2003/12/20 陸連短距離合宿公開練習&合同取材
朝原宣治
「坂でポイントをつかめてきたら、平地でも上手く走れるようになりました」

●坂道トレーニングを導入
「去年とはメニューを変えてやっています。ウエイトとかは同じですが、とにかく走っている時間と距離が長くなっています。坂は以前からやろうと思っていましたが、アメリカでは長くて50mしか距離が取れなくて。大阪だったら150m、200 mと取れる場所があるんです。坂で上手く走れると、平地でつかみやすいんです。最初は変なところが疲れましたが、ポイントをつかめてきたら、平地でも上手く走れるようになりました。大阪で始めて3週間目ぐらいから、それができるようになりました。けっこう、バテなくなってきましたね。1人でやるとつらいのでみんなで一緒に走っていますが、競争にはならないようにしています。感覚が乱れてしまったら、練習の趣旨と違ってきてしまいますから。坂もやればいいというものではなく、ポイントを抑えないと意味がありません。疲れるべきところが疲れないと」
●ウエイトトレーニングは控えめに
「去年はかなりウエイトを意識していました。周り(の外国人選手)がすごかったですからね。基本的にでかい筋肉でないと100 mはきついと考えて、体を大きくしようとしていました。それに対して、走る距離が少なすぎたと思います。確かインタビューで、吉と出るか凶と出るか、と話した覚えがあります。ですが、(シーズンに入って)感覚的にあまりよくありませんでした。それを、春先に顕著に感じましたね。乳酸が貯まるのが早くて、60mくらいできつくなるパターンでした。シーズン中にちょっとはよくなりましたが。いったん鍛え出すと、筋力に頼ってしまうんです。今年は重さや筋力を求めずに行こうと思っています」
●スタイルは朝原流で
「(東海大でやっているが)走り方を一緒にしようというのではなく、自分のスタイルの中でやっています。どこをどう動かすのかは、変えていません。筋肉に頼らず、脚が走るポジションにはまっていく走り方です。バチっとはまれば、走っていて楽なんです。それが今年はあまりよくありませんでした。10秒02のときもそれほどよくなかったですね。10秒05のときは意識しないでもはまりました」
●2004年シーズン
「とりあえずはオリンピックまでしか考えていません。その後のことは、まだまだ元気そうだったら考えますけど。(ファイナル)行きたいですね。(リレーのメダルも)みんなが五体満足で臨めば…。(3位の)ブラジルに負けることはないと思うんですよ。(冬期は)1月2月はここ(東海大)に月2回来ます。3月は室内の代わりにオーストラリアで3レースくらい、試合に出ようと思っています。1走の練習をしてコーナーも上手くなっていますし、走り込んでいますから200 mも出ようかと。冬期の間からフォームを意識して、ずれないようにしていきます。シーズンに入って急に変えるのは難しいですから」

為末 大
「競技人生の集約という感じのトレーニングをしています」

●冬期トレーニング
「色んなことを試すのは去年で終わりです。最後の1年は全部を集約しようとしています。3年間の集約というよりも、中1で始めてからこれまでの、練習や課題を全部集約しようという感じです。中2や中3の頃のトレーニングも、スパンを短くして取り入れています。アメリカで練習した経験、ヨーロッパを転戦した経験、とにかく人生で経験したこと全部を生かしていきたい。(量的には)壊れるか壊れないかのラインでやっていますよ。例年だと、どこか痛みが出てくる時期ですが、今年は出ていません。経験上、これが危ないとわかってきたのかもしれませんし、心身ともオリンピックに向けて緊張してきたからなのかもしれません」
●練習量を確保
「一番必要なものが何か、難しいことですが、ものすごく基礎的なことだと思いますね。量と質を追いかけるのが一番ですが……量だけは確保していますね。8時とかに起きて、帰宅するのが19〜20時。(サラリーマンをやめて)体が壊れさえしなければ、いくら練習をしてもいい環境になりました。その点は有利です。坂上り、芝生、クロカンとなんでもやっています。クロカンは多いときは10km走って、最後はペースを上げたり。今はそこまでの距離はやっていませんけど。感情を省こうというのがコンセプトなんです。気持ちが入ると痛みとかに状況が左右されます。理想は表情をいっさい出さず、能面で走ること。午前中は1人でそういうトレーニングをして、午後はちょっとホッとして、学生と一緒にトレーニングをしています。燃えるものも必要ですが、それを出さないようにして」
●腹部に近い筋肉を中心に
「(省くようになったのは)小手先のテクニックです。腕の角度とか細かい部分は、シーズンに入ればやっていきますが。ウエイトもやる種目を極力少なくして、今やっているのは3種類だけです。腕から先とヒザから下はいっさい鍛えません。胃を中心に、腹部に近い筋肉を中心に鍛えています。馬みたいになりたいと考えていて、手足を自由に動かすために、先端の方は小さくして、根本の方を太くしようと。21〜22の頃から考えていたことですが、最近やっと、こういうことかなと、体でわかってきました。新しいものも試してみましたが、結局ダメだったものも多い。その分、行く道はこれしかないというのが見えてきました」
●ハードル練習も冬期から
「僕のハードルは理解されにくいので、1人で黙々とやるのが合っていると思います。走るのは他人と一緒にやりますが。うまいことに、1カ月に10日の割合で合宿がありますし。ただ、この冬はハードルも跳んでいきますよ。3月4月から400 mHのレースに出ようと思っていますから。オーストラリアかアメリカで。でも、ポイントは大阪グランプリや日本選手権あたりですけど」

