと力にできていたら、土佐有利とは一概に決めつけられない。

 従来のトレーニング・パターンを踏襲しながらも、さじ加減を調節し、完璧に消化した土佐。従来のトレーニング・パターンを崩さざるを得なかったものの、新しい取り組みに自信を持つ高橋。2人の30歳台選手の取り組みは、勝敗をつけるのがもったいないくらいに奥行きが深い。


女子マラソン2006-07
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