2005/10/25 国体3日目
来季を期待させる男子ハンマー投
2位の野口が67m10と関東学生記録に肉薄
3位・碓井はシーズンベスト、4位・八鍬も自己新


 成年男子ハンマー投は室伏広治(ミズノ)が出場せず、ナンバー2の土井宏昭(千葉・ファイテン)が70m71で順当勝ち。2位の野口裕史(北海道・順大)が67m10と、順大の先輩である川田雅之の持つ関東学生記録(67m50)に40cmと迫った。3位の碓井崇(埼玉・チームミズノアスレティック)は66m81のシーズンベスト、4位の八鍬政之(秋田・秋田市陸協)は66m01と自己記録を27cm更新した。

 5投目だった。記録表示板に「67m」の数字が出たとき、野口は「50(cm)を越えてくれ」と念じたという。67m50は川田雅之が1979年にマークした関東学生記録。当時は学生新だったが、それはもちろん、室伏広治によって73m82と更新されていた(1996年)。室伏の記録は次元が違うため目標にはしにくい。野口も「川田さんの記録を4年間のうちに更新できれば」と、関東学生記録の方を最大の目標としていた。
 野口のシリーズは63m76-66m45-×-×-67m10-×。
「2投目に自己新が出て、エイトに入ってからもリズムよく投げられました。4投目にさらにイメージを固めようとしたんですが、力が入ってしまいましたね。肩が上がって足を着くのが遅くなってしまったんです。5投目はスイングから力を抜くことを意識して、ターンの最後まで上手く流れたと思います」

 力を抜くコツを覚えたのは、9月の教育実習中だった。昨年の日本インカレで65m81を投げた野口だが、今季前半は自己記録に迫ることができなかった。冬期練習のウエイトトレーニングで筋力をアップさせたが、投げの技術と噛み合わなかったのが原因だという。しかし、教育実習中に出た9月の北海道選手権で、雨の中にもかかわらず64m台のシーズンベストが出た。
「雨でダメかと思っていたら逆に、上手く力を抜くことができ、リズムをつかんだんです」
 具体的には、4回転のリズムを1・2・3・4と上げていくが、シーズン前半は4でスピードが若干落ちるリズムになっていた。それを、力を抜くタイミングを覚えたことで、4までリズムアップすることができたのだ。実家の母親の手料理のおかげで、体重も3s増えて96sになった。
「それでも、体感的には重くなった感じがしませんでした。今はさらに2sアップさせて、98sです」
 10月9日の群馬リレーカーニバルで、66m09と1年3カ月ぶりに自己記録を更新。そして今回、初めて67m台をマークした。

 ウエイトの数値はベンチプレス120s、フルスクワット180s、ハイクリーン130s、デッドリフト220sと、投てきのトップ選手の中では低い方。野口の特徴は技術的な部分だろう。ターンのキャッチは天性のものがある、と海老原亘コーチから指摘されている。早く接地ができれば回転速度も速くなるし、ハンマーに力を加える時間も長くなる。今後の課題は筋力アップと、重心移動だという。それができれば――。
「ハンマー投で70mは1つの壁ですが、選手にとっては夢の数字でもあるんです。僕も大学に入った頃は65mを投げられたらいいかな、と思っていました。そこまで行ったら満足しちゃうのかな、と。でも、3年時に65mを投げてから、次は70mと思い始めたんです。就職は未定ですが先生にも相談して、競技が続けられる環境の就職先を探してもらっています。仮に就職できなくても、気合で何とか頑張ります。26〜27歳まではウエイトも上がるとコーチから言われています。そこから先は、何か技術をつかまないと伸びないのかもしれませんが、それまでは、何があってもやめるつもりはありません」
 今季の大きな試合は国体が最後だが、1週間後の記録会に出る予定だという。

 3位の碓井は66m81のシーズンベストだったが、昨年出した68m81の自己記録をちょうど2m下回った。近年、室伏、土井に続くナンバー3のポジションをキープしていたが、10月に入って実業団対学生、群馬リレーカーニバル、そして今国体と3連敗を喫した。しかし、調子は良かったという。前日の練習では69m前後の距離が出ていた。
「メンタル面の弱さが出ました。一度、なんとかして勝たないとダメです。勝たないと自信がつかない」
 しかし昨年も、絶好調で臨んだ地元の埼玉国体でなく、その直後の筑波大記録会で自己新を出している。4位の八鍬を含めて上位選手が充実しているのは確か。3人とも今季中に自己記録を更新する可能性も残っているが、来季は70m越えを新たに複数の選手が達成する可能性も出てきた。
 勢いを付けるためにも、土井には東アジア大会で好成績を残して欲しいところだ。


寺田的陸上競技WEBトップ