アテネ五輪4日目(8月22日)寸評 
■決勝種目
・男子100 m
・男子走高跳
・男子三段跳
・男子ハンマー投
・女子マラソン

■日本選手
<男子>
・男子ハンマー投決勝 室伏広治
<女子>
・女子マラソン 野口みずき 坂本直子 土佐礼子


ラウンド制の面白さが満喫できた男子100 m
 世界一速い男を決める男子100 mは、全米2位のガトリンが9秒85の世界歴代5位タイで制した。ベイリー(カナダ)やグリーン(米)が全盛時に勝ったオリンピックや世界選手権と比べると、まだまだかなという気もするが、陸上競技において“過去との比較”は意味がないという持論でもあるので…。
 1位・ガトリンが9秒85、2位・オビクウェル(ポルトガル)が9秒86、3位・グリーン(米)が9秒87と3位までが0.01秒差ずつだったのは、史上初めてのこと。そして、4人が9秒8台、6人が9秒台は五輪史上初めて。91年の東京世界選手権も6人が9秒台だったが、平均すれば今回の方がタイムがいい。
 という記事は誰でも書けると思うので、寺田的には“ラウンド制の面白さ”を指摘しておきたい。2次予選で9秒89を出し、準決勝でもガトリンを抑えたS・クロフォード(米)が決勝では4位(9秒89)と敗れ、準決勝でグリーンを抑えたパウエル(ジャマイカ)が、決勝では5位。優勝候補にグリーンを挙げた理由として、ラウンド制大会の経験を挙げたが、まんざら的外れでもなかったわけである。かつては、決勝に弱いというイメージのあったオビクウェルの2位も、意外だった。
 かつて、ルイス(米)やクリスティー(英・バルセロナ五輪&93世界選手権金メダル)やベイリー(95世界選手権&96アトランタ五輪金メダル)、グリーンらがラウンド制を勝ち抜いていったパターンとは状況が違ってきている。昨年のパリ世界選手権でも混戦だったが、今回は混戦ということだけでなく記録レベルが上がった点に違いがある。
 昨日、末續&朝原両選手が2次予選で落ちたときにも感じたが、ラウンド制の試合には、グランプリのような一発決勝とは違った要素、面白さがある。現行のグランプリや春季サーキットのように多くの種目を見せる方式もいいが、100 mだけとか種目を絞り、ラウンド制にしてじっくり見せる競技会形式があってもいいのではないかと感じた、新世紀最初の五輪100 mだった。

 男子跳躍2種目はスウェーデン勢が制した。

初めて“世界記録”を口にした室伏
 男子ハンマー投はPREVIEW記事に書いたように、室伏広治に対抗できるのはティホン(ベラルーシ)だけだと思っていた。ところが、いざ蓋を開けたらそのティホンが絶不調で、代わってアヌシュ(ハンガリー)が絶好調。ティホンの話が伝わって来ないのでなんともいえないが、昨年の室伏のように直前にケガをしたのかもしれない。それしか理由が考えられないような不調だった。
 PREVIEW記事では「アヌシュには勝てる」と書いた。過去の2人の直接対決の結果や、専門家の分析などを取材していての感想。今日もテレビ解説の小山裕三先生が、ローポイントの位置の乱れを指摘されていた。確かに近年は成績が安定してきているが、正直、アヌシュがここまで投げてくるとは思えなかった。明らかに“一発”に近い調子の上がり方だった。
 ということはつまり、室伏は01年世界選手権はジョルコフスキー(ポーランド)の自己新の一発に敗れて2位、昨年のパリ世界選手権は3位だったがティホンが“一発的”に調子を上げての敗戦。五輪・世界選手権では結局、一発を出した外国選手に敗れ続けている。
 しかし、中・長期的なスパンで見た場合の室伏は相当に期待できそうだ。日本時間の朝のテレビ出演では、「世界記録が目標」と話している。はっきりと“世界記録”と口にしたのは初めてのこと。今季から取り組んでいる技術への感触が、相当にいいからに他ならない。

女子マラソンに関する個人的な見解
 女子マラソンは「よくぞやってくれた」というのが、個人的な感想。日本の2大会連続金メダルが実現する確率は、いったい何%あっただろう(そんなことは実際に数字化できないのだが)。しかし、これで日本の選考システムが正しいとか、そういう議論にはしてほしくない。近年の日本女子の活躍は、個々の選手・指導者の頑張りに負うところが大きいというのが寺田の持論だからだ。そういう状況を可能としている社会環境が背景にある、とは言えると思うが。
 野口みずき選手の勝因は、スパートのタイミングがよかったこと、それを可能とした練習ができていた、ということができるだろう。これは誰でも言うことなので、寺田的には野口選手の体型の微妙な変化を指摘したい。去年のパリ世界選手権と比べると、若干ではあるが上体の逆三角形が目に付く。単に、ランニングシャツの違いによりそう見えるのかもしれないが、それに加えて走っているときのブレが少なくなったというか、地面からの反発を上手く前方向に凝縮できているような気がした(あくまで、取材もしていない段階の個人的な見解で、間違いだと判明したら訂正します)。
 ラドクリフ選手の敗因については、直前に種目を決められる流れの練習方法が、スローペースのマラソンには通用しなかったと、これも個人的には見ている。直前に種目を決められるということは、年間を通じてそれなりのスピードを維持した練習をこなしているということ。スピード・マラソンならそれも有効だが、今回のようなスローペースのマラソンには、遅いスピードで長く走る練習も必要だったのだろう。起伏や暑さがどう絡んだかは、なんとも言えない。
 これも個人的な意見だが、今回の金メダルは藤田信之監督の“忍耐”“信念”が実を結んだと思っている。藤田監督がそれほど多くのマラソン選手を育てていないのは、周知の事実。柏木千恵美と真木和くらい。その理由は明確で、中途半端なスピードでマラソンをやらせていないのだ。つまり、マラソンに行き着く前に挫折してしまう選手が多かったということ。それだけ、レベルの高いことを選手に求めていたのかもしれない。その藤田監督の求めるレベルに応えられた野口が一番すごいとも言えるのだが。
 個人的には、野口に日本記録を狙ってもらいたい。藤田門下の選手が400 m以上の全種目で日本記録更新ということになるからだ。すぐにという話ではないが。最後も個人的な希望だが、同期の田村育子にも頑張ってもらいたい。


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