2006/12/16 全日本実業団対抗女子駅伝前日
区間エントリー決定
三井住友海上、資生堂らは終盤勝負の布陣
スズキ、京セラらの意図は前半のリードで逃げ切り


 13時からの監督会議で、明日の全日本実業団対抗女子駅伝の区間エントリーが決定した。前半でトップに立って逃げ切りたいチームと、5区以降の終盤で勝負をしたいチームに、ある程度色分けされたと言っていい。必ずしも前半型、終盤型と特定できないチームもあるが、まずはその2つに分類し、その上でどのようなオプションがあるかを説明することで、各チームの持ち味を紹介していきたい。

前半型:スズキ、京セラ、第一生命、ノーリツ、九電工、豊田自動織機、ホクレン、しまむら
後半型:ワコール、三井住友海上、資生堂、天満屋、パナソニック

ナンバー チー ム 1区 2区 3区 4区 5区 6区
1 三井住友海上 岩元千明 山下郁代 渋井 陽子 橋本 歩 大平美樹 大崎千聖
4 資生堂 藤永佳子 尾崎朱美 佐藤由美 平田裕美 加納由理 弘山晴美
2 天満屋 泉 有花 浦田佳小里 中村友梨香 坂藤裕美 山岸万里恵 重友梨佐
25 スズキ 松岡範子 松岡裕子 ワゴイ 高橋紀衣 八木洋子 赤川香織
10 パナソニック 吉川美香 高橋富士子 ワンジク 澤田佳恵 杉原加代 藤岡里奈
5 京セラ 石井智子 吉野 恵 原 裕美子 小川美智子 小川清美 牧 英美子
6 ホクレン 赤羽有紀子 酒井直子 フィレス 根城早織 細川好子 佐々木 望
7 しまむら 大島めぐみ 池田麻美 馬目 綾 島崎 愛 小黒久子 小原 悠
12 第一生命 垣見優佳 飯野摩耶 尾崎好美 佐藤さくら 勝又美咲 冨岡美幸
8 ワコール 野田頭美穂 西山弥生 風間友希 新田百恵 福士加代子 湯田友美
13 ノ−リツ 大山香織 稲田 彩 小アまり 内田裕子 岡本治子 池田恵美
14 九電工 橋本尚子 奥永美香 チェピエゴ 竹村理沙 西尾麻耶 森川早矢香
3 沖電気 山田幸代 野呂かおり 平良 茜 牟田ア 茜 宮内洋子 宮内宏子
23 豊田自動織機 新谷仁美 山根朝美 岩本靖代 宮井仁美 脇田 茜 宮崎翔子
全チームの区間エントリーは関西実業団連盟

●三井住友海上
 3連勝中の三井住友海上は土佐礼子が東京国際女子マラソンで受けた脚のダメージが抜けきらずに欠場。しかし、不動の3区・渋井陽子と5区・大平美樹は、前回優勝時と一緒。3区の渋井で上位争いの流れに乗り、5区の大平で抜け出したいという意図だ。鈴木秀夫監督は前回区間2位の大平について「今が一番にいい。福士(加代子・ワコール)さんがいなければ、区間1位も取れる」と、太鼓判を押している。
 問題はむしろ、4年連続6区の大山美樹と、前回4区でトップに立った石山さおりの穴をどう埋めるか。石山は2年連続区間賞の選手。だが、1区の岩元千明も2年前に4区で区間賞を取っている選手で、4区の橋本歩は5000mが15分18秒88。6区の大崎千聖は新人だが、東日本予選アンカーで区間2位を27秒もぶっちぎった。2区の山下郁代が本格的な練習再開は12月に入ってからというが、「素質があるから練習ができてしまえば、戻るのも早い」と鈴木監督は心配していない。
 5区でトップに立つ計算だが、前回のように4区でトップに立つ可能性もあるし、2年前のように2区ということも考えられる。エース区間の3・5区がしっかりしている上で、つなぎの区間も強力なことが三井住友海上の最大の強み。終盤型に分類はしたが、どこでトップに立っても不思議ではない。“どこでも型”と分類できるチームだろう。

