2003/2/23 横浜国際女子駅伝
日本3位、9年ぶりのトップ2転落
“意外性”に満ちた駅伝



 “駅伝先進国”の日本関係者は、駅伝の常識にとらわれすぎているようだ。横浜国際女子駅伝は“えっ?”と思うことの連続だった……が、何が起こっても優勝チームは当たり前のように誕生する。

 1区(スタート写真)は山中美和子(ダイハツ)とエチオピアの18歳アイレが中継所までデッドヒートを展開。アイレは5000m15分05秒20の選手。1秒差で敗れた山中は残念だったろうが、意外ではなかった。
 “あれ?”と思ったのはロシアが1区に起用した選手。今大会のロシアは14分29秒32のエゴロワを筆頭に、5000m15分15秒以内の選手が4人、アンカーのサモクワロワも1万m32分15秒98とメンバーは最も豪華。ところが1区を走ったベリャコワは5000m15分42秒68で、チーム内で5、6番目の選手だったのだ。1区の出遅れが許されない日本の常識では、考えられない起用といえる(他の選手の体調が悪かったのかもしれないが)。

 2区で意外だったのは、ロバ(エチオピア)の絶不調ぶり。名前のある外国選手が不完全な状態で参加すること自体は珍しくないが、走り出して200 mも行かないうちに小鳥田貴子(デオデオ)に引き離され始めたのは、ちょっと早過ぎる……と、テレビを見ていた誰もが感じたことだろう。
 ロバだけでなく、昨年の釜山アジア大会であれだけの強さを見せつけた孫英傑(中国・5000m&1万mとも独走で2冠)まで、ロシアと近畿選抜・池田恵美(立命大)にあっさりと抜かれていく。孫は32分36秒で区間4位、ロバは33分15秒で区間8位と“金メダリスト”らしくない走りに終わった。
 その一方で、健闘したのが近畿選抜の池田で、10kmの距離で大学1年生が32分03秒というのはレベルが高い。年が明けているのでジュニア資格はないが、1万mのジュニア歴代リストに当てはめると7位に相当する好タイムだった。

 ロシア3区のエゴロワ(ロシア)は、国際千葉駅伝などで区間下位の走りをしているが、今回、テレビに映った走りを見ると、それなりの走り。だが、終盤になると明らかにピッチが落ちていた。反対に、日本の大山美樹(三井住友海上)は立命大出身のルーキーだが、最後まできっちり走りきって区間賞(19分02秒)。この辺が、駅伝の伝統国・日本らしいところ。エゴロワは結局、区間3位だった(19分13秒)。
 区間2位となったのが、大体大1年生の堀岡智子で19分08秒。四条畷高3年時の全国高校女子駅伝1区で区間5位、昨年9月の日本インカレは5000m3位と、同世代間ではトップレベル。とはいえ、そのレベルの選手が世界選手権金メダリストに勝ってしまう。
「前を走っているのが有名な選手だとは知りませんでした。ビックリしています」と、堀岡。たとえ選手権駅伝でなくとも、そこにきっちり合わせて好走することで、世界への足がかりをつかむ。駅伝伝統国らしい現象だった。

 4区も日本の加納由理(資生堂)とロシアのトマチュアを比べたら、差が大きく詰まっても不思議ではない。5000mのベストタイムは加納の15分42秒17に対し、トマチュアは14分39秒22と1分以上も上なのである。しかし、加納が23秒勝ってしまうのだから、駅伝は面白い。

 ところが、最も意外だったのは、5区・松岡理恵(天満屋)が大ブレーキを起こしたこと。1分以上の貯金をロシアに詰められ、4.7km付近で引き離され、さらに、ツル(エチオピア)にも5.1km付近で抜き去られてしまった。区間12位の35分10秒。区間賞のツルとの差(3分26秒)もそうだが、あの松岡が10kmで35分もかかったのが信じられなかった。千葉と横浜の国際駅伝においては、絶対にブレーキをしない駅伝を展開し、トラックの記録では太刀打ちできない外国チームに勝ってきた日本にとっては、珍しいことだった。松岡自身、このところ、安定した戦績を残していただけに、意外な結果だった。
 話を聞けば1月に左ヒザ裏を痛め、2月には風邪を引き、練習に入ったのは「2月の宮古島合宿から」(松岡)という状況。それでも、武冨監督は「脚の痛みはあったが、ポイント練習にそれほど支障はなかった。32分台では走れる調整はできていたと思っていたが…」と、驚きを隠せない。ただ、「万全のときは(必ず)その通りに走れるが、万全でないときは時々、外すことがある」のだという。
 山下佐知子監督(第一生命)は「コンディション調整の難しい時期で、松岡さんが調子を上げていないのは知っていました。結果として、彼女に負担をかけてしまいました。補欠も使えない状況でしたし」と、チーム状況が楽ではなかったことを明かした。世界選手権マラソン代表に決まっている松岡を、10km区間に起用したいスポンサー筋の意向もあったようだ(こういった大会の性格上やむを得ないことだと、大会関係者)。

 6区の弘山晴美(資生堂)がタスキを受けたのは、トップのロシアと2分08秒、2位のエチオピアとは1分44秒差。距離にして500 m以上あったことになり、勝負の趨勢は動かしようがなかった。
1)2.15.10. ロシア
2)2.15.16. エチオピア
3)2.17.23. 日本
4)2.19.10. 中国・四国選抜
 松岡が普通に走っていれば優勝争いができた。33分前後で走っていれば、そういう計算になる。そうかもしれないが、2区のロバが32分前後で走っていれば、6区間中4区間で区間賞を取ったエチオピアの圧勝だった。


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