2003/9/23 スーパー陸上
スーパー陸上 全種目戦評・男子編
なんでもかんでも意味を持たせるのも、どうかと思いますが
今大会の戦いの結果を少々考えてみました


100 m
 トンプソン(バルバドス)がスタートでリードを奪い、10秒20(−0.2)で快勝した。2位が世界記録保持者のモンゴメリー(米)で10秒32。3位が朝原宣治(大阪ガス)で10秒39。リプレイ映像を見ると、トンプソンが明らかに他の8人よりも早いタイミングで出ている(今大会はリアクション計測装置を導入していないため、判定は審判員の肉眼による判断)。他の選手にしてみれば(特に両隣のモンゴメリーと朝原)、迷惑もいいところ。その状況で朝原のこの走りは、まずまずだったのではないか。本人も「スタート以外は悪いところはなかった」とコメント。できれば、“隣のレーンが明らかに早くスタートした”、という気持ちを持たずに走ってもらいたかった。
 しかし、別の考え方もできる。それは、トンプソンはピストルが鳴ってから反応した(不正スタートではなかった)という見方だ。つまり他の8人が揃って、極端に出遅れた世にも珍しいケースだったのである。絶対にあり得ない話ではないわけで(何兆分の一くらいの確率はあるだろう)、ビデオを見て判定ミスと決めつけるのはよくないかもしれない。そういえば、ビデオは判定を覆す判断材料にはならないのである。

200 m
 19秒85とカペル(米)と並んで参加選手中最高記録を持つクロフォード(米)が、直線で他を圧倒し20秒19(+2.3)で優勝。フレデリックス(ナミビア)が2位に入り、世界選手権金メダルのカペルは20秒69で3位。クロフォードは世界選手権のアメリカ代表になれなかった選手。そういった選手の方が、力が貯められているようだ。
 日本勢も同様で、松田亮(広島経大)と宮崎久(ビケンテクノ)の代表コンビに元気がなく、ジュニアの高平慎士(順大)が20秒80で日本人トップの4位。来年のリレーメンバー候補であることを印象づけた。どちらのリレー候補なのかは、別記事にできれば(実現率47%)。

400 m
 小坂田淳(大阪ガス)がフィニッシュ前の直線で、伊藤友広(法大)に逆転されて2位。選手たちの感覚では、もうちょっといいタイムが出ていると思っていたようだが、伊藤の優勝記録は46秒71で、これが唯一の46秒台。
 400 mは今季最終戦となる小坂田が「今年を象徴するレースでした」と、自嘲気味に話した。

800 m
 外国選手3人と自体学4人、それに中野将春(大塚製薬)の8人によるレース。1周目は先頭で54秒、日本人トップは54秒6というスローペース。結局、外国3選手が1分49秒台で、日本人トップの中野は1分50秒46。笹野浩志(富士通)の出ていないレースで、中野にとって日本人トップをきっちり取ることは、意味があることなのだろう。だが、5〜8位を独占する形となった自体学勢にとっては、このメンバーでスローペースになって、最後は中野に勝てなかったというのはもったいない。スローペースとすぐに判断し、国内レースで見せているように引っ張り合うのは、格上の外国勢が相手だと難しいということか。

5000m
 1200m付近でサイモン・マイナ(トヨタ自動車)がペースを上げると、ケニア勢(といっても全員が日本在住)が先頭集団を形成し、徳本一善(日清食品)と岩水嘉孝(トヨタ自動車)の同学年コンビが、他の日本選手を引き離してマッチレースを展開。常に徳本が前を走っていたが、岩水が4000m付近で前に出て引き離しにかかる。しかし、徳本はきっちりそれについて、ラストの直線で逆転した。徳本13分48秒88、岩水13分49秒64。
 世界選手権3000mSCで日本新を出した岩水が、フラットレースでも力を付けていることが予想されていた。勝負強さが持ち味の徳本にしてみれば、勝っておく必要があったレース(記録が望めないレースだったこともある)。それをきっちりやって見せたことは、今後の2人の関係を占う上で、徳本からすると意味は大きかったと思われる。
 高校新も期待された上野裕一郎(佐久長聖高)は、2000mまでは記録更新も狙えるペースだったが、その後はいいところなく失速していった。「韓国でリベンジします」と、27日の釜山国際に向けて意欲を新たにしていた。

