2004/12/11 全日本実業団対抗女子駅伝前日
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11日、全日本実業団対抗女子駅伝の監督会議、開会式が行われ、区間エントリーが決まった。2強の三井住友海上と京セラは、選手個々が充実した結果、実績のある選手が故障でなく外れるほど。資生堂、UFJ銀行も現時点のベストメンバーが組めた。
対して、第一生命は羽鳥智子が故障で欠場、天満屋も松岡理恵を欠く陣容となってしまった。そして、意表を突くオーダーを組んだのがワコール。福士加代子を5区、野田頭美穂を4区に配し、3区を新人に任せたのだ。
区間エントリー一覧
●ワコール
5区に福士、3区は新人・風間
珍しい後半勝負の布陣
福士加代子を3区でなく、5区に起用してきた。昨年5区区間5位の野田頭美穂を4区に。近年の駅伝では珍しく、前半を凌いで後半で追い上げようという布陣だ。永山忠幸監督は1年前から、福士の5区が構想としてあったという。
「福士が走った後に残っている距離を考えたら、3区よりも5区の方がいいと判断しました。実際に勝てる確率は低いですけど、仮に3区でトップに立っても、守り抜くのは難しい。それよりも、4区までを粘って射程距離にいて、福士でひっくり返した方が勝つ可能性は高いでしょう」
福士は故障の影響で26位に終わったアテネ五輪後、初のレースとなる。まだ、絶好調ではないというが、「気持ちで走るタイプ」(永山監督)という特徴から、いい流れで福士にタスキが渡れば「練習ができていなくても、カッ飛んでいける」と、永山監督は期待を寄せる。
1区の鈴木亜弥子は去年区間5位と好走した選手。2区の湯田友美は世界ジュニア3000m4位で、現在も好調だという。3区の新人・風間友希は加古川翌週の北陸女子駅伝6区(8km)でワゴイ(スズキ)に次いで区間2位(1分16秒差)。「福士に負けない練習」(永山監督)ができているという。
「1・2区で乗せて3区でどれだけ粘れるか。野田頭は加古川と北陸で思い切りのいいレースができなかったので、あえて短い区間(4区)にしました。思い切った走りを期待しています。後半の1区という位置づけで、もう1回差を詰めていこうということです」
永山監督の戦略が的中するかどうか。選手たちに実行できる力があるかどうか。
●三井住友海上
1区に大平を“抜擢”
前回区間賞の橋本が外れる層の厚さ
「もう5年目。2区や4区をやってる場合じゃない」と鈴木秀夫監督は大平美樹を1区に抜擢した。今季、1万mで31分54秒44を出している選手に対して“抜擢”という言葉を使ってしまう点に、三井住友海上の強さがある。土佐礼子、渋井陽子、坂下奈穂美(昨年大会後に結婚して退社)が長距離区間をきっちり走っていたから、そう感じてしまうのだろう。元々、1500m〜5000mのスピードがあり、下記のように2・4・6区に出場してきた。三井住友海上の3回の優勝は土佐と渋井の2枚看板の成長で実現したが、大平も1回目からつなぎの区間で貢献してきた。その大平が、1万mでも31分台を記録し、ついにポイント区間の1区を担う。
2000年 4区・区間5位(チーム1位)
2001年 6区・区間9位(チーム1位)
2002年 2区・区間1位(チーム2位)
2003年 2区・区間2位(チーム1位)
「若い選手に2区と4区を走らせれば、2〜3年後に10km区間に行けるようになるかもしれない。それをやっておかないと、ボーンと落ちてしまう」
三井住友海上の長期戦略を実現しつつあるのが大平と言えそうだ。
反面、前回1区区間賞の橋本歩が、メンバーから外れてしまった。故障や体調不良ではなく、現在の調子で押し出されてしまった。「4日前の最後の2000mが6分02秒で外れました」と鈴木秀夫監督。昨年は6分01秒の石山しおりが外れたという。橋本も中距離から距離を伸ばし、今年は初1万mで31分53秒57と、5000mで15分18秒88と2種目でチーム一番の記録を出していた。その選手が外れてしまうのだから、恐るべき選手層の厚さだ。
3区は6年連続で渋井。国際千葉駅伝で調子が悪いなかで区間2位。五輪メダリストに迫る走りで自信を付けた。今回のチームは「穴がない」と、テレビインタビューに答えていた。
●京セラ
3区・阿蘇品の復調ぶりと
前回逆転された6区・小川の成長がカギか?
