2005/10/9 シカゴ・マラソン
ジェンガ、4年連続3位以内の快走も
勝負を仕掛けられなかった理由とは?


「勝てないですよね。うん、勝てない。ホント、この大会はもう、勝たないといけなかった。そういう気持ちが強すぎて、焦っていたのかな。もうちょっと、自然に任せた走りをした方がよかったのかもしれません」
 ダニエル・ジェンガ(ヤクルト)のレース後の感想である。2002年は2時間06分16秒の高岡寿成(カネボウ)と同タイム、胸の差で逆転しての2位だったが、ハヌーシ(アメリカ)には20秒届かなかった。一昨年はルット(ケニア)に1分以上差をつけられての3位、昨年はルットに1分半差の2位。そして今回は、優勝したF・リモ(ケニア)とは12秒差。3年連続2時間7分台とハイレベルで安定しているが、勝利からは見放されている。

 これまでのシカゴは、自身で勝負を仕掛けられなかった。その反省から今年は、自らが仕掛けるはずだった。安田亘監督がレース後、その辺の事情を説明してくれた。
「思い切りがないんじゃないかな。ホワイトソックスのスタジアムあたり(38km)で勝負しようと、レース前に話していたんです。そこを過ぎて北に向かう直線に入ると、どの選手もスパートを予想するだろうから、その前にと。実際、35kmでは余裕があったと言うんです。駅伝みたいにスパッと行ってくれたらいいのに。ロンドンで失敗したから、慎重になってしまったのかな」
 ロンドンの失敗については、ジェンガ自身は「最後の疲れの取り方が上手くいかなかった」と話しているが、ジェンガに“構える”傾向があるのは感じられる。今年2月の東京国際マラソンで優勝した際も、スパートした大崎悟史(NTT西日本)を慎重に追って最後に逆転したが、慎重すぎる部分も感じられた。

 ジェンガは今回、2年連続で敗れているルットを気にしすぎてしまったという。
「38kmで出ようと思いましたが、ルットが気になって出られませんでした。怖いというよりも、彼がスパートしたときに対応しないといけないと考えてしまって。そこに気を取られていたら40kmを過ぎてしまっていました。リモとマイヨはそれほど注意していませんでした。それで、2人がスパートしたときに対応できなかった。切り換えられませんでした」
 油断とは、少し違うだろう。昨年、高岡が話してくれたことだが、レース中に色々と考えると疲れてしまうのだという。ジェンガはルットに気を使うことで、消耗してしまったといえそうだ。

 安田監督はレース中、自転車で移動をして6カ所で応援した。そのうちの1つが20マイル地点。「残りのの6.2マイル(約9.98km)を30分を切れれば、29分55秒くらいで上がれば勝機もある」と思っていた。実際の20マイル通過は1時間37分00秒だったという。ジェンガのフィニッシュは2時間07分14秒で、残り6.2マイルは30分14秒で安田監督の希望よりも9秒遅かった。優勝したリモとの差は12秒…。
「きっちり走ってくれる選手だけど、それだけでは歴史に残らないよね。ここまで来たら、歴史に名前を残してくれないと」(安田監督)
 次のレースは、今年の東京国際マラソンのように勝つレースをして、記録を狙うのはその次になりそうだという。できれば、スカッとした勝ち方をして、記録に挑戦して欲しいところ。2時間5分台は変に構えたりしなければ、現在でも条件さえ整えば出せるだろう。それは、本人もそう感じている。しかし、2時間4分台の世界記録となると…。
「監督と相談しますが、怖いメニューをやらなければいけないでしょう」
 その練習ができれば、もっと思い切ったレースができる。そのときジェンガは、歴史に残るランナーになれる。


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