土江寛裕
「伸るか反るか、思い切ってフォームを変えました」

●末續スタイルに変更
「96年くらいから記録が頭打ちになっています。ちょっと前ならいい記録なんですが。来年が最後のチャンスですから、末續君があれだけ活躍していることですし、伸るか反るか、思い切ってフォームを変えていくことにしました。僕は(基本的には)テレツ氏の“プッシュ”でやってきているので、下に押して上に反動をもらう走り方。そこからすぐに“ナンバ”は想像できませんが、接地している間に、重心をスライドさせるイメージでやっています」
●感覚と数値化
「これまでは(大学院の研究もあって)自分の動きを数値化したり、客観的に見てくることが多かったんです。そのせいか、新しい動きを感覚でどう言っていいのか、まだわからない。動きを感覚で覚えようとしている最中なんです。これまで感覚的なものがなかったので、ズレるとなかなか直せません。しかし、バウンディングや流しでは、下りをやっていてつかめた部分もあります。平地でも、重心のスライドが感覚的につかめて、その後客観的に数値化ができればいいと思っています。」
●伊東浩司氏をアドバイザーに
「この合宿の後すぐに、加古川で富士通の合宿に入ります。伊東浩司さんにアドバイザーという形で、動きを指導してもらう予定です。重心を移動させるイメージ作りのためにも、フォームの改良のためにも、(末續の動きの元となった)伊東さんのアドバイスがいいと思います。丸投げしてしまうと伊東さんも大変でしょうから、こちらの疑問をぶつける形にしたいと思っています」
●ウエイトの留意点
「ウエイトに関しては、伊東さん独特のあの方法でやってみても、一朝一夕で身につくものでもないと思います。基本的には理想とする走りがあって、そこからどこをウエイトで鍛えるかが決まってきます。ウエイトを先にやるのはよくないと思います。動きが感覚的につかめてきて、どこに負担がかかるか、どこの筋肉を作っていくべきかがわかってから。それまでは従来通りです」
●オリンピック・イヤーへの決意
「ここまで大きく変えるのは、これまで、オーストラリアに行ったりしてコーチが変わったことで少しはありましたが、自分で能動的に変えるのは初めてです。結果が10秒0となるか10秒5となるかわかりませんが、10秒2では今年みたいに苦しむだけですから。シドニー五輪は僕はドライバー(運転手)でした。南部記念の決勝さえうまく走れていれば代表だったんですが、そこで走れなかった結果がドライバーです。アテネではナショナルコーチに、『土江君、走ってください』と言わせたいですね」