110 mH
 トランメル(米)が13秒52(−2.2)で圧勝。2位の内藤真人(ミズノ)が13秒82。世界選手権銀メダリストと0.30秒差というのが、内藤にとってどうだったのか。世界選手権決勝では、8位とトランメルの差は0.37秒、7位とは0.35秒、6位とは0.28秒。微妙なところだが、本番レースの下位選手は失敗レースだったケースが多いわけで、この数字をもって内藤が決勝レベルと断定することはできない。13秒25がベストのドリバル(ハイチ)に勝ったことは、明るい材料だが、14秒09というのは悪すぎか。田野中輔(富士通)もドリバルに0.01秒差と迫ったが……。

400 mH
 サンチェス(ドミニカ)が48秒86と、彼にしては低調な記録で優勝した。ユニバーシアードで決勝進出を逃した吉形政衡(福岡大)が50秒09で日本人1位(3位)。河村英昭(スズキ)と吉沢賢(デサントTC)の48秒台コンビは、なかなかスカッとしたレースができない。高校生の鈴木哲平(成田高)が2人の間に入ったが、素直に喜んでいいものかどうか。

走高跳
 8月に2m21を跳んでいる(といっても自己記録は昨年の2m23)真鍋周平(阪大)が、日本人で唯一2m15、2m20とクリアして外国勢に食い下がったが、外国勢3人が1回目の成功なのに対し、真鍋は2m15・20とも2回目のクリア。世界選手権金メダルのフライターク(南アフリカ)に、同7位のニート(米)、今季世界最高(2m36)のウォラリアゼック(ポーランド)が相手では仕方がなかった。
 ところが、2m25にバーが上がると、自己記録を2cm上回るこの高さを、4人の中で試技順が最初の真鍋が1回で成功。これで相手にプレッシャーがかかったのかどうか、もちろん断定できるものではないし、実績の違いを考えるとそれはなかったと思われるが、フライタークとウォラリアゼックがともに1回失敗。2m28をニート以外は跳べなかったため、真鍋が2位ということになった。まさに“対等の勝負”を演じたわけである。
 来年の大阪グランプリに走高跳が行われるかどうかわからないが、もう1回、この日のような勝負が再現できると、評価が高まるのだが。

走幅跳
 世界選手権9位のトムリンソン(英)が唯一8mを越え、8m05で優勝。この種目は今季、高校生の活躍が顕著だが、この日も今井雄紀(佐野日大高)が7m63(+0.4)で、同記録の稲冨一成(富士通)を抑えて日本人トップ。世界ユース優勝の品田直宏(札幌国際情報高)も7m61と、2人に2cm差。
 今大会のようにまったく記録が出ない条件の試合で、しかもシニアの大会で、さらに国際大会で、きっちり力を出しきりあたり、今年の高校生コンビは将来的にも期待が持てる(かつては杉林孝法が高校生時にスーパー陸上で活躍した)。

ハンマー投
 室伏広治(ミズノ)が80m44で快勝。世界選手権金メダルのティホン(ベラルーシ)が練習不足とはいえ、“いとも簡単”と見ている側に思わせる勝ちっぷり。実際は簡単であるはずもなく、それができるということだけでも、超一流の証だろう。
 日本人2位の土井宏昭(ファイテン)は67m32。自己ベストとの差は室伏が4m42、土井が6m01。夏の国際試合(世界選手権&ユニバーシアード)に出られなかった土井には、もう少し頑張ってほしかった気もする。


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