2003/12/14 全日本実業団対抗女子駅伝
なぜか総評
@三井住友海上の強さの分析と
 京セラ躍進の原動力となった阿蘇品


1位・三井住友海上(2時間13分38秒=大会新)
 今大会の特徴をあえてひとことで言うなら、大会新で優勝した三井住友海上の充実と、アンカーまで優勝争いを展開した京セラの健闘だろう。
 三井住友海上の優勝はほとんどの関係者が予想していたこと。土佐礼子を欠いたとしても、選手層の厚さから4区、もしくは5区で独走に入ると思われた。事実、3区の渋井陽子の区間7位を除き、全員が区間2位以内。というか、6区間中3区間で区間賞を取っているのである。シナリオ通りの独走にならなかった原因は、京セラの健闘に尽きる。
 渋井というエースが存在するのが、まず大きい。当初、大阪国際女子マラソンへの練習の流れを考慮し、スタッフは負担の少ない区間への起用を考えていた。渋井も前日の会見では「マラソン練習をずっとやってきていて、今は疲労がマックス」と話している。それでも、自ら3区への出場を申し出たという。区間7位ではあったが、渋井というエース区間を任せられる選手がいなければ、選手配置が決まってこない(当たり前だが)。
 渋井・土佐の2枚看板ほど、個人での華々しい実績はないが、坂下奈穂美の駅伝での走りは絶賛もの。土佐が3年連続故障欠場という事情があったにせよ、坂下は今回で3年連続5区。1区区間賞、5区区間賞、5区区間4位、5区区間賞。三井住友海上の3回の優勝時には、坂下が必ず区間賞を獲得している。渋井・土佐より下と見られがちだが、駅伝では2枚看板に匹敵する走りをしているのだ。三井住友海上が強いわけである。
 2年目の橋本歩と大山美樹の成長、5000mで15分30秒台に入ってきた大平美樹の充実、大物新人の岩元千明と、脇を支える役者にも事欠かない。それどころか、大平など「10km区間でも行ける」と鈴木秀夫監督が太鼓判を押すほどの選手なのだ。陸マガ12月号の展望記事にも書いたが、今や三井住友海上の特徴は、長距離2区間以外でも攻勢に出られる点にある。
 今大会の区間賞は三井住友海上が3個で、資生堂・スズキ・京セラが各1個。この4チーム中唯一、区間賞を毎年続けているのが三井住友海上で、今回で4年連続(8個)となる。連続区間賞が続いていく限り、三井住友海上は優勝争いをしているのではないか。

2位・京セラ(2時間14分06秒)
 京セラ2位の一番の功労者は、3区の阿蘇品照美であることに異論はないだろう。ワコールの福士加代子と同タイムでタスキを受け取り、4区への中継では1秒先着した。その結果、トップ争いをするパナソニックモバイルと三井住友海上にも秒差に迫り、4区・吉野恵の快走を引き出す流れもつくった。
 阿蘇品は11月の淡路島女子駅伝では5区11.2kmだったが、福士に57秒差を追いつかれ、最後は3秒引き離された(つまり、ちょうど1分負けた)。それを僅か1カ月で競り勝つところまで調子を上げてきたのである。南部記念5000m優勝など、トップレベルの力を付けていたのは事実だが、福士に勝ってしまうとは関係者の予想以上。駅伝の“区間”で福士に3年ぶりに土をつけた選手となった(未確認だが福士が最後に敗れたのは、3年前の今大会1区で坂下に敗れて区間2位になったときと思われる)。
 5区の原裕美子も好走して、三井住友海上・坂下に3秒差の区間2位でトップをキープ。長距離2区間での走りが、三井住友海上との優勝争いの原動力となった。これで高仲未来恵が走っていれば…と、誰しもが思うところだが、それは土佐を欠いた三井住友海上も同じこと。この手の仮定は意味がない。
 入社1年目の吉田佳菜、金指亜由美、吉野の3人が1・2・4区を担い、吉野が区間賞でトップに躍り出た。アンカーの小川清美が3区を務めた前回、今回と同じくアンカーでワコールに逆転された淡路島と、1万m32分01秒43の力を出し切れていないのが悔やまれるところ。

