2006/5/6 国際グランプリ大阪
成迫47秒93 3つの視点
@記録編
日本人2人目にして最年少、
そして国内日本選手初の47秒台

国内で記録を出す成迫と、海外で出す為末(?)


 成迫健児(筑波大)が47秒93と、日本人2人目の47秒台を記録した。
 下のパフォーマンス・リストからわかるように、日本選手の47秒台は為末大(APF)の日本記録だけ。エドモントン世界選手権で銅メダルを取ったときのタイムである。つまり、国内では今回の成迫のタイムが日本人最高記録となる(これまでも、昨年の国体で成迫がマークした48秒09が最高記録だった)。
 エドモントン世界選手権当時、為末は法大所属ではあったが、5年目の学生だった。今回の成迫は47秒台最年少記録でもあったわけである。成迫は48秒台も大学2年の時と、こちらも最年少記録を持っている。

日本選手48秒65以内全パフォーマンス
歴代順 記録 選手名 所属 選手内 年月日 大会 順位 場所
1 47.89 為末 大 法大 1 2001/8/10 世界選手権 3 エドモントン
2 47.93 成迫 健児 筑波大 1 2006/5/3 国際グランプリ大阪 3 長居
  48.09 成迫 健児 筑波大 2 2005/10/24 国体 1 岡山
    48.10 為末 大 法大 2 2001/8/8 世界選手権 2s3 エドモントン
    48.10 為末 大 APF 3 2005/8/9 世界選手権 3 ヘルシンキ
3 48.26 山崎 一彦 デサントTC 1 1999/5/8 国際グランプリ大阪   長 居
4 48.34 苅部 俊二 富士通 1 1997/10/5 日本選手権   国 立
  48.35 成迫 健児 筑波大 3 2005/7/3 日本インカレ   国 立
    48.37 山崎 一彦 デサントTC 2 1995/8/7 世界選手権 1h エーテボリ
    48.38 為末 大 法大 4 2001/7/4 アスレティッシマ 3 ローザンヌ
  48.40 成迫 健児 筑波大 4 2005/9/19 スーパー陸上 2 横浜国際
    48.46 為末 大 APF 5 2004/8/24 オリンピック 3s2 アテネ
  48.46 為末 大 APF 6 2005/8/7 世界選手権 4s1 ヘルシンキ
    48.47 為末 大  法大 8 2000/9/9 スーパー陸上 3 横浜国際
    48.54 成迫 健児 筑波大 5 2004/10/25 国体 1 熊 谷
    48.56 山崎 一彦 デサントTC 3 1996/5/11 国際グランプリ大阪 3 長居第二
    48.57 為末 大 法大 7 2001/7/2   1 ザグレブ
    48.58 山崎 一彦 デサントTC 4 1995/8/31 ユニバーシアード 1 博多の森
    48.59 為末 大  APF 9 2004/9/23 スーパー陸上 1 横浜国際
    48.60 苅部 俊二 富士通 2 1998/5/3 静岡国際 1r3 草 薙
    48.60 為末 大  APF 10 2004/7/23   3 サンドニ
    48.63 苅部 俊二 富士通 3 1997/8/2 世界選手権 1h4 アテネ
    48.63 為末 大  APF 11 2004/7/3 アスレティッシマ 3 ローザンヌ
    48.64 山崎 一彦 デサントTC 5 1995/8/8 世界選手権 3s エーテボリ
5 48.64 斎藤 嘉彦 群馬綜合ガードシステム 1 1998/10/4 日本選手権 1 熊 本
    48.65 山崎 一彦 デサントTC 6 1999/10/2 日本選手権 1 草 薙
6 48.65 千葉 佳裕 順大 1 2001/5/20 関東インカレ   横浜国際

 さて、パフォーマンス・リストからわかるように、成迫個人のタイムは上位5つ全てが国内の記録である。国内パフォーマンス・リスト1・2位が成迫で、上位8傑中5つを成迫が占めることになった。海外最高は昨年のユニバーシアード優勝時の48秒96だ。
 対照的に為末は、48秒65以内の11パフォーマンス中9つの記録を海外で出している。“国内の成迫”“海外の為末”と特徴づけることができる。
 ただ、為末が国内を軽視しているわけではない。昨年の国際グランプリ大阪で成迫に敗れるまで、3年間日本選手には無敗だったし、日本選手権も5連勝中である。国内できっちり勝ち、海外でさらに調子を上げる。それが現在の為末スタイルである。
 しかし、為末が最初からそういうタイプだったわけではない。初48秒台は2000年5月の関東インカレであり、最初の学生記録は同年9月のスーパー陸上だった。海外での48秒65以内の記録は全て、積極的に海外遠征をするようになった2001年以降のものである。

 その点、成迫はまだ学生ということもあり、本格的な海外転戦を行なっていない。シニアになってからは春先のマウントサックに2年連続で行ったのと、昨年の世界選手権とユニバーシアードくらいである。その世界選手権では準決勝に進み(49秒00)、ユニバーシアードは前述の48秒96で金メダル。決して、海外に弱いわけではない。
 成迫が海外に強いタイプかどうかは、本格的に転戦を行うこの夏にわかることだ。いや、山崎一彦の例もある。1〜2年は苦しんでも、その後に結果を出せるようになればいいことだろう。

