2004/4/10 金栗記念選抜中・長距離熊本
杉森が本格復帰戦でアグレッシブな走り
1500mで4分17秒24の自己新


 女子1500mは、800 mで室内だが2分00秒78と、五輪B標準を破っている杉森美保(京セラ)の復帰が注目された。スタート直後にルーシー・ワゴイ(スズキ)が猛烈な速さで飛び出し、一瞬つくかどうするか迷った杉森だったが、すぐに食らいつくことを決め、ワゴイの背後についた。400 m通過は1分03秒と超ハイペース。2周目に入ると徐々に引き離され始めたが、とても、腰の手術からの本格復帰戦とは思えない積極的な走りだった。

ワゴイ 杉森
距離 通過 スプリット 通過 スプリット
400 1:03.3 1:03.3 1:03.6 1:03.6
800 2:10.7 1:07.4 2:12.9 1:09.3
1200 3:20.3 1:09.6 3:24.1 1:11.2
1500 4:13.14 52.8 4:17.24 53.1

「いきなり800 mを走るまでのスピードはまだないので、ちょっと長めの距離で感覚を取り戻そうという狙いでした。でも、4分15秒は切ろうと思っていました」

 杉森は02年の高知国体で1500mに優勝しているが、そのときはスローペースに助けられたような格好で、最後に400 m53秒台のスピードが威力を発揮しただけ、という展開。記録は4分22秒32だった。「1500mはちょっと…」というコメントも聞かれたように記憶している。それが、03年4月に椎間板ヘルニアの手術をし、スパイクを履くのは同年3月の世界室内以来というブランクにもかかわらず、この積極的な走り。そして、「4分15秒を切りたかった」という自信。練習をしっかり積んで復帰してきたことが伺えた。

「手術する前より調子もだいぶ上がってきました。同じメニューでもタイムが上がってきましたし、4000mを走った後の400 mをシューズで58秒台で行くことができています。8月末まで埼玉でリハビリをして、9月にチームに合流しましたが、また悪くしてしまって、ちゃんと練習ができ始めたのは11月から。その後1回、貧血になったり、色々あったのですが、2月から練習が軌道に乗りました。今年に入って大森監督がずっと、直接指導してくださったのがよかったと思います」

 手術前と同じ笑顔で話す杉森だが、一時は「どん底だった」という。

「手術をした直後は、頑張ろうと前向きに思えますが、リハビリしていて自分の脚じゃないみたいな感覚でした。フォームも揺れてしまうし、バランス感覚も崩れているみたいで。普段の生活中ですら、おかしいと感じていました。もう1回トラックに立てるのか、大丈夫なのかと、心配になりました。でも、周りの人たちが支えてくれました。(目の治療で)入院中の監督とも電話で連絡を取って。今は、あきらめなくてよかった、と思います。スタートラインに立てたことが、本当に嬉しいです。すごく多くの人たちが応援してくれて、そういった人たちの顔を思い出しました」

 しかし、リハビリ過程の練習で、何かを上積みできないことには、前述のような自信を得るトレーニングにまで進むことはできないだろう。

「筋トレを初めて本格的にやりました。それまで、腹筋背筋は人より著しく劣っていたんです。陸連合宿では私1人できないメニューも多かった。それを今回、リハビリ段階で基礎から筋トレをやりました。腹筋は本当に3回しかできなかったんです。それが5回になり、10回になり。今は9種目を30回、それを3セットくらいできるようになりました。最初は1セットに40分かかりましたが、今は25分で3セットやれる。ヘルニアになったのも、筋力がなさ過ぎるのに、それ以上の練習をしていたからなのかもしれません」

 この充実した練習の成果を結実させるのは、6月の日本選手権。種目はもちろん、800 mだ。そして、杉森の前進は、そこにとどまらない。

「兵庫リレーカーニバルと石川の試合にも出ますが、タイムを狙うのは日本選手権になりそうです。800 mで日本人初の1分台を絶対に出したい。その後は800 mを中心に400 mと1500mにも、ある程度は出たいと思っています。1500mは故郷の埼玉で国体があるので、日本記録くらいは出したいですね。その後は駅伝です」

 頑張りすぎないことを願いたくなるが、きっと、その手の老婆心的な心配はもう、要らないのだろう。笑顔は手術前と一緒なので表情だけではわからないが、腹筋は外見的にも明らかに違ってきているようだから。


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