アテネ五輪9日目(8月27日)寸評
■決勝種目
<男子>
・110 mH
・50kmW
・棒高跳
<女子>
・1万m
・4×100 mR
・やり投
チャイニーズ・デイ!
劉翔が12秒91の世界タイ&2種目で金
男子110 mHはA・ジョンソン(米)を予想していたが(詳しくはPREVIEW記事参照)、2次予選で転倒してしまった。そうなると劉翔(中国)の楽勝かと思ったが、準決勝でデゥクレ(仏)が13秒06と大会前の自己記録を0.12秒も上回る快記録。今季世界最高に0.01秒と迫るタイムを出してしまった。そのときのリアクションタイムは0.200秒と遅いし、顔を上げたままのスタートは加速がまったく効いていないのだが、後半はグンと伸びる。劉も簡単には勝てそうになかった。
しかし、結果的には4レーンの劉の圧勝だった。7〜8レーンの選手との差はどうだったかわからないが、隣の3レーンのドゥクレにはスタートから1台目で大きく差をつけた。中盤以降も劉は素早い足の刻みで後続を寄せ付けない。反対にドゥクレは終盤、連続してハードルを倒し、完全にリズムを狂わせて後退した。
あくまでも相対的なスピード感だが、10台目を越えてから一段と加速した感じの劉。2位以下に大差をつけてフィニッシュ。12秒91と世界タイ記録までマークしてしまった。2位に0.27秒という大差は珍しいと思って調べたら、88年ソウル五輪でR・キングダム(米)が2位のC・ジャクソン(英)に0.30秒差をつけていた。
それにしても、今大会は13秒39の日本新をマークした谷川、13秒06の自己新をマークしたデゥクレ、12秒91の劉翔と、大会前の自己記録を0.1秒以上更新した選手が目に付いた。技術的な共通点があるのだろうか。
女子1万mは最後、エチオピア3選手と中国の?慧娜XING Huinaの争いに。?慧娜XING Huinaはジュニア世界記録を昨年のパリ世界選手権で出した(7位)選手だが、まさか、ラストに強いエチオピア勢にまとめて勝てるとは思わなかった。日本育ちのルーシー・ワゴイ(ケニア)がラスト勝負に加われなかったのは残念。
中国はこの日2個の金メダル。陸上競技全体でも2個で、中国強し!を印象づけた。が、考えてみたら日本も金メダル……は1個か。
女子やり投をテレビで見ていたら、「メネンデス(キューバ)が世界記録に1cmと迫った」というアナウンス。「フェルケ(東独)の80m00に迫ったのか?」と一瞬、我が耳を疑った。が、やりはとっくの昔に規格が変更されていた。とはいえ、オリンピックの投てき種目でここまでレベルの高い記録が出るとは思いもしないこと。賞賛に値する一投だったと思う。
女子4×100 mRはアメリカの2走・ジョーンズと3走・ウィリアムズがバトンミス。オーバーゾーンで失格した。考えられる原因は以下の4つ。
1)若手のウィリアムズがマークを見誤った
2)ジョーンズが終盤、減速した
3)100 mで自己新(銀メダル)を出したウィリアムズの成長が著しく、ダッシュが速かった
4)上記2)と3)の両方
もちろん、どれに該当するか立証する手だてはない。
男子棒高跳は優勝予想が的中し、マック(米)が5m95で金メダル。持ち記録よりも今季の勝負強さを買ったのだが、オリンピックで5m95の自己新を、あと1回失敗すればスティーヴンソン(米)に敗れてしまうというシーンで跳んでしまうとは思わなかった。
■日本選手
<男子>
・50kmW 谷井孝行 山崎勇喜
・4×100 mR予選 土江・末續・高平・朝原
・4×400 mR予選 山口・小坂田・伊藤・佐藤
・棒高跳決勝 沢野大地
<女子>
・1万m 福士加代子 田中めぐみ 弘山晴美
両リレーで予選突破
決勝のカギを握る末續&小坂田の走り……いや、全員でしょう
男子4×100 mRは1組5位だったが、2組4位のチームだけでなく、3位のブラジルのタイムをも上回って決勝進出を果たした。
2組4着取りでなかったのが幸いしたという意見もあるが、2組4着取りは4ラウンドある場合の準決勝のみ。16チームしか出場しない種目の最初のラウンドで、いきなり「+」がないのはあり得ない。ラッキーではなく、実力を発揮しての決勝進出と言えるだろう。
しかし、解説の伊東浩司氏も指摘していたように、末續がいまひとつ。高平もまだ、完全に自分の走りを取り戻してはいなさそうだ。あと1日でどこまで調子を上げられるか。
男子4×400 mRは2組2位(3分02秒71)。本当に各選手の特徴を上手く出したレースだった(それを狙った走順だったのだが)。
1走の山口有希(東海大)が1〜2位につけ、前半を飛ばせる小坂田淳(大阪ガス)がレーンがオープンになって1〜2位につけ、最後は抜かれてもトップと僅差にとどめる。3走の伊藤友広(法大)は前半で力を使わずにスピードを出す点に課題があったが、上位の流れに乗ることでそこを克服できた。4走の佐藤光浩(富士通)は最後の直線の強さが特徴。最後の直線に入ってオーストラリアとジャマイカにポケットされて心配させたが、思い切って外側に出てその2チームをフィニッシュ直前で抜き去った。あの状況でよく判断できたと感心させられた。
テレビ画面で計測した4選手のスプリットは以下の通り(音で押して、フィニッシュタイムの差で1走のタイムを調整)。
1走 45秒53
2走 45秒76
3走 45秒46
4走 45秒96
インタビューで「(バトンを叩き落とされた)シドニー五輪の借りは返しましたね」と問われた小坂田が、「全体的には返しました」と、答えていたのは、自身の走りに不満が残ったからだ。最後は失速して4〜5番手まで下がってしまったのだ。前半の順位が幸いして一番内側でのバトンパスだったため、3走の伊藤がすぐに3番手に上がることができたので事なきを得た。しかし、決勝で同じように走ったら、追い上げてくるチームも予選より多いはず。同じように行くとは限らない。小坂田の走りがカギをにぎることになるかもしれない。
3走と4走も、前半がそれほど速くなかったことが幸いした。決勝では各走者の前半が予選以上に速くなるかもしれない。その辺にどう対応するかだが、各選手が今日よりちょっとずつでもいい走りをするしかないだろう。
棒高跳の沢野大地は5m55を2回目に成功して13位。ノーミスでこの高さだったら11位。5m65に3人(8〜10位)、5m75にも3人(5〜7位)、5m80が1人(4位)、5m85以上が3人(5m85=3位、5m90=2位、5m95=1位)というのが高さ毎の内訳。惜しかったと言えば惜しいことをしたが、決勝のトライアルで負傷して欠場した昨年の世界選手権からは、確実に一歩前進。日本の跳躍エース(と、言っても差し支えないだろう)のアテネ五輪は、次への期待を持たせて幕を閉じた。
男子50kmWは残念ながら見られなかったが、山崎勇喜(順大)が3時間57分00秒で16位。過去の日本人五輪最高順位の17位(68年メキシコ五輪・斉藤和夫)、最高記録の4時間03分12秒を上回った。短距離でいえば16位は準決勝レベルである。20kmWを途中棄権したのは50kmWに賭けるため。評価していい成績だったのではないだろうか。
20kmWで15位&1時間23分38秒と五輪日本人最高順位&記録を残していた谷井孝行(日大)は、逆に50kmWは思いっきり行きすぎたのかもしれない。失格に終わった。
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