2004/11/7 全日本大学駅伝
11年ぶりの快挙
駒大が1区から一度もトップを譲らず優勝
独走を可能とした
「選手たちの、前に出たら絶対に譲らないというプライド」
(大八木監督)

 あまりの駒大の強さに他のチームが圧倒された。実際のタイム差はそれほどでもないが、1区でトップに立つと、一度も他チームに並走を許さなかった。これは、1993年の早大以来の快挙。早大には花田勝彦、櫛部静二、武井隆次のトリオが4年生で、渡辺康幸が2年生、小林雅幸が1年生と錚々たる顔触れが揃っていた年だった。

 1区の佐藤慎吾が10km直前で飛び出した。徐々にリードを奪おうという意図の走りではなく、相手の意表を突く一気のギアチェンジ。正確な距離はつかめなかったが、最大で40〜50m差を2位につけただろうか。最後は京産大と東海大に差を詰められ、中継所までトップを維持できるか危ぶまれたが、終盤で踏ん張った点がすごかった。2位に6秒差で佐藤は逃げ切った。
 区間2位の京産大、3位の東海大が、終わってみれば戦力的に駒大に迫るものがなかった(東海大は中井祥太が起用できなかった)。結果的に総合力のあった日大、中大、山梨学院大、順大、日体大といったチームに差をつけたのが、その後の流れに大きく影響したといえる。区間4位の山梨学院大に17秒、距離にして100 m以上の差があったのだ。

 キャプテンの田中宏樹も次のように話している。
「慎吾は後半に飛び出していいことになっていました。予定の範囲です。それができる力もありました」

 2区の齋藤弘幸が、その流れをさらに決定的にした。10月下旬の日体大記録会で28分30秒台をマークし、調子が上がっていることを自覚もできていた。日大のサイモンに区間賞を譲ったが、38分22秒で区間2位。区間3位の中大・上野裕一郎には17秒差、区間4位の日体大・北村聡には29秒もの差をつけた。上野、北村、伊達秀晃(東海大)と1年生のスピードランナーたちが注目されていたが、3年生の齋藤の強さが光った区間となった。
「慎吾がいい流れを作ってくれて、日大のサイモンと40秒差があったので、変なプレッシャーがなくリラックスして走れました。前にいたら追うつもりでいましたが、トップで来てくれたので余裕を持って走れました。1年生が多く、負けられない気持ちも強かったですよ。後ろの区間も強いので、安心して見ていられました」

 3区の本宮隆良が区間4位で日大・武者由幸に10秒差を詰められたが、流れを損なうことはなかった。4区の田中が区間1位。日大・岩井勇輝を37秒引き離して57秒差として、独走態勢を固めた。5区・柴田尚輝、6区・村上和春も連続区間賞。区間2位を大きく引き離したわけではないが、後続に付け入る隙を与えなかった。

「予定通り」と田中は言ったが、ここまで完全な独走劇だけを想定していたわけではない。
「2・3区でリードをどこまで保てるか、そして4・5・6区が勝負だと考えていました。それでも、2区以降の独走も、予想していたことなんです。いい練習ができていましたし、油断では決してなく、普通に走れば勝てる自信がありました」

 指揮官である大八木弘明監督は「(一度もトップを譲らなかったのは)たまたまですよ」と謙遜しつつも、それを可能とした要因を次のように話した。
「選手たちの自信でしょうか。前に出たら、絶対に譲らないというプライドです。出雲では(最終区で逆転されて)負けましたが、納得できる負け方で、雰囲気は悪くなかったんです」

他校指導者たちの駒大独走の評価
心理戦の側面も
日大・小川監督は箱根へ手応え


 他校の監督たちも、駒大の強さに半ば、あきれていた。
 大エースの中井祥太を欠いたとはいえ、前回優勝から8位と順位を大きく下げた東海大の大崎栄コーチは、駒大の強さを次のように説明した。
「1区であれだけ積極的に行けたのは自信があったからでしょうが、きつくなったところであれだけ粘れるのは、実業団なみ(1区のことを指しているのか、全体的のことを指しているのか不詳)。守りに入った練習ではできないことかもしれません。ただ単に、付いて練習をする時代ではなくなりましたね。これからはもっと、実戦的な練習をしないと。練習をする時間が欲しいですね。片手間ではダメです。実業団なみに練習量や治療に時間をかけないと。それにしても駒大は強い。ここで駒大を叩いておかないといけない、と他校の監督たちとも話してたのですが」

 2分30秒差で3位に入った中大の田幸寛史駅伝監督は、悔しさを隠そうとしない。
「今回のテーマだった前半が、機能しませんでした。駒大の前でレースをして、どれだけ駒大を困らせられるかを、今回やってみたかったんです。駒大が見えるところでレースをしたかったですよ。結局、どこも駒大と並んでいないわけです。並んだらやれる、という怖さを少しでも与えたかった。後手後手に回ってしまいました。
 今回の差がウチと駒大の差かと言ったら、そうでないかもしれないのに、イメージとしては駒大の強さばかりが強調されてしまった。こういう戦い方では、勝ったチームを勢いづかせるだけ。記録よりも、こういう場での勝負が大事なんです。1区の15位でスタートして、3位に上がったのは評価できても、一番つまらない3位ですね」

 4位の山梨学院大・上田誠仁監督も「久しぶりに“強いな”、と感じました。なんで、あんなに早く逃がしてしまったのか。競り合って(自チームも)ハイペースに持って行ければ、また別の展開になったかもしれませんが」と、田幸監督と似たことを口にした。

 唯一、日大の小川監督が、強気な姿勢を見せた(大崎コーチ、田幸監督、上田監督も弱気というわけではなく、駒大の強さを冷静に評価しただけであるが)。
「サイモンも後半がいまひとつ、伸びませんでした。結局1区の差が、狭まったり広がったりして、最後まで追いつけませんでしたね。追いかける展開で、抑えようとしてもどうしても、無理をして追った部分があった。収穫は5・6区ですね。一番心配していた5区の福井が秒差の2位でしたし、6区の阿久津も区間6位ですが悪くありません(区間1位と12秒、同2位とは5秒差)。今まで、ウチのチームに区間2位とか、なかったですから。
 1分差以内なら、負けても合格点と思っていました。今日は80点くらいでしょう。去年は、悪い状態でここを終わりましたが、今回はある程度の手応えはあります」
 小川監督のこのコメントは、8区の正確な記録と順位がわかっていない時点で聞いたもの。3区の武者と5区の福井が区間2位だったほか、8区の下重正樹も59分18秒で区間3位と健闘していた。

 田幸監督も収穫として、8区の池永和樹の走りを挙げた。
「僕らには予想できていたことですが8区の池永が、他校には怖いと映ったんじゃないでしょうか。高橋、上野以外にもメンバーがいることをアピールできたかと思います」

 駒大の独走も、他校の好材料と思える部分も、心理戦の一環となって箱根駅伝につながっていく。


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