●資生堂
 資生堂は予定通り、アンカーに弘山晴美を持ってきた。天満屋も淡路島予選同様に、1区に泉有花を起用した。この起用から、両チームの状態が良いことがわかる。
 資生堂は「弘山にテープを切らせよう」が合い言葉。そのためには、3・5区の佐藤由美と加納由理が、弘山と同じくらいの力であることが前提条件だった。弘山の方が明らかに良ければ、弘山を3・5区のどちらかに起用する予定だった。東日本予選では3・5区で三井住友海上に大差をつけられた(そのときは3区・加納、5区・弘山)。
「佐藤は去年もそこそこ走れていますし(3区区間5位)、安心して見ていられる。加納も順調です。例年より良いですよ」と川越監督。さらに、藤永佳子の調子が上がり、1区を任せられる状態になったことが大きい。
 実は直前の練習では、弘山の調子が上がってきたという。それでも、選手たちの思いを優先した。佐藤が自ら、3区を走ると言い出すなど、チームの気持ちが高まっている。当の弘山も、1カ月前はまだチームの状態に不満も持っていたが、この1カ月でずいぶんと手応えを得た様子。
「いつも“大丈夫なのかな?”と感じるものですが、今年は大丈夫と感じられた。その分、私もアンカーで、ちゃんと走りたいと思います」と弘山。資生堂も3・5区以外でトップに立つ可能性のある“どこでも型”でもあるが、終盤まで先頭争いをして、アンカーの弘山でトップに立つという展開の可能性の方が高いかもしれない。

●天満屋
 天満屋の注目は1区の人選だった。今季、若手トリオの山岸万里恵、中村友梨香、泉有花が大きく成長。山岸が1万mの天満屋記録&淡路島5区区間賞、中村が5000mの世界選手権B標準突破&世界ロード7位入賞と目立ったが、泉もトラックで2人に勝つレースが何回かあった。
 その泉が淡路島予選1区でトップの松岡範子(スズキ)から42秒差と、2位の敗因を作ってしまった。全日本も泉で行くのか、前回区間3位の中村に戻すのか。泉1区が実現すれば、3区・中村、5区・山岸と予定の布陣となる。そして今日の区間エントリーで、1区は泉と決まった。
 武冨豊監督は「泉は一番元気がいい。1週間前の記録会で15分25秒の自己新で走りました。それも、自分でレースを引っ張った」と、好調を裏付けるコメントをした。兵庫県で行われたというその記録会では山岸こそ出場しなかったが、中村も15分28秒と再び好タイムを出した。6区の1年目の重友梨佐が15分32秒、浦田佳小里が15分45秒、4区の坂藤裕美が15分55秒と、泉を含めると4人が自己新。
 泉が好調とはいえ、前半で完全に抜け出すのは難しい。どこのチームにも言えることだが、1区・松岡&3区・ワゴイのスズキが強力なのだ。
「オーダーは迷わずに決められました。5区で優勝争いに加わりたい」
 坂本直子が間に合わなかったが、武冨監督は優勝狙いを変更していない。

●スズキ
 前半型の代表がスズキだろう。1区の松岡範子は淡路島、スーパーレディースと1区で連続区間賞。国際千葉駅伝でもフィレス(ホクレン)に続いて区間2位。5区起用の可能性もあったが、最終的には1区ということに。スズキサイトによれば、「松岡1区なら、そこでリードしたいと」小沢欽一監督は話している。そして3区には、淡路島で福士加代子(ワコール)を抑えたワゴイ。スズキが前半をリードする可能性はかなり高い。
 しかし、今のスズキは前半だけではない。後半の5区には八木洋子がいる。昨年の世界ハーフマラソン代表。予定していた名古屋国際女子マラソン前に故障をして、今年前半は苦しんだが、秋に復帰すると5000mで自己記録に近いタイムを連発。淡路島では5区で、やはり故障上がりだったとはいえ、原裕美子(京セラ)を抑えて区間2位に。
 4区の高橋紀衣、6区の赤川香織も5000mで15分台を記録するなど、チーム全体の底上げも進んでいる。3区までのリードで“逃げ切れる可能性の高い前半型”がスズキである。

