2004/12/10 箱根駅伝チームエントリー
記者発表会&トークバトルから判明したこと

 12月10日、従来は東京体育館など千駄ヶ谷近辺で行われていた箱根駅伝のチームエントリー後の記者発表会が、今年は恵比寿ガーデンプレイスに場所を移して行われた。

@東海大・中井が欠場

 チームエントリー段階で判明した大物選手の欠場は、東海大の中井祥太くらい(もう少しレベルを落としたり、高校時代の実績で見た場合は、他にも数人いるようだが)。中井を入れておいて他校を牽制する方法を、東海大はとらなかった。
 大崎栄コーチは中井欠場に関して、次のように説明した。

「当初は(中井を入れておいて)メディアの盛り上がり等も考慮しましたが、底の方の選手がドングリでしたから、中井を入れておく余裕がありませんでした。彼には無理に上げようとしないで、スパッと切り換えて、来年のトラックを狙おうと言っています。中井が完璧だったら2区・伊達、5区・中井というオーダーも見てみたかったですけど、いないものはいない。練習していない者に走れと言っても無理です。本人にも選手たちにも、出雲の前から中井は使えないと伝えてあります」

 チーム状況に関しては、全日本で8位と大敗したが、箱根ではかなり上の方を狙える状況だ。大崎コーチは「1万mの平均が6番目だから、6位が目標かな」と、冗談めかして話してはいるが、会見とトークバトル中の以下のコメントからも、意欲が感じられる
「練習でやってきたことは昨年以上なのですが、出し惜しみをしてしまっていますね。夏合宿など、実業団の合宿へ預けて練習を消化し、質的には昨年を上回っているんです。しかし、出雲、全日本では出し切れませんでした。箱根が最後ですし、4年生を煽っているのですが、なかなか上がってきません。反面、新戦力として、上尾ハーフでジュニア日本最高を出した1年生の伊達が伸びてきました。彼を中心に行ければ、番組的にも、(視聴者が)チャンネルを回すこともなくなるでしょう。なんとか駒大さんに食らいついて、後ろから追うチームと仲良く行きたい」
 仮に優勝ができなくても駒大の独壇場にはさせたくない、2位争いにはきっちり加わりたい、と解釈できた。

A注目される中大の区間配置

 記者会見後のティーパーティー懇談時やトークバトル、イベント終了後の関係者間の雑談を通じて、中大の選手起用区間が大きな話題となっていた。優勝候補本命の駒大が2区候補も含め平均的にレベルが高いのに対し、中大は個々の選手の特徴が顕著で、起用区間によって力の発揮の仕方、引いてはレースの流れに及ぼす影響も違ってくると思われるからだ。駒大も個々の選手を細かく見れば特徴があるが、中大は6区に野村俊輔、絶対的なエースとして高橋憲昭(11月23日の府中ハーフで2位の駒大・田中に1分29秒差を付け優勝)という“計算できる”選手がいるだけに、選手起用がより戦略的になる。
 会見後のティーパーティー中の懇談で、田幸寛史駅伝監督が山の位置づけと野村について、次のように話していた。

「登り候補も2人、育てています。簡単なものではありませんが、登り下り合わせて“山”で勝負をしたいですね。野村の場合、試合でダメでも(11月末の日体大長距離競技会で30分33秒98。28分台は大学2年時)、練習の流れはダメじゃありません。潜在能力は高いのですが、それを爆発させるところまで到達していません」

 野村の6区起用は決定的で、田幸監督も「カップ(最優秀選手賞の金栗杯)を持って帰りたい」と明言。しかし、他の有力選手の起用区間については複数の可能性を示唆し、周囲の予測を何一つ肯定しなかった。

 トークバトル中に、隣に座る監督のチームの2区を予想するコーナーがあった。田幸監督の横は順大・仲村明駅伝監督。
仲村 (中大の2区は)高校時代から私が欲しかった高橋(憲昭)選手でしょう。
司会 上野裕一郎選手はどこに?
仲村 1区でしょう。1・2区で飛び出して貯金を作っておけば、山には野村選手がいますから。
田幸 後で仲村監督に区間配置を決めてもらいます。