宮崎 久
「走ることを優先して、ウエイトを減らしました」

●ウエイトをやめた理由
「ウエイトをまったくやらなくなりました。とにかく走ることを優先していますから、ウエイトをやっている時間がないんですよ。朝練と気が向いたとき、それとグラウンドでちょこちょことやる程度ですね。今年(2003年)は筋肉を付けて重くなりましたが、ピッチが上がってこなかった。100 mも走れませんでしたし。耐乳酸能力がないので、走らないといけないな、と。体重が世界選手権の頃は79sありましたが、今は3〜4s落ちています。走るメニューにウエイト的な要素も入っていますし、走ることで自分の走りを変えていこうという考え方です。それで勝手に体重が落ちるなら、落ちてくださいということですね」
●世界選手権がきっかけ
「世界選手権は自分としては力を出し切ったと思っています。あの舞台で20秒7台は、初めての出場にしたらよかったのではないかと。あくまで自分の評価ですけどね。リレーもいきなりの代役で決勝に残りましたから、自分的には評価しています。しかし、周りが“まだまだ”と言うのは仕方ないと思います。それで僕も向上心を持つことができて、ウエイトを減らして走ることを多くできたんです。高校の頃からウエイトをやって強くなってきたので、どこかでプライドを捨てきれなかった。それが、末續を見て勉強させてもらいました。なんだかんだで、あいつが先頭を行っているわけですから。自分も一歩、精神的に成長しました。末續が同期だからやってこられた部分があります。下だったら、なかなかこうは言えなかったかもしれません。色々ありましたが、同期だから頑張ってこられたんでしょう」
●末續の真似ではなく
「でも、末續の走りをそのまま真似ていこうとは、思っていません。自分的に解釈してやっていこうと思っています。真似していたら世界の3番までしか行けない。僕だってやるからには、トップに立ちたいと思っています。どこか違う部分を工夫しないと抜けない、一緒のことをやっていたら、それ以上には行けないでしょう。やっていることは大して変わらないのかもしれませんが、でも、どこか意識を変えていきたいですね。夢見ていいかな、夢だけで終わらせたくないな、と思っています」
●練習での変化、動きの変化
「去年の冬期と比べたら、練習でも大きく変わっています。つらいところで、へこたれなくなりました。いつも、つらいところでダメになっていましたからね。(動作的には)今は蹴る意識をほとんどなくしました。やっと高野先生の言っていることが、少しずつわかってきたんです。楽ですよ。無駄な力を使わず、乗せていく感覚だけですから。それで少し、ピッチも上がっていきますから」

末續慎吾
「重力を上手く使う走り方に改造している途中なんです」

●走りの改良中
「やっと最近の走り方に慣れてきました。今、改造している途中なんです。最初の頃はしどろもどろで疲れましたけど、その走り方に慣れてくれば楽ですね。今日くらいの量(上り50m・70m・100 m&下り200 mを4セット)をやれば、波に乗ってしまえば楽勝です。何本でも……は言い過ぎか。先生とは“コレ、いいっっすね”とひらめいたことをやっています。切り返しと重力を、自分にない力を上手く使おうと。セットの組み合わせの順序とかも」
※高野進コーチ「今年のテーマは、より重力を利用しよう、ということです。体を落として前に弾んでいこう、という考え方。そのためには腕振りを上手く使って、できるだけ推進力を得ようとしています」
●技術だけの走りとは?
「来年(2004年)は絶対に無傷で帰ってきてやる、と思っています。色々と考えたんですよ。全てのことをやったつもりだったのに、(世界選手権は)何でだったんだろうって。筋力がない分、効率のいい走りでと考えますけど、でも、筋肉を使わないわけでもない。本当に楽に、力を入れなくても高速に走れる走り方ってあるのかな、と。ちょうど今、考えていることがあって、練習で技術と筋力を別に考えて、2つに分けて試しているんです。もちろん、技術と言っても筋力は使っているんですが、とりあえず分けてみて、技術だけで走ると疲労感がない。11秒7で走れと言われたら、ずっと11秒7で走れる。それを少しずつ伸ばしていけば(記録を上げていけば?)、下のラウンドで使えるようになるかもしれません」
●技術的なことと泥臭いこと
「質・量ともバランスよく、全部を上げています。どちらかに偏ってはダメなんです。技術的なことも、泥臭いことも両方ともちゃんとやらないと。練習を抑えて走れるようになるかどうかも考えましたが、それは自分の持ち味をなくすことですから、却下しました。だったら、やる本数を増やしていくだけです。夜の9時では終わらないですからね。あと、どのくらいやればいいんだろうって思いますけど、完成するってことはないんでしょうね」


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