2005/4/24 兵庫リレーカーニバル
沢野大地
兵庫で最も“世界”を感じさせた選手


●ダメだったこと
 兵庫リレーカーニバル。世界的に見て最もレベルの高いパフォーマンスを見せた日本選手は、間違いなく棒高跳の沢野大地(NISHI A.C.)だった。なんと5m50から跳び始め、これを2回目に成功すると5m60は1回目、5m70も2回目にクリアした。昨年より一段と、余裕を持ってこのレベルの高さをクリアしているように見えたが、ちょっとしたアクシデントも発生していた。
「5m70の1回目で脚がつってしまったんです。こむら返りのようになって、右のふくらはぎがブルブル震えてしまいました。これが一番ダメでしたね。まだ、ぴったりフィットしていません」
 昨年のアテネ五輪では試合中に脚がつっている。その原因が、余分な力が入っているからと分析し、今季は「脚がつらないこと」も目標の1つに設定していたのだ。
 しかし、失敗を経験すれば、対処法もなんとかなってくる。
「伸ばして、足首を回して、1回走って、このくらい力をかけるなら大丈夫かなと、色々と対処をして、上手く力が抜けて5m70の2回目を成功することができたんです」
 5m81の日本新は3回とも失敗したが、今季も日本記録を更新するのは間違いないと予感させた。
「最後の1本がちょっと惜しかったですね。踏み切った後の体の位置がよかった。(それ以外は)ポールから体がバラバラに離れてしまいました。その辺を上手く制御できれば、81も通過点となるはずです」

●10cm長いポール
 選手の進歩が、一冬越えてここに表れている、と明確に言い切ることはなかなかできない。だが、棒高跳のように、使うポールや握りの高さが違ってくれば、ある程度は目安となる。冬期トレーニングの成果がどこに現れていると思うか、という質問に対し沢野は次のように答えた。
「わかりやすいのは、使えているポールです。握りの位置も上がってきています」
 ポールの耐荷重(ポンド)と硬さ(フレックスナンバー)は変わっていないが、10cm長いポールを使えるようになった(5m10)。握りの位置も、正確に計測しているわけではないが、7〜8cmは高くなっているという。この日は跳び始めの5m50からどんどん「ポールが軟らかく」感じるようになり、何回かポールを変えている。
「10cm伸ばしたことで、どう使えるかがまだ、わかっていませんでした。今日で、このくらい使えるとわかってきました」
 この日、最終的に使っていたものより上のレベルのポールを、あと4本用意しているという。さすがに、そこまでのものになると、練習で扱えるポールではない。つまり、試合で5m80、90、あるいはそれ以上の高さに挑むときに初めて使用する。
「(試合でいきなり使うことになるが)できると思います。日本新のときは去年も一昨年も、初めて使うポールでした。その辺は気持ちが大事です。不安を持っていたらダメだし、使えると思えれば大丈夫です」
 その自信をつかむには、試合と練習で課題のチェックと克服を、1つ1つしていく必要がある。1週間前に千葉県で出た記録会は5m60で、「やりたいことは1つもできなかった」が、兵庫では「先週よりできたことが多かった」と言う

●沢野の余裕
 10cm長いポールを使えるようになったのは、ここが進歩したからと、原因を1つに特定できるものでもない。
「直接的にどれが、とは言えませんが、トータルでそうなったのだと思います」
 そのうちの1つとして、助走について沢野は話した。
「先週よりも、よくなっています。ポールの降ろし方や、ピッチアップの仕方などですが。力を入れるポイントを、しっかりとできるようになった。身に付いたというより、自分で意識できるようになったという感じです。先週の助走はまだスーッと進んでいるだけでしたが、今日は一歩一歩、地面に力が伝えられていく走りでした」
 そういったトータル的な力の向上が、“余裕”になって現れる。沢野が今季、“こうありたい”ということの1つに、5m60、70という高さを余裕を持ってクリアすることがある。この日は、跳躍によって若干のバラつきがあったが、成功したときの試技は本当に、余裕を感じさせるものだった。5m50から跳び始めても、“記録なし”に終わるのではないか、とハラハラさせられることはなかった。
「練習でいつも、5m50くらいから始めます。問題なく跳べる高さです。ということにプラスして、そういう考え方をしていかないといけません。50、60がスタートの高さなんだと。オリンピックで5m40から跳び始めたのは僕だけでしたから」
 2位とは60cmの大差だった兵庫リレーカーニバル。他人との差というよりも、沢野自身の余裕が感じられた。その余裕が、ヨーロッパ遠征や世界選手権での安定した記録につながっていく。その過程で、どこかで日本新も出るだろう。


春季サーキット&国際グランプリ大阪2005
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