Aタッチダウンタイム編
成迫の語る自身の課題


 成迫の今回のタッチダウンタイムと、過去の主だったレースは以下の通り。
  06大阪GP 06静岡   05国体 05日本インカレ   04国体 05大阪GP
1台目 5.86 5.86 6.11 6.11 1台目 5.91 5.91 5.95 5.95 1台目 5.87 5.87 5.83 5.83
2台目 9.59 3.73 9.87 3.76 2台目 9.55 3.64 9.69 3.74 2台目 9.62 3.75 9.51 3.68
3台目 13.30 3.71 13.59 3.72 3台目 13.34 3.79 13.47 3.78 3台目 13.34 3.72 13.28 3.77
4台目 17.15 3.85 17.36 3.77 4台目 17.17 3.83 17.34 3.87 4台目 17.13 3.79 17.14 3.86
5台目 21.02 3.87 21.27 3.91 5台目 21.12 3.95 21.22 3.88 5台目 21.07 3.94 21.10 3.96
6台目 24.98 3.96 25.26 3.99 6台目 25.18 4.06 25.38 4.16 6台目 25.18 4.11 25.15 4.05
7台目 29.25 4.27 29.67 4.41 7台目 29.44 4.26 29.71 4.33 7台目 29.44 4.26 29.61 4.46
8台目 33.61 4.36 34.12 4.45 8台目 33.72 4.28 34.07 4.36 8台目 33.82 4.38 34.07 4.46
9台目 38.01 4.40 38.78 4.66 9台目 38.15 4.43 38.63 4.56 9台目 38.41 4.59 38.58 4.51
10台目 42.58 4.57 43.78 5.00 10台目 42.73 4.58 43.15 4.52 10台目 43.12 4.71 43.26 4.68
フィニッシュ 47.93 5.35 49.49 5.71 フィニッシュ 48.09 5.36 48.35 5.20 フィニッシュ 48.54 5.42 48.71 5.45
※計測は全て寺田による手動計時

 成迫はタッチダウンタイムと自身の走りの内容を、次のように自己分析している。
「今日は1台目までは速かった方ですが、2台目は(リズムが)落ちています。いつも1〜2台目で一度、足を合わせるクセがあって、ちょっとスピードに乗り切れていません。2〜3台目で一気にスピードに乗せています。そこで乗せないと、(13歩で行く)6台目までリズムが取れないからですが、それを2台目でリズムに乗せたいですね。それができれば、0.2秒は短縮できそうです」
 1〜2台目間のタイムが、今季の静岡と大阪では、2〜3台目よりも若干遅い。昨年の好タイムの時は1〜2台目が若干速かったが、本来、ここでもう少し稼ぎたい。と同時に、早い段階でリズムに乗せたいという考えだ。為末のタイムと比較すると、成迫のやりたいことがはっきりするだろう。

 ただ、為末と成迫では、400 mの記録は同じくらいでも(為末45秒94、成迫46秒02)、レースパターンが違う。為末は高校時代に400 mを“走りきって”45秒台を出していた頃とは、明らかに違ったレースパターンを確立している。瞬間的にガーっとスピードを上げるのが今の走り方。400 mHの1台目を最速スピードで突っ込み、そこからなだらかにスピードが落ちていく。1台目でリズムに乗せることが身長の小さいハンディをカバーして、前半を13歩で行く走り方にもつながった。100 mの元中学チャンピオンでもある。
 成迫が1〜3台目のタイムを、為末とまったく同じ数値まで高めようとしているのかどうかは、次に取材をしておきたい。

 静岡国際はバックストレートが強い追い風で、ホームストレートは向かい風。その影響もあって9、10台目で大きく減速したが、あまりにも大きすぎたと反省している。
「今日はあの失敗はできないとイメージしていきました」
 10台目を僅かながらアップさせた昨年の日本インカレを特別とすれば、ほぼ、過去の自己記録の時と同等か、それよりも若干いいタイムで最後の2台を走りきっている。
 それでも、海外に出たらどんな選手がいるかわからない。
「隣のバーションは、降りたらすぐに走りに入る体勢がとれていました。やっぱり、後半はすごかったです。思い切り前半で差をつけないと勝てません」
 選手として悔しがるのは当然だが、ジャクソンは昨年のヘルシンキ世界選手権を、今回と同じレース展開で制している選手。ガトリン(米)に敗れた末續慎吾(ミズノ)が言ったように、「相手が悪かった」のだと思う。

Bレース展開編
風に恵まれた47秒台

 47秒台を記録したにもかかわらず、成迫の言葉は弾まなかった。残念か満足か、どちらの気持ちが大きいかと問われ、躊躇うことなく答えた。
「残念という気持ちの方が大きいです。今日の条件だったら、最低でも日本記録は出さないと」
 この日は風がスタジアム内を回っていて、バックストレートもホームストレートも、さらには曲走路部分も、一部を除いて追い風が吹き続けていたという。200 m優勝の高平慎士(順大)や、400 mに出場した為末らも、異口同音に記録の出やすい条件だったことを話していた。
「フィニッシュしたときは48秒5くらいかと思った」
 種目によって条件は違うので断定はできないが、今回は普通の条件下よりも0.5秒前後いい記録が出たと解釈して良さそうだ。

 実際、イアコバキス(ギリシャ)には逃げ切られての3位。48秒17がベストの選手に、48秒09がベストだった成迫が負けたのである。イアコバクスの力が、昨年までよりも一段階上がっている可能性もあるが、成迫の調子自体がまだ、それほど上がっていないと考えた方がいいのではないか。
 日本記録に0.04秒と迫った47秒台とはいえ、数字通りの評価はできない。


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