陸上競技マガジン2008年12月号
<検証>
塚原直貴が大舞台に強いワケ!
塚原直貴(富士通)の国際大会での勝負強さは際だっている。塚原の何がそれを可能にしているのだろうか。当人は“これができるから”という分析はできないと言う。高野進コーチや同僚の高平慎士(富士通)らの証言から、大舞台に強いと思われる要因をピックアップするとともに、塚原本人には心理面を中心に、“どういった走り方”で個々のレースに臨んでいたのかを明らかにしてもらった。
●「戦況を把握したい」という欲求 2008年〜北京五輪100m〜
北京五輪の塚原は、健闘した数少ない日本選手だった。準決勝は7位だったものの、序盤は世界のトップ選手たちと互角に渡り合い、10秒16のシーズンベストで走った。自己記録にも0.01秒差という好タイムである。
塚原の組にはA・パウエル(ジャマイカ)がいたし、隣のレーンはD・パットン(アメリカ)。世界のトップと渡り合うには、父親の実さんのコメントにもあるように、誰が相手でも自分のペースを崩さないことが必要だろう。だが、塚原が自分のレーンだけに集中しているかというと、そうとも言い切れないのだ。
「まず、“絶対に負けないぞ”と興奮している自分がいます。レースをするのは主にこちらの方で、周りに誰がいようと関係ない。その一方で、遠くの方から“こんな奴らと走れるんだ”と冷静に見ている自分がいる。準決勝はスタートして僕が少し前に出られました。“このまま30〜40mまで見せ場を作ろう”と、戦況を分析しながら走っている。後半になってパットンが来て、自分がハアハア言っているのもわかりました。スタートで何割の力を使って、どんな意識で腕を振っているかなども、レース中に感じ取っています。誰がどんな息づかいだったか、誰がスタートでドンピシャなのか、誰が後半で抜け出ていくのか。そこを感じていたいわけです。後でビデオを見て思い出しても、照らし合わせられないことも多い。実際に同じスタートラインに立ち、同じレースを走ることで得られる情報量は膨大です。余裕のなさを振り払って、できる限り戦況を把握したい欲求があります。そうすることが自分でも不思議なくらい楽しいですね」
塚原の話しぶりから、2人の自分がいることを肯定的にとらえているのは間違いないが、明確にそうなり始めたのは最近のことだという。
●「北風の走りで鳥肌が立った」 03年〜長崎インターハイ〜
塚原は2003年の長崎インターハイで2冠を達成。五輪4×100 mRメンバーで、同じ富士通の高平は今の塚原を「高校生のような勢い」だと分析している。だが、塚原自身はインターハイでの感覚は、近年とは少し違っていたと感じている。
「女子の北風(沙織)が勝つのを見て鳥肌が立って、“次はオレだ”とテンションが高まりました。勝利が決まる瞬間が自分の活力になっていた気がします。でも、自分が走っている間は、速いのか遅いのか、わからなかった。言えるのは、ゆっくりと知覚したことです。品田(直宏)が前にいるのがわかって、でも、これは抜けるな、ここで抜いてやろうと考えていました。気持ちに余裕があったのか、練習に裏付けを感じていたのか。自分に確固たる自信があったのは確かです」
※この続きは陸上競技マガジン2008年12月号でご覧ください。
●低迷の2年間 04・05年〜大学1・2年〜
●大阪世界選手権は「怖いもの知らず」で 06・07年〜大学3・4年〜
●「脚がもげてもいい」と思った北京五輪でのリレー 08年〜北京五輪までの道のりと4×100mR〜
と続きます
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