アテネ五輪6日目(8月24日)寸評 

■決勝種目
<男子>
・1500m
・3000mSC
・十種競技後半
<女子>
・400 m
・100 mH
・棒高跳

イシンバエワが4m91の世界新!
4m80で攻守逆転した試技展開

 男子1500mは超スローペースの展開からエルゲルージ(モロッコ)がロングスパート。3周目を53秒28、最後300mを38秒97で駆け抜け、最後の直線でB・ラガト(ケニア)に少し前に出られたようにも見えたが、差し返した。五輪初優勝。
 シドニー五輪は自国の同僚選手をペースメーカーに仕立てて失敗した。公式には準決勝で大腿裏を痛めたとコメントしていたが、その選手が予定よりも早くペースダウンしたことで、余計な力みが出たのかもしれない。ペースメーカーに頼らずとも、自分の得意パターンで力を出せば勝てるということか。
 寺田がエルゲルージを優勝予想した根拠は「五輪前に負けたこと」だったが、それが金メダルに結びついたかどうかは、神のみぞ知ること。
Split Time 1:00.42 2:01.93 2:55.21
 3000mSCはケニアが、92年バルセロナ五輪以来2度目の1〜3位独占。昨年の世界選手権2位のE・ケンボイが優勝した。優勝者予想が的中したが、最後は同僚たちに「上位を独占しようぜ」という仕草をする余裕も。そこまで力があるとは予想していなかった。マルティン(スペイン)が残り1周時点でケニア&カタール4選手の集団を相当に追い上げていたが、最後は引き離されてしまった。
 十種競技はパッパス(米)が父祖の国であるギリシャで力を発揮するかと思ったが、最初から得点が伸びずおかしいと思っていたら、ついに棒高跳で記録なしに。世界記録保持者のシェブルレが初栄冠。
 女子400 mは予想が的中してダーリングが優勝。今年のグランプリでの調子が、そのままオリンピックにも反映したケース。
 100 mHで優勝者に予想したロンドン(ジャマイカ)は準決勝で落選。01年・03年と伏兵的な選手が優勝しているのが、ロンドンを推した理由。今季は一応、ローザンヌSGPで優勝もしていた。しかし、柳の下のドジョウは何匹もいなかったということ。本命に推されたフェリシエン(カナダ)が1台目で転倒。反対に、ヘイズ(米)が五輪新と一気に0.11秒も自己記録を更新。来年の世界選手権は本命に推されるだろう。
 女子棒高跳が今季、ともに世界記録を更新しているロシア勢2人による、すごい戦いだった。跳躍順が、試技展開を左右した。フェオファノワ(ロシア)が先で、4m70を1回でクリア。イシンバエワはその高さを1回失敗すると、2回目をパス。しかし、4m75もフェオファノワが1回で成功したのに対し、イシンバエワはまたも1回目を失敗。ここでも2回目をパスし、4m80に勝負を持ち越した。
 その4m80の1回目をフェオファノワが失敗すると、イシンバエワは1回で成功。ここで攻守が逆転した。逆にフェオファノワが4m80の2回目をパスし、4m85に挑戦したが、その1回目に失敗。調子が出たイシンバエワが4m85を1回目に成功すると、フェオファノワは4m85の2回目をパスし、ラストチャンスを4m90に残した。
 しかし、フェオファノワは4m90が跳べず、イシンバエワの優勝が決まった。4m90をパスし、4m91の世界新に挑戦。1回目で見事に成功した。イシンバエワが英国以外で初めて跳んだ世界新記録だった。
 優勝者予想をフェオファノワとしたのも、実はそれが理由。イシンバエワは昨年の4m82がゲーツヘッド、今年も4m87・ゲーツヘッド、4m89・バーミンガム、4m90・ロンドンと世界記録更新は全て、英国での跳躍だった。逆にフェオファノワは4m88の世界新をギリシャでマークし、その時イシンバエワは4m65しか跳んでいない。昨年のパリ世界選手権もフェオファノワの快勝。跳躍自体を見るとイシンバエワに“スケールの大きさ”が感じられるが、ヨーロッパ大陸での実績ではフェオファノワが上だった。

■日本選手
<男子>
・200 m 高平慎士 松田亮
・110 mH予選 内藤真人 谷川聡
・400 mH準決勝 為末大
・走幅跳 寺野伸一

谷川が日本新!
13秒3台でも1次予選3位の理由

 谷川聡(ミズノ)が1次予選で13秒39(+1.5)の日本新。5月の東日本実業団で13秒53の日本歴代2位を出したとき向かい風0.4mで、風の条件が良ければ13秒47の日本記録を破っている可能性もあった。しかし、そのときの走りでは、日本記録を切ったとしても僅かだった感じたのだろう。「日本記録じゃなくてよかったです。出すのならもうちょっと、はっきりした形で出したいですから」と、コメントしていた。
 とはいえ、13秒3台を出して1次予選3着とは、なんというレベルの高さだろう。99年以降の世界選手権と五輪の予選または1次予選を全て調べてみると、01年エドモントン世界選手権で1つだけ、13秒39で予選3着の例があった。ハイチの選手が13秒33のナショナルレコードで1位、南アフリカの選手が13秒38で2位、オーストリアの選手が13秒39のシーズンベストで3位。自己記録を大幅に更新した選手が出るときに、ごくまれに表れる現象と言えるだろう。2次予選以後は、ここまで厳しい組み合わせにはならない…と思いたい。
 残念だったのは400 mH準決勝の為末大(APF)。48秒46と02年以降では自己最高をマークしながら、2組3位で「プラス」にも引っかからなかった。珍しく1台目のハードルを倒したが、ハードルを倒すことよりもスタート直後の突風でリズムを乱したのが原因だという。
 3組が終わってテレビカメラの前でコメントした為末は、寺田がかつて見たことのない話しぶりだった。整然と競技のポイントをわかりやすく話すのはいつも通りだが、言葉が“前に出てきていない”のだ。いつもだったら、言葉が相手に届くような話しかけ方をするのだが、今回は言葉を発してはいても、自分の内側に籠もっている印象を受けた。
 シドニー五輪がどうだったのかわからないが、01年以降では、不調だった02年のヨーロッパ遠征中でさえ、今回のような話しぶりはなかった。4年間準備してきた結果が悪かったのだから、ここ2〜3年と比べて違うのは当たり前ではあるが。


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