 こあたりは、探り合い、駆け引きをしているようでもあるが、予想をしても各選手の直前の状態で起用区間が微妙に変わってくる。箱根駅伝独特の、一種の“ショー”のようなものだ。ティーパーティー時に「高橋には、藤原の中大2区記録を破って欲しい?」と質問を受けると、田幸監督は次のように話していた。
「記録はわかりませんが、区間賞は取って欲しいですね。ただ、高橋の区間は、中大にとって爆発のしどころ。序盤に持っていくか、中盤に持っていくか、なんとも言えません。大八木さんは2区と思ってらっしゃるようですから、その裏をかきたい気もするし、裏の裏をかきたい思いもあります」

 つまり、2区と思わせておいて4区、4区と思わせて2区、ということも考えているわけだ。
 中大には高橋、上野の他にもう1人、全日本大学駅伝のアンカーで区間2位、日体大長距離競技会でも28分59分04で走った池永和樹がいる。この3人をどう、組み合わせるかだが、11月23日の府中ハーフでは、全日本大学駅伝の1区で区間15位だった山本亮が立て直し、高橋と駒大3選手に続き5位に食い込んでいる。
 そういった情報を総合的に考え、上野3区という声も、イベント終了後に聞かれた。トークバトルの際に青葉昌幸関東学連駅伝対策委員長も「今回の箱根は2・3区を合わせて2区と位置づける考え方ができる」と話していた。
1区 山本
2区 高橋
3区 上野
4区 池永
6区 野村
 と起用したら、6区終了時点でトップに立ち、それなりの差を付けることも可能だろう。
 ただ、陸マガ増刊箱根駅伝2005の記事にあるように、つねに優勝することを求められ、勝ちに行くオーダーを組む中大は、9区など復路にも主力選手を起用するのが伝統。佐藤信之(現旭化成)を10区に起用したこともあった。単独走にも強い池永が9区ということも、十二分に考えられる。そうなると、府中で中大勢3位の小林賢輔や田村航、家高晋吾の中から、1・2・3・4区を担う人材が育つ必要があるが、本番の選手起用はさて……。

B早大・渡辺新監督の天真爛漫ぶり

 今年でまだ31歳、同じ学年には国近友昭(エスビー食品)や尾方剛(中国電力)という現役バリバリの選手がいる。若くして名門校の指揮官となった渡辺康幸監督の、初めての記者発表(&トークバトル)の一日を見させてもらったが、監督となっても選手時代と同様に天真爛漫ぶりが光った。

 指導者に対して天真爛漫という形容詞は失礼だと言う人もいるだろう。筆者も最初は、そう思って使用するのをためらった。だが、天真爛漫という言葉自体に失礼な意味はない(人柄・行動などが無邪気でくったくがない、の意)。仮に、指導者に思慮深さが求められたとしても、天真爛漫と思慮深さは、イメージは反対でも1つの人格の中で両立するものだろう。指導者が天真爛漫だったらいけない、と思うのは、“指導者の性格はこうあるべきだ”と決めつけているだけだろう。既成概念に縛られた思考以外の何ものでもない。

 渡辺監督の選手時代のエピソードで、次のような出来事があった。アトランタ五輪(最終?)選考会の日本選手権1万mで、渡辺監督は3位となった。そのときの4位がエスビー食品先輩の平塚潤現城西大監督……やっぱり、このエピソードはやめておこう。もう少し、時間が経ち、渡辺監督が指導者として実績を残してから紹介した方が、説得力を持ちそうだ。

 周囲が渡辺監督から天真爛漫を感じる一因に、自身の競技者としての実績を変に謙遜しないことがある。以前、まだ引退前の陸マガのインタビューで(たぶん、99年の箱根駅伝の展望別冊付録)、「2区で1時間6分台を出すには、1万mで27分台が必要」と答えていた。自分の持っている区間記録である。「条件や運が良ければ、何人かにチャンスはある」といった答え方をする日本人の方が多いのではないか。屈託がないというか、堂々とした答え方で、オッと思った記憶がある。しかし、話している内容自体は、冷静な分析に他ならず、ある意味、自身を客観視できる選手なのではないか、とも感じた。

