陸上競技マガジン2014年6月号
日本人初の1分45秒台の1分45秒75!
川元奬
“計算しないランナー”の強さ

ゴールデングランプリ男子800mにおいて、日本人初の1分45秒台が誕生した。川元奬(日大)は今年、順調に冬期練習を積んでいながら2月に故障してしまった。5月の静岡国際で1分47秒24のセカンド記録をマークして回復の兆しを見せると、ゴールデングランプリでは見事な追い上げで国立競技場を沸かせた。勝負よりも日本記録、その強い気持ちと、松井一樹コーチと歩んだ日々が実を結んだ瞬間だった。

●日本初の1分45秒台のレースとは?
 ゴールデングランプリは川元にとって、どんな展開のレースだったと言えるのだろうか。そこに、どんな成長の跡があったのか。
川元 ペースメーカーの保坂(貴昭・日大3年)の後ろにつく予定でしたが、スタートしたら思ったほどほど体が動きませんでした。気づいたら後ろの方にいる形になって、だったら今日は外国選手に付いていって、1人ずつ抜いて行くレースをしようと思いました。去年のゴールデングランプリは先頭を走って最後でタレてしまいましたし。300 mから中村(康宏・A2H)さんがスーッと上がっていったときも、ここで上げられるのか? と思ったほどです。でも、そこで行かなきゃ、と切り換えられましたし、400 mの通過は52秒台でも余裕があったんです。
松井 1周目を落ち着いて52秒台で入ることが第一段階でしたが、そこをしっかりとクリアできました。2周目はポケットされることが心配でしたが、完璧なレースをしてくれました。1年時の世界ジュニア(準決勝2組5位)や昨年のユニバーシアード(準決勝3組4位)は、位置取りに失敗して決勝に進めませんでした。その辺を本人が勉強した…のかはわかりませんが(笑)、それらの経験が生きたのだと思います。
川元 400 mを過ぎてからは、前を行く外国人選手をペースメーカーと思って、追いかけて、追いかけて1人ずつ抜いて行きました。バックストレートでは、気がついたら先頭に追いついていた。600 mで1分18秒、19秒というタイマーの数字が見えて、残り200 mをしっかり走れば行けるぞ、と思って走りました。しかしラスト200 mは、これまでも黒人選手には競り負けています。今回も負けるのかな、という思いは過ぎりました。でも、日本記録を出す気持ちが強かったんです。(ホームストレートも)ここは粘るしかない、と思って粘りました。
松井 位置取りさえしっかりできれば勝てるよ、と言って送り出しましたが、世界選手権準決勝まで行っている格上の選手も複数いましたから、勝ったのはビックリですね。ゴールしてあそこまで喜ぶ川元を見たのは初めてです。去年、日本選手権で初優勝したときも狙っていた世界選手権の標準記録が切れませんでした。一昨年のジュニア記録のときも、ロンドン五輪の標準がダメでした。ずっと出したいと言っていた日本記録を出せたことが、あの喜び方になったのだと思います。


この続きは陸上競技マガジン2014年 07月号でご覧ください。
●中長期的、短期的な背景
●低調な日体大から静岡国際でのセカンド記録。そして坂のトレーニング
●感覚と野性、感覚と覚悟

と続きます


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