●京セラ
 京セラも従来は5区だった原裕美子を3区に起用し、前半でリードをした布陣となった。完全復帰して1カ月ちょっとだが、それまでもじっくりと戻してきたのだろう。この1カ月の昆明の練習では、過去最高ともいえるものがこなせたと、スタッフは証言する。「自分のところで波に乗れるように、波から絶対に外れないようにしたい」と本人。
 そのためにも、1・2区の出来がカギを握る。石井智子、吉野恵と5000mでスピードのある埼玉栄高OBコンビを並べた。淡路島には間に合わなかったが、大森国男監督によれば、特に石井の状態がよくなっているという。2人が完全に力をもどしているかどうかが、京セラが前半でリードできるかどうかを左右する。

●パナソニック
 パナソニックも1区に1500mアジア大会代表の吉川美香、3区にワンジクなので、前半型のようにも見える。しかし、5区にアジア大会5000m銀メダルの杉原加代が控える。今季は1万mや1人で走るシーンにも進境を示している。前半は上位の流れに乗り、杉原で勝負という布陣だ。
 アジア大会直後の2人の状態が気になるが、杉原は今季2回、春と秋に2週連続の試合を試している。吉川も通常は、パナソニック全体のメニューをこなし、試合が近づくとスピード練習を多くするパターンで成長してきた。1500mと6kmの切り換えは、それほど難しくない。
 5区で勝負する布陣ではあるが、前半でリードする可能性もあり、“どこでも型”に近いチームといえるだろう。

●九電工
 九電工もかなりやりそうだ。2区にスピードでは日本人エースの奥永美香を起用。5区のマラソンで頑張っている西尾麻耶、1区に橋本尚子という布陣。2区に奥永を持ってきたのは、橋本の調子がいいからだろう。1・2区をセットにして考えてトップに近い位置にいれば、浦川監督が安心し適用できるという3区のチェピエゴでトップに立つことも可能だろう。
「3区まででトップグループ、最低でも5位以内につけたい。つなぎの区間も充実してきたので、前半の貯金で後半いかに粘れるか」だと浦川監督。

●その他の前半型チーム
 ホクレンは1区に赤羽有紀子、3区にフィレスを起用。赤羽が出産後間もないということで、3・5区への起用を回避したが、状態は思った以上に上がっているようだ。フィレスが東日本予選3区区間2位、国際千葉駅伝1区区間賞と安定した強さを見せている。赤羽の頑張り次第では、3区でトップに近い位置につけることができるだろう。
 前回2区区間賞の根城早織が4区に回り、中盤を固める。5区の細川好子が踏ん張れれば、スズキと同様の展開を期待できる。
 第一生命は1区に注目の垣見優佳、3区に1万mにも心境著しい尾崎好美と、前半に主力を投入。しまむらは1区に田中めぐみを起用したからには、そこで逃げたいところ。ノーリツも1区・大山香織、3区・小崎まりと投入する。5区の岡本治子が2001年の3区以来、久しぶりのエース区間。岡本次第で、上位に食い込む力のあるチーム。

●ワコール
 ワコールが今年も5区に福士加代子を起用してきた。1区の野田頭美穂が好調で、トップに近い位置はキープできる。永山忠幸監督によれば、2区の西山弥生が「1区で多少後れても、前との差を詰められる」と話すくらいに好調。ポイントは今回も、3区の風間友希ということになる。2年前は区間10位と好走したが、前回は疲労骨折で出場できなかった。そして、5区の福士がアジア大会の疲れが、どこまで取れているか。
「3区は風間本人が志願してきた。今年前半は練習できなかったが、ようやく上がってきた。粘りの走りをしてくれるでしょう。福士は疲れがないと言ったらウソになるが、今年最後の締めのレース。ドラマをつくってくれるでしょう」と永山監督。
 優勝候補に比べ、選手層が薄くなるチームは通常、前半に主力を投入し、上位の流れに乗ってレースを進めようとするのがセオリー。その点、ワコールは1・2区に自信があるとはいえ、前半でのビハインドを覚悟した布陣。選手個々が、流れに左右されず、しっかりと走ることが求められる。「4区が終わって1分以内の差なら上出来」と同監督。福士と6区の湯田友美でどこまで追い上げられるか。後半のハイライトとなる。

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