A過去最高順位の資生堂は、過去最高の“まとまり”
 松岡抜きで7年連続ヒト桁順位の天満屋
 10年連続ヒト桁順位UFJ銀行の特徴はアンカーの区間賞


3位・資生堂(2時間15分48秒)
 3位の資生堂は前半の健闘と、6区での再上昇が目を引いた。
 看板選手の弘山晴美を1区に起用して、三井住友海上と2秒差の2位というスタート。2区の尾崎朱美も区間賞の快走で、今季好調の三井住友海上・大平をかわしてトップに立った。尾崎は昨年、1500m(4分19秒16)と5000m(15分37秒48)で自己新をマークし、今季は初1万mで32分51秒80を出している。3kmではなく、5km前後の区間に起用したいような選手だが、1・2区でトップに立って三井住友海上に勝負を挑むのは、資生堂の戦略だった。
 しかし、3区のエスタ・ワンジロで6位に後退。4区・加納由理で5位に上がり、5区・嶋原清子も5位をキープ。加納が貧血気味で5区に起用できなかったのは誤算だが、東京国際マラソンに出たばかりの嶋原が、区間9位とはいえ踏ん張れたのが大きかった。そして、アンカーの佐藤由美が区間3位でチームを3位に浮上させた。
 資生堂に移籍後では最高の調子だったワンジロだが、区間記録を出した頃の勢いは戻っていないし、佐藤も5000m15分22秒86の自己ベストは6年前のもの。学生時代の力からするとまだ物足りなさを感じるが、前にいる選手を“抜く”ことがアンカーの仕事。チーム過去最高の3位を実現させた今回の佐藤の走りは、かなりの殊勲だった。
 加納の貧血などもあって、1区・弘山という布陣を敷くしかなかったが、その状況でチーム最高順位を達成したのは評価できる。これも陸マガ展望記事に書いたことだが、今回の資生堂は駅伝に向けて過去最高のまとまりを見せていた。1つエピソードがある。1区から2区への中継では、資生堂・弘山の3秒後方に第一生命・尾崎好美がいた。しかし、資生堂2区の尾崎は妹の顔が視界に入っていなかった。弘山のことしか見ていなかったと言う。それほど、今回の駅伝に集中していたことの証…だろうか。

4位・天満屋(2時間15分55秒)
 天満屋も京セラに匹敵するくらいの大健闘だった。世界選手権マラソン連続代表の松岡理恵と、前回1区8位の天羽恵梨を欠くメンバーだったが、4位に食い込んだのである。一番の功績は順位を2つ落としたとはいえ、3区で区間5位、ワコール福士に追いつかれてから粘った坂本直子だろう。今大会で言えるのは、3区で福士に食らいついた京セラと天満屋が、健闘といえる結果を残したこと。もちろん、両チームの3区選手に力があったから可能となったことであるが。
 5区の北山由美子は2年前に6区で区間賞を獲得した選手だが、山口衛里、松尾和美、松岡、坂本と五輪・世界選手権のマラソン代表が務めてきた天満屋のエース区間を走るのは初めて。区間10位で順位を1つ落としたが、4位でアンカーに中継して上位の流れをしっかりキープした。
 2区・辻麻紗美と4区・坂藤裕美の初出場コンビも好走。20歳の辻は区間3位と好走して、チームを6位から3位に押し上げ、岡山大卒と異色の経歴を持つ坂藤も、5位から3位に順位を戻し、上位の流れを確定させた。
 これで7年連続ヒト桁順位。マラソンと両立させているチームが、駅伝でも安定した強さを見せる典型だ。

