2006/3/19 千葉国際クロスカントリー
ショート日本人トップは徳本
故障を機に動きを変えたのが奏功
甦った徳本らしさ


 一般男子4000mは徳本一善(日清食品)が2位。優勝したヨルゲ・トレス(米)にはラスト勝負で4秒差をつけられた。一度、前に出ろと合図をされたときに、徳本が厳しいというニュアンスで手を振った。その直後に一気にスパートされてしまったという。
「今日は海外のレースのようだと感じました。タイミング合えば付いて行けたかもしれませんが、(現実的には)そういった揺さぶりがありますし、世界クロカンではもっとあると思います。その辺が反省であり、収穫でもあります」
 しかし、「トレスは海外のレースで3〜4回、一緒に走った選手で勝ったのはおそらく1回だけ。自己ベストが13分15秒の選手なので、自分のベスト(13分26秒19)を考えたら妥当というか、よくやったと言っていいくらいの結果」という自己評価。ただ、アフリカ勢ならともかく、「アメリカやヨーロッパの選手には勝ちたい。今日の負けは悔しいですね」と、満足はしていない。

 とはいえ、徳本が好調なのは明らかである。福岡国際クロスカントリー(10km優勝)に続く日本人トップ。上野裕一郎(中大)、前田和浩(九電工)の2人に11秒差をつけた。一昨年から左ヒザを痛め、昨年はほとんど棒に振った(8月には手術も)。ニューイヤー駅伝では4区6位といまひとつだったが、2月の姫路城ロード(10マイル)、両クロスカントリーと持ち前の勝負強さが甦っている。
「正直、痛みは2割くらいあります。特に気候が悪いときは、筋がこりこりしたりするので気をつけないといけません。でも、走っていても痛みが3割4割と増していくことがない。この1年間は無駄じゃなかったと感じています。歯車がカチッと合った感覚です」

 故障からの復調過程で自身を変えることができたのが大きかった。中距離が強い選手らしくバネの効いた大きな動きが特徴だったが、そこにこだわるのをやめた。
「以前は大きく、蹴る動きでしたが、その走りではヒザが持たない。ドクターと相談して、ヒザを(それほど)使わない動きに変えました。一か八かの賭けではありましたが、それしか選択肢はないと考えたんです。JISSでトレーニングを始めたときは、こんなのでいいのか、と思ったほど地味なトレーニングでした。でも、アルペンの佐々木明選手や、サッカーの小野伸二選手も同じようなところを故障して、同じように(リハビリ用の)トレーニングをしている。彼らと話をすることで自分の視野も広がり、このトレーニングで大丈夫と思えました」

 実際の走りは、以前と比べ少しコンパクトになったということだろう。トラック選手がマラソンに転向すると、ふくらはぎや足首にかかっていた負担が、より体幹に近い部分にかかるようになるという。その方が、長い時間を動かすことに対しては、耐久力が高い。
「以前はふくらはぎやアキレス腱に来ていましたが、今は臀部とハムストリングに来ています。それに、疲れても腸腰筋を無理やりに動かせる感覚があります。動きが変わった証拠だと思います。ニューイヤー駅伝の頃はまだ、動きがバラバラでした。それが今は、体の使い方が上手くなって、無意識でもできるようになったと思います」

 世界クロカンはロングにするのかショートにするのか、あるいは出場しないのか、レース後の時点では未定。徳本自身はショートへの出場を希望しているが、陸連からは両種目に出場するよう要請されたという。「行く行くはマラソンを」と言い、来冬には初マラソンも視野に入れている徳本が、ショートを希望しているのには理由がある。
「僕なりのプライドがあってのこと。日本選手権までは5000m中心にやっていきたいんです。昨年は欠場しましたが、“オレが走っていたら勝っていた。4連勝なんだ”とアピールしたい。その後、1万mの自己新も出したいし、駅伝も今年はチームが10位だったので頑張りたい。記録的には13分20秒を切りたいですね。今年、5000mと1万mでA標準(13分21秒50と27分49秒00)を切れるようでないと、マラソンで通用するかといったらクエスチョンです。そこまで行けば、(マラソンで)世界と戦えるレベルです。でも、来冬のマラソンでいきなり2時間7分は出せるかわかりません。マラソンがどんなものか、試すレースになります。その点、トラックは何年もやってきていますから、集大成という思いはあります。A標準は切りたいですね」

 スタミナが基礎となる選手もいれば、弘山晴美(資生堂)や高岡寿成(カネボウ)のように、スピードが基礎と位置づけている選手もいる。徳本はタイプ的には後者である。何より、自身のビジョンをはっきり持ち、強い意思でそれを貫くのが持ち味といえる選手。その部分が一回り大きくなって戻ってきた。


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