2005/1/3 箱根駅伝
28分台にこだわらなくなった駒大
4連覇の裏に“練習への自信”
駒大が4連覇を達成できた一番の要因は、陸マガの箱根駅伝展望増刊の箱根駅伝2005に書いたように、各学年に中心となる選手、上級生となってエースとなる選手をキチッと育てていることだろう。それを毎年、選手が入れ替わるなかで途切れさせずにやってのけてしまう大八木弘明監督の手腕と情熱は、本当にすごいと思う。
この、一番の要因とは別に、駒大がレース本番で力を発揮できる、チームとして1つの力となるように集中できる一因に、1万mの記録を出すことにこだわらなくなった点が挙げられる。年末の共同取材や今回のレース後の取材などから、そう感じられた。12月29日の区間エントリーでは3区に齋藤弘幸(3年)を置いていた。それをレース当日、1月2日朝に井手貴教(3年)に変更してきた点にも、その考えが表れていた。
齋藤は11月の全日本大学駅伝2区では、サイモン(日大)に次いで区間2位。1区で佐藤慎吾(3年)がトップに立ち、その差を大きく広げて独走態勢を固める快走を見せ、田中宏樹(4年)、塩川雄也(4年)、佐藤と並び、駒大の4本柱に数えられていた選手である。また、今回の駒大には1万mの28分台は3人いるが、その中でも10月に28分36秒64と、今回の駒大メンバーの中では最高記録を出していた。
その齋藤が、11月の大島合宿で故障をしてしまったという。確かに、11月23日の府中ハーフに出場していなかった(全日本の最長区間を走った塩川は別として)。その後は回復し、今大会にも出られないこともない、という状態だったようだ。そのような状況となった場合、エース格選手の回復に賭けて(期待して)、起用してくるのが普通だろう。齋藤は01年のインターハイ5000m2位(日本人トップ)とトラックでの実績もある。世代の限られたなかでの選手権とはいえ、全国大会で実績を残した選手というのは、試合への集中力(調整法)が優れているものだ。
ところが今回の駒大は、齋藤をあっさりと変更した。井手も府中ハーフで田中に迫るタイムでチーム2位になるなど、他チームなら間違いなく主力となれる選手だが、できれば齋藤を起用した上で、他の区間に投入したかったというのが本音だろう(齋藤の調子が12月29日以降で、大丈夫と判断できればそのまま出場させたのだろうが)。
総合優勝が決まった後の会見で、今回がベストメンバーではなかったのではないか、と問われた塩川は次のように答えている。
「ベストメンバーで出られれば、それに越したことはありませんが、ウチのチームはそういった状況にも対応できます。力のある選手を使うのが無難な方法かもしれませんが、中堅以下の選手層も厚くなっています。(力はあっても)不安のある選手を起用するよりも、調子のいい選手、勢いのある選手を起用する方がいい。今回走った10人が、今のベストメンバーだったと思います」
だが、28分台選手に賭けなくてもいい、と、どこで判断できるのであろう。
以前の駒大は28分台の選手が今の倍以上はいた。大八木監督も「28分台の選手を10人揃えてみたい」と話していて、実際に99年大会で6人、01年と02年にも6人の28分台ランナーを揃えた。しかし、03年大会は3人、04年は2人、そして前述のように今大会は3人。しかも、田中は3年時の記録で、この1年間は28分台を出していなかった。
00年に初優勝し、02年以降も勝ち続けるなかで、28分台にこだわる必要はないと大八木監督が感じ始めたのだ。11月末から12月初めの記録会で28分台と頑張った選手が、箱根駅伝本番に調子を合わせられないことも多かった。今回の28分台選手の齋藤と糟谷悟(3年)も、10月の記録会で出している。細かく検証してはいないが、02年以降はその年の28分台選手数のうち何人かは、前年の記録ではないだろうか。
大八木監督は次のように話している。
「28分台を出さなくても、(箱根駅伝に向けて)上げていけます。ウチのトレーニングをやっているなかで、28分台の手応えは感じられますし、それをロードにぶつければ行けるとわかってきました。神屋(伸行・日清食品:02年に4年)のあとくらい、松下(龍治・富士通:03年に4年)くらいからですね。確かにアベレージを28分台に、と考えていた頃もありました。藤田(敦史・富士通)や佐藤(裕之・富士重工)の頃(2人とも99年に4年)はまだ勝ったことがなくて、そういう気持ちが強かったのですが、勝ち方がだんだんわかってきて、(試合で記録を出さなくても)練習でこれをやったらというのもわかってきたのです。以前の選手に比べ、今の選手にタフさがなくなってきているというのもあります。昔はガンガンやれましたが、今の選手はすぐにオーバーワークになる」
選手たちのコメントからも、28分台にこだわっていないのがわかる。齋藤は28分36秒64を出したときのことを、次のように振り返った。
「28分台の記録は持っていなくても、練習は以前のレベルでやれている自信がありました。条件さえ合えば記録は出ると思っていましたし、出すことにこだわっていたわけでもないんです。でも、出雲に出られなかったので、(10月後半の記録会で)28分台を出して、大八木さんに安心して全日本に使ってもらいたかった、という気持ちはありました」
この1年で28分台を出していない田中も、次のように話した。
「9月の記録会が蒸し暑かったし、外国選手のペースメイクもよくありませんでした。そのなかで29分04秒67で走り、レース展開や順位でアピールできたと思っています。ウチの主力が全員出て、そのなかで負けませんでしたから。それが自信にもなりました」
1万mの自己ベストが29分52秒58の井手も、まったく気にしていなかった。
「高校の時の記録ですから。大学ではまだ、2回しか1万mを走っていないんです。ハーフや5000mの方が多いんですよ。実際、練習では走っていますから、条件が良ければ29分前後では行けます。糟谷(齋藤と同じレースで28分55秒88)と同じくらいは出せる自信があります。佐藤と齋藤には、まだ勝てないですけど」
つまり、佐藤と井手を加え、今年も5人の選手が28分台の力があることになる。太田貴之(4年)も故障さえなければ、前回の1区区間2位の走りから判断して、28分台を出せるだろう。このように、練習のこなし方で潜在的な記録を判断でき、箱根駅伝の走りも予測ができる。だから、今回のように齋藤に代わる選手を躊躇なく起用でき、井手や柴田のように上級生になって初めて出場する選手も、大きな不安を感じることなく本番を走ることができるのだ。駒大の強さは色んな角度から指摘できるが、28分台という表面的な記録にこだわらなくなった点も、間違いなく駒大の強さを示している。
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