5位・UFJ銀行(2時間16分13秒)
 このチームの特徴は万人が指摘することだが、大南姉妹と川島姉妹の2組のツインズである。2組姉妹ということは合計4人。1・3・5区と主要区間に配置してなお、残りの1人(今回は世界選手権代表の大南敬美)を6区に起用できるのだ。UFJ銀行は過去、6区で5回も区間賞取っている。川島亜希子2回、川島真喜子1回、大南敬美2回。2組ツインズが威力を発揮してきた証拠だろう。
 残念ながら今回は、ピークをこの駅伝に持ってこられなかった選手も多く、また、王春梅と西山貴美を欠いて5位と、竹内伸也監督勇退の花道を飾れなかった。
 だが、天満屋が7年連続なら、UFJ銀行は10年連続ヒト桁順位を達成している。これは、歴史が浅いにもかかわらず栄枯盛衰の激しい実業団女子駅伝では、金字塔と言える実績。竹内監督最後の駅伝を飾ったと言えるのではないだろうか。しかし、それだけの実績を残してなお、竹内監督は……コメントが興味深いものだったが、詳しくは陸マガ2月号で。

Bワコール、来季に手応え
 第一生命は斉藤、デオデオは藤井が不調
 パナソニックモバイルも来季注目のチーム


6位・ワコール(2時間16分46秒)
 3区・福士加代子で4位にまでしか上がれなかったが、先頭とは7秒差。まずは、その役目を果たしたと言っていい。5区で野田頭美穂が3位に順位を上げたが、アンカーの堀本真理子が区間24位で6位に後退。直前に発熱したとのことで、その影響が出てしまったのだろう。
 ともに5000m15分40秒台の片渕綾子と松元美香の九州出身コンビが起用できなかったのも、若干の戦力ダウンになったのではないか。しかし、有望新人も多く入る予定で、次回は最後まで優勝争いに絡むチームになりそうだ。

7位・第一生命(2時間16分48秒)
 7位は前回優勝の第一生命。1区・尾崎好美が3位と好位置でスタートしたが、3区の斎藤由貴が区間18位で11位に後退。もちろん、前回3区で快走した羽鳥智子欠場の穴は大きいのだが、3区以外は区間3位・8位・3位・8位・2位。3位争いを展開できたのではないかと思われる。
 初1万m日本最高(31分49秒29)を今季マークした斎藤が本来の調子なら、ワコール福士に追いつかれたときに対応できたはず。そこで対応できた京セラ・天満屋と、対応できなかった第一生命の差が、順位となって表れてしまった。

8位・デオデオ(2時間16分52秒)
 8位のデオデオは、区間ヒト桁順位は3区・小鳥田貴子と4区・神品枝理の2人だけだが、とにかく粘って8位に入賞。区間順位よりも、区間上位とのタイム差が重要なのだろう。残念だったのは、1区の藤井裕美が区間12位で上位の流れから30秒近く離されてしまったこと。織田記念に優勝するなど、15分30秒台を連発した4〜7月の調子であれば、3区・小鳥田で7位グループに入れたのではないか。

9位・パナソニックモバイル(2時間16分55秒)
 9位のパナソニックモバイルは、密かに注目していたチーム。世界選手権5000mケニア代表のジェーン・ワンジクという切り札に、1月の宮崎女子ロードで2位になった高橋富士子が成長している。日本選手権1500m優勝者の杉原加代も、区間によっては力を発揮しそうだった。
 実際、その杉原が1区で区間4位と予想以上に健闘し、3区のワンジクで狙い通りトップに立った。しかし、4区以降はその流れを維持できなかった。高橋も調子が上がらず、5区を長距離タイプの加藤咲子に任せざるを得なかった(高橋は6区)。チーム最高の8位を更新できなかったのは、やや期待を下回る結果だった。
 だが、今回2区で区間4位の藤岡里奈や、千本翔子など高校駅伝で活躍した若手も控えている。来年以降は目が離せない存在になりそうだ。

10位・ダイハツ(2時間17分12秒)
 前回3位のダイハツは、エースの欠場が最も大きく響いてしまい10位。山中美和子が欠場し、3区を高卒1年目の藤本優雅が務めた。公式ガイドブックによれば1500mが4分34秒の選手。もちろん、期待の選手だから起用されたのだろうが、今回は区間17位で14位に後退。2枚看板のもう1人である大越一恵が、5区で区間4位と好走して9位に上がったが、最後はベスト10をキープするのが精一杯だった。山中を欠きながら10位に踏みとどまった、と言うべきかもしれないが。

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