アテネ五輪10日目(8月28日)寸評

■決勝種目
<男子>
・800 m
・5000m
・4×100 mR
・4×400 mR
・やり投
<女子>
・1500m
・4×400 mR
・走高跳

エルゲルージとホームズが2冠の快挙
男女の4×400 mRは21世紀最高記録

 男子800 mはブンゲイ(ケニア)を予想したが、当初、陸マガ誌面で予想したボルザコフスキーがラスト20〜30mで逆転V。PREVIEW記事で書いたように、オリンピックはラストに強い白人選手が勝ちやすい大会なのだろうか。偶然が続いているだけのような気もするが…。
 男子5000mは中・長距離ファン垂涎の顔触れとなった。1500m金メダルのエルゲルージ(モロッコ)と1万m金メダルのベケレ(エチオピア)、そして、昨年のパリ世界選手権5000mでその2人を破って優勝したキプチョゲ(ケニア)。PREVIEW記事に書いたように、今年はどんな展開になってもベケレだろうと思ったが、あれだけオリンピックに勝てなかったエルゲルージが、今大会は2種目を制した。しかも、「ラストの直線勝負でも強いじゃん」と思わせるレース展開。実は、97〜98年頃はラスト勝負でも強いと思っていたのだが、エルゲルージ自身が99年以降はハイペースやロングスパートを勝ちパターンに決めつけていたように思う。
 男子1500m&5000mの2冠は1924年のパリ大会、今や伝説の存在に近いパーボ・ヌルミ(フィンランド)以来だという。5000mの世界記録こそ持っていないが、これでエルゲルージは、サイド・アウイタ(モロッコ・元1500m&5000m世界記録保持者)の真の後継者となったのではないか。
 男子4×100 mRは1走に200 m金メダルのクロフォード、2走に100 m金メダルのガトリン、4走にグリーンを起用したアメリカが、これだけの超豪華布陣にもかかわらずイギリスに0.01秒差で敗れてしまった。それがリレーの特徴と言ってしまえばそれまでだが、陸上競技というより球技や格闘技のような不確定さが伴う種目だと感じた。
 男子4×400 mRはまさに“1強”。アメリカの2分55秒91はパフォーマンス世界歴代4位。21世紀に入ってからは最高記録である。マイケル・ジョンソン抜きの世界最高記録でもある。
 男子やり投は本命不在。だったら4連勝のかかったゼレズニー(チェコ)を予想しておこうという考えだったが、ゼレズニーはベスト8にも残れなかった。フィンランド・スウェーデン・ノルウェーの北欧諸国は伝統的にこの種目に強く、五輪最初の開催(1906年)から7連勝をしている。今回のトルキルドセン(ノルウェー)の金メダルで、ゼレズニーの3連勝の前、88年ソウル大会以来のV奪回。オリンピックの男子やり投は今回で23回目の実施だが、北欧勢がこれで13勝。

 女子1500mはグランプリで好調だったエゴロワ(ロシア)を予想したが、ホルムズがラスト勝負を制して2冠(五輪史上3人目とのこと)。3分57秒90のイギリス新記録だった。これまで“勝てる選手”とは言い難かったホームズの変貌ぶりに敬意を表したい。これで女子中距離にホームズ時代が出現するのか、アテネ五輪が一瞬の光芒となるのか、今後の彼女の動向次第であるが、なんとなく後者になりそうな気が…。
 女子4×400 mRはロシアを予想。ラスト勝負になると、ロシア選手の抑えのきいた走りが有利になると考えたのだが、どの走順でもラスト勝負の展開にはならなかった。3分19秒01は男子同様、21世紀最高記録。過去11年間の最高タイムという好記録だった。
 女子走高跳はグランプリで好調だったクローテ(南アフリカ)を予想した。スレサレンコ(ロシア)も好調だったが、ヨーロッパ取材中に見た感じではクローテの方が“浮いている”印象を受けた。しかし、2m04のスレサレンコの跳躍を見たとき、思わず「うわぁあ」と声をあげてしまうほど“浮いて”いた。2m06の五輪新、世界歴代4位で優勝し、ロシアの跳躍3冠となった。三段跳をレベデワが勝っていれば4冠だったが。そういえば、男子短距離のアメリカも個人種目の3冠を達成したが、リレーを含めた5冠は逃していた。