1区に国体5000m優勝の吉野恵、2区に全日本実業団&国体1500m優勝(800 m五輪代表)の杉森美保とスピードランナーを並べ、3区に昨年、福士加代子(ワコール)を上回った阿蘇品照美という前半の布陣。杉森は3.3kmを走りきれると判断しての起用だろう。本人も「区間新が目標」と、単なるつなぎのつもりはない。むしろ、シーズン前半に故障があった阿蘇品が、昨年のようにトラックで記録を残していない(32分15秒94がシーズンベスト)。三井住友海上の渋井、資生堂の弘山についていけるかどうかが、(どちらに転ぶかわからないという意味で)ポイントになる。
4区に前回1区の吉田佳菜(ポイント区間の力があるということ)、5区に前回3秒差で区間2位の原裕美子。この2人も実績がある。むしろ、後半のポイントは6区の小川清美だろうか。昨年は予選の淡路島でワコール・鈴木亜弥子に、本大会では三井住友海上・大山美樹に、2回ともアンカーで逆転された。今年の予選である加古川では1区で区間賞。今回も1区候補と思われたが、敢然と前回の失敗区間に挑んできた。
大森国男監督は小川の、この1年間の成長を強調。大丈夫と繰り返していたという。アンカーで大きなドラマを演じる力は十分についているといえそうだ。
キャプテンの高仲未来恵が外れたのは、三井住友海上の橋本歩と同様、他の選手たちの力が充実したから。それと、高仲の得意とする距離の問題もあった。世界ハーフマラソンの代表となるなど、本来は長めの距離が得意の選手。10kmでも高仲がフルに力を発揮するには短いのかもしれない。10km区間は阿蘇品と原が受け持ち、6km以下の区間に杉森が加わってくると、どうしても弾かれるのが高仲になってしまうのだ。
京セラが優勝するには昨年(アンカーまで競り合っての2位)のように、この大会に全員が合わせられたかどうか。そこが、一番のポイントになるだろう。
●資生堂
佐藤が初の1区
弘山以下は絶好調、5区の加納が踏ん張れば…
佐藤由美が、三井住友海上の大平美樹と同様、初めて1区に起用された。
1999年 不出場 (チーム20位)
2000年 4区・区間6位(チーム13位)
2001年 不出場 (チーム4位)
2002年 6区・区間6位(チーム4位)
2003年 6区・区間3位(チーム3位)
佐藤も京産大では1500m・5000mで大活躍した選手。入社6年目で初めてポイント区間に起用された。
東京国際女子マラソンで嶋原清子を2位(日本人トップ)と快走させた川越学監督は、今回の布陣を次のように説明した。
「5区の加納(由理)が東日本予選より確実に上がってきましたが、優勝を意識したときにどうか、というところもあります。が、他は絶好調。1・2区はトップと秒差の集団で持ってこられるでしょう。(3区の弘山晴美はかつてない好調さで)さらに絞れて来た感じ。4区の嶋原も、ちょうど東京の疲れが抜けてきて、練習の2000mでは6分10秒の自己新が出ています。短い距離では絶好調ですね。5区の加納がどれだけ踏ん張れるか。6区の藤永も練習の3000mを9分15秒で行っています。アンカー勝負になったら面白いですよ」
これまで、個々の力はありながら駅伝ではなかなか、力を凝縮して発揮できなかった資生堂。公式ガイドの写真も「V1」の人文字。今回は、例年以上に気合いが入っている。
●天満屋
松岡を欠くもチーム力は充実
天満屋は3区をアテネ五輪マラソン7位の坂本直子、5区を1年目の中村友梨香と県西宮OB2人が長距離区間を担う。しかし、同じく兵庫出身の松岡理恵が結局、メンバー入りできなかった。11月24日の八王子ロングディスタンスには出場したが、その後、踵を痛めてしまったという。とはいえ、「チーム全体としては最も充実している」と篠原太コーチ。天満屋といえば山口衛里、松尾和美、松岡理恵、そして坂本直子と日本代表マラソン選手を輩出しているチームだが、3年前の今大会では4区の山崎智恵子、6区の北山由美子の2人が区間賞を獲得。つなぎの区間できっちり走っている印象があった。今回、そのうちの1人、北山がメンバー入りできなかったにもかかわらず、底上げがされているという。
「以前は山口と一番下の選手ではすごい差がありましたが、今は、坂本と下との差が小さくなってきています。5000mの平均は一番いいでしょう。ただ、それが駅伝に結びつくのかどうか」
最後は、生身の人間がタスキをつなぐ難しさにも言及していたが、世界選手権代表を欠いても、天満屋が上位に食い込む力が十二分にあることは間違いないようだ。
●パナソニックモバイル
1区・杉原が東日本女子駅伝の調子なら
3区ワンジクでトップに進出か
「1区でトップに立ちたいが…」と、やや歯切れが悪いのはパナソニックモバイルの星善市監督。1区の杉原加代は昨年の日本選手権1500m優勝者。元々5000mを目指していた選手で昨年も1区区間4位、今季はさらに進境が大きく、東日本女子駅伝1区で区間賞(6kmを19分05秒)を取った。3区J・ワンジクはケニア五輪代表で、5区の高橋富士子はハーフマラソンで日本のトップレベルの選手。アンカーの川村美香も絶好調だという。
ところが、「杉原本人が調子がいまひとつと感じてしまっています。絶好調ではありませんが、普通だと我々は思っているのですが」と、懸念も生じてしまっている。しかし、「不安の方が大きいのは2区くらい。残りは楽しみな区間ばかり」という。東日本予選はワンジクと藤岡里奈を欠いて9位と低迷した。今回も10月に32分23秒で走った藤岡を欠くのは痛いが、「5位に入りたい」と言う星監督の目標を達成する力は十分にあるチーム。
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