 そういった部分が、監督になっても変わっていないのだ。記者発表とトークバトルから、渡辺監督らしさを感じた部分を紹介しよう。

「悪い伝統を排除し、良い伝統を残しました。特にスピード強化に意識を置き、トラックレースにも積極的に出場してきました。その成果が出て、予選会はトップ通過ができました。例年、山が弱いのが早大の特徴でしたが、今年は春から(山の要員を)強化してきました」(共同会見から抜粋)

「当初は僕のやりたいことや練習方針が上手く選手に伝わらず苦労しましたが、夏以降にやっと伝わるようになって、僕の色が出てきたと思います」(トークバトルの前半部分から抜粋)

 質問に対し回答をフリップに書くコーナーで、他チームで欲しい選手は?という質問に“10年前の僕”と書いてから。
「正直に言えば、伊達(東海大)も松岡(順大)も、上野(中大)も全部欲しい。箱根を通り越して世界選手権やオリンピックで戦える選手が欲しいですね。箱根の出身選手で諏訪(利成・日清食品)や尾方(剛・中国電力)が頑張っていますが、在学中にオリンピックを狙える選手が欲しい」

 テレビや講演では、細かく丁寧に説明することはできないので、考え方・概念を象徴する言葉をポンと話す必要がある。とはいえ、ちょっとヒヤヒヤするコメントが続くのが渡辺監督。その辺も天真爛漫という印象を与える一因だが、囲み取材の際に突っ込んで質問をすると、“表面的な言葉”に込められた意味の深さを知ることができた。
 まずは、高校のエリート選手が欲しいという部分。1年前の本戦で大敗した際も、当時コーチだった渡辺監督は「まず、自分のようなエリート選手を勧誘して入学させること」と話していた。まるで、“大学に入ってからコツコツ努力して伸びる選手”は必要ないと言っているような誤解をされそうな言葉だが、突っ込んで聞けば、そういった部分も大事にしようとしていることがわかる。
 同学年の尾方の活躍についてコメントを求められると、次のようにも話していた。
「尾方も国近も苦労をしていますよね。マラソンはコツコツやった者が報われます。箱根も距離が長いですから、一般受験でもコツコツやって、メンバー入りしてくる選手がいる。ウチの大学だけでなく、そういった選手を大事にしないといけないと思います」
 超エリートを取りたいという理由は、早大の推薦入学枠の少なさと関連していた。
「(早大の)ラグビー部の監督も言っていたことですが、一流と超一流は違うんです。ウチの大学は推薦枠で入学できる選手が極端に少ない。今、競走部全体で3枠なんです。他の大学みたいに10人、20人とは取れない。だから、超一流を確実に取らないとダメなんです」

 トラックのスピードを重視するという話も、練習自体をガラッと変えたわけではない。
「早大がずっとやってきた(故中村清氏以来の)リディアードの練習法で、それは壊していません。スピードと言っても目をトラックに向けさせるだけで、練習の流れ自体は変えていません。まして、自分のやった練習をそのままやらせようとしたら、みんな壊れてしまって2〜3人しか残らないでしょう。量は同じくらいやっていますが、質は落とさないと。優勝を狙うチームができていく過程で、質も徐々に上がっていくと思います」

 伝統を排除した、という部分だけを聞くと「いったい何を変えたんだ。どんなすごいことをやったんだ」と、周囲は色めき立つ。だが、詳しく聞けば、「なるほど、そういったところか」と感じる程度だろう。2〜3、渡辺監督に例を挙げてもらったが、外部の人間には残してもいいし、やめてもいいし、どっちでもいいような部分だった(もう少し詳しく説明してもらえば、なるほどと思えるかもしれないと感じたが)。

 要は、渡辺監督の表面的なキャラから、指導者としての能力を決めつけてはいけない、ということ。もちろん、今回指摘した部分だけで指導者として優れている、と言えるわけではない。評価はあくまでも、ここに書いた内容でなく、結果でされるべきだ。


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