■日本選手
<男子>
・4×100 mR決勝 土江・末續・高平・朝原
・4×400 mR決勝 山口・小坂田・伊藤・佐藤

両リレーとも五輪過去最高順位の4位入賞
4×400 mRは日本歴代2位の3分00秒99
 男子両リレーがともに4位入賞の快挙を達成した。4×100 mRは32年ロス五輪の5位を、4×400 mRは96年アトランタ五輪の5位を上回ったのだ。記録は4×100 mRが38秒49の日本歴代5位、4×400 mRが3分00秒99の日本歴代2位だった。
 4×100 mRは1走・土江寛裕(富士通)、2走・末續慎吾(ミズノ)と好位置につけていたが、3走の高平慎士(順大)がいまひとつ。1・2レーンとの位置関係ははっきりわからなかったが、1つ内側のポーランドには後半で一気に抜かれた。1・2レーンとの比較が難しかったが、4走には7番手でバトンが渡った(と、テレビのニュースでは言っていた)。朝原宣治(大阪ガス)が4位にまで順位を上げてフィニッシュ。
 やや足を引っ張った感じの高平だが、リレーはあくまでもチーム競技。何走で抜いた、抜かれたというのは、資料として残すべきことではあるが、本来、気にすべきことではないのだ。今回の高平は選手起用の事情でたまたま、ポーランドの強い選手と当たったのかもしれない。朝原が何人抜いたといっても、たまたま選手起用の事情で弱い選手が4走に多かったのかもしれない(実際にそれはないだろうが、リレーの考え方としてはということで)。
 それに、今回の経験が高平の成長を促すのは間違いないと思われる。3年後の大阪世界選手権、北京オリンピックでは末續と並んで日本のエース的な存在になっているかもしれない(言うまでもなく、朝原が成長して9秒台を出している可能性もある)。

 4×400 mRは1走の山口有希(東海大)が3〜5番手で、2走の小坂田淳(大阪ガス)がオープンになった時点では5位。しかし、アメリカ以外の3チームとは大差はなく、前日の予選とは逆に最後の直線で追い上げ、バトンパスでは2位にまで浮上。しかし、3走の伊藤友広(法大)がアウトの方でバトンを受けたため(3・4走は前走者の200 m通過順位でインレーン側から待機する)、1〜2コーナーでイギリスに先行され、伊藤は3位でレースを進めることに。
 伊藤は200 m手前でナイジェリアに並ばれたが前に出させずにコーナーを回り、最後の直線でイギリスを抜いた。最後はナイジェリアに抜かれ3位で4走の佐藤光浩(富士通)に。4走は5位でバトンを受けたオーストラリアのクリントンが強く、(たぶん)200 m手前で一気に先行する3チームを抜き去った。ナイジェリアとイギリスがオーストラリアに食い下がったのに対し、佐藤はやや距離を置いたことが上手くいった。最後の直線でオーストラリアは逃げたが、イギリスとナイジェリアを佐藤が急追。フィニッシュ手前でイギリスを抜き去り4位に。ナイジェリアにも0.09秒差と詰め寄っていた。
 予選は各選手の特徴を生かしたレース展開だったが、決勝は走り方が上手かったな、という印象。バトンパスで混戦だったら最初の100 mで頑張りできるだけ前の方に位置し、200 m前後で仮に抜かれても、その辺りでは力を貯め、第4コーナーから直線で逆襲する。とにかく頑張る、という走り方の外国チームとは明らかにひと味違った。

終わりよければ全てよし、なのか?

 短距離は個人種目で振るわず、76年モントリオール大会以来という準決勝進出者ゼロに終わった。しかし、大会最後のリレーでは調子を上げ(あるいは、リレーとして高度な走り方をして)、五輪過去最高順位という結果を残した。両リレーとも予選落ちしていたら、メダルを複数取ったとはいえ、今五輪の陸上競技全体の評価も落ちていただろう。それを最後で踏みとどまった。立て直してきた選手たちの頑張りと、それをコントロールしたコーチ陣の手腕は最大級の評価がされてしかるべきだ。
 しかし、選手たちも反省を口にしていたように、手放しで喜んでいいわけではない。日本の男子短距離は、個人では通用しないからリレーで自信を付ける、という時期はすでに卒業しているはずだ。リレーなら力を発揮できるが個人種目ではダメというのは、どこか問題のような気がする。仮に今回、100 mで決勝に進んだ選手がいたら、4×100 mRで3位……は難しかったかもしれないが、400 mで45秒前後で1人でも走っていたら、4×400 mRで3位に入っていたかもしれない。
 個人種目で走った本数が少なかったのが幸いした、という意見も出てきそうだが、それこそ違和感のある考え方だ。極端に言えば、エースのタイムが個人種目より0.5%くらい落ちても(400 mなら45秒00が45秒225、100 mなら10秒00が10秒05)リレーが戦えるようになるべきだろう。アトランタ五輪の伊東浩司など、200 m3本と4×100 mR1本を走った後に、4×400 mRを2本走ってベストと言える走りをしているのだ。ソウル五輪の高野進も400 m3本(3本目に44秒90の当時の日本新)と4×400 mRを2本走った後、4×100 mRにも出場して日本新に貢献している。トラックの質や動きの個人差もあるので、一概にこうだと言えない部分もあるとは思うが。選手たちはそれを痛感しているはず。関係者の楽観論が怖い。


アテネ五輪を10倍楽しむページ
寺田的陸上競技WEBトップ