スポーツ・ヤァ! 008号
2001箱根路 エース群像
取材:2000年11月下旬〜12月上旬

「区間最下位だって、別にいいんです」
 駒大のエース神屋伸行(3年)と、2区の走り方について話をしているなかで出てきた言葉だ。箱根駅伝の優勝を狙う大学のエースが“区間ビリでかまわない”と言っているのだ。いったい、どういうことなのだろうか。
「チームとして往路で3位、復路で逆転という青写真がありますから、先頭との秒差を考えながら、抑えなきゃいけないチームを相手に、いい位置を占めるのが2区の走りです。だから、区間賞は狙っていません。区間賞から30秒差でも区間最下位というケースも考えられます。2区終了時点でマークする相手との差が小さければいいわけで、それさえできれば区間順位は最下位でもいいわけです」
 ライバル校との差が一番重要。つまり、チームとしての走りに徹するということだ。ハイペースで入ると後半失速する可能性がある。チームの順位を最優先に考えると、その危険を冒す必要はない。だが、チームが1区で出遅れていたら、ハイペースで入る走り方も要求される。それが2区。
 違う日に別の場所で話を聞いたにもかかわらず、順大の高橋謙介(4年)も、神屋とほぼ同じことを口にしていた。前回の2区は、この2人の“エースの走り”がぶつかり合った。1区から同タイムでタスキを受け、並走を続けながらも中大、帝京大、神奈川大、山梨学大といったライバル校に差をつけていった。先行する法大・坪田智夫(現コニカ)に区間賞を取られたのは仕方なかった。
 2人の争いは高橋が引っ張り、神屋がピッタリ食らいついた。終盤、一度神屋が離れかけたが大八木弘明コーチの檄で生き返り、高橋を追走。胸一つ高橋がリードして3区に中継したが結局同タイム。区間記録でも2人は2位を分け合った。
「自分らしく積極的に行きたい気持ちもありましたが、調子があまりよくなくて、チームの走りに徹しました。勝たなくても、負けなければいいという走りでした。高橋さんに悪かったですね。区間記録は1秒負けてもよかったと思っています」
 と神屋が言えば、高橋も
「調子がよければスーッと離せたんでしょうが、そんなに調子がよくなかった。1区で2位から8位までが固まってきましたから、後ろを引き離すことだけを考えていました。5`の通過が14分34秒。速く入ろうと思えばもうちょっといけましたが、駅伝ですからちょっと守りに入っていたのかもしれません」
 と1年前を振り返った。2人は学生3大駅伝(10月の出雲、11月の伊勢、1月の箱根。徐々に距離が長くなる)で、5大会連続で同じ区間を走っている。戦績は2勝2敗1引き分けと全くの五分。今度の箱根でどちらかが勝ち越すことになる。
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 駒大、順大といった優勝候補でなく、シード権が取れるか微妙な位置にいる大学になると、エースに要求される走りも変わってくる。
「(前回独走で区間1位となった)1区の区間記録を狙いたい気持ちもありますが、今年はエースなので、2区を走るつもりでいます。カーニーは別格として、日本人トップは狙いたい。自分がいい順位で走ることによって、チーム全体に貢献したい」
 こう言うのは法大の徳本一善(3年)。法大と優勝候補チームとの違いは、選手層の厚さ。エースが他校を引き離さなければ勝ち目はない。当然、区間賞を狙うことになるし、そのためリスクのある走りをすることも、チームが認めている。
「前回、坪田さんの出した68分16秒を目指して頑張ります。その結果が日本人トップになるんじゃないかと思っています」
 2区の区間賞候補は徳本が言うように、平成国際大のジョン・カーニーだ。その力は、学生の中では飛び抜けていると言っていい。もう1人の留学生のフランシス・ムヒアとともに、どの区間に起用されるかが注目される。
 松田克彦監督は「総合力では15校の中でも一番下。後半に2人を置いてもテレビには映りません。初出場した足跡を残す意味でも、最初にインパクトのある走りをしたい」と言い、1・2区への起用を示唆している。留学生以外の走力は有力チームに比べて劣るので、この2人で突出することが2人に要求される走りだ。
 カーニーは「エース区間で順大や駒大の強い人と争って1位を取りたい。そうすれば、いい走りができて区間記録も狙えると思う。日本で一番有名な大会で走れるのだから、それを喜びにして走りたい」と、日本語で抱負を語ってくれた。
 彼らは、その走りだけでなく日常生活や意識の高さもまた、エースと呼ぶにふさわしい。松田監督は次のように言う。
「助っ人というよりリーダー的存在。陽気なジョンと穏和なフランシス。性格は対照的ですが、人格的に2人とも素晴らしいし、練習も熱心。彼らが他の日本選手を引っ張ることが予選突破につながりました」
 徳本も意識の高さでは負けていない。写真を見てわかるとおり、ギンギンの茶髪。チームカラーにもよるのだろうが、順大、駒大にはそういった選手はいない。
「ランナーは見た目で力が決まるわけではありません。髪の毛くらいのことは認めるから、結果を残せという体質が法大にはあります。それに、カッコだけ目立って走りが悪かったら“なんだ”って言われるじゃないですか。そうならないためにもしっかり走りたい」
 外見からは想像できないが、練習では先輩を叱りとばすほどの激しさも持っているのだ。
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 各校のエースを紹介してきたが、優勝候補はチーム内の競争が激しく、神屋と高橋でさえ「今年は2区か9区か、まだ決まっていない」と異口同音に言う。同じエース区間でも、復路の9区となると走り方が微妙に変わってくる。「前に選手がいれば追いかけるだけですし、自分がトップだったら冷静な走りをするだけです」と神屋が言えば、2年前に経験している高橋も「前後の選手と離れてタスキをもらいますし、競っていても1校か多くても2校ですから、雰囲気が違います」
 駅伝のエースとしての役目を期待される有力校の強豪選手たち。最後に、高橋が話してくれた言葉を紹介しよう。
「2年前に9区で区間新を出し(駒大を逆転)た時は、絶好調で絶対に区間新が出せると思っていました。練習の消化状況や精神的なモチベーションとかで、それがわかってきます。そういうときは、どれだけ飛ばしても大丈夫です。最初の5`を14分25秒で入っても、まったく苦しくありませんでした」
 有力校のエースたちは、自分を抑えて走る部分があるとはいえ、基本的には全力を出しきろうとしている。神屋と高橋の前回2区の走りも、力を抑えているのではなく、走り方を体調と状況に合わせていると言った方が正確だろう。それも、エースといわれる力がなければできない走りなのだ。

●高橋謙介(順大4年)
たかはし・けんすけ 1978年5月30日生まれ。兵庫・報徳学園高3年時に全国高校駅伝優勝。箱根駅伝は9区、9区、2区に出場し、チームは5位、1位、2位。2年時には9区区間新の走りで駒大を逆転。1万b28分44秒51。日本インカレ1万b6位。176a、54`。
●神屋伸行(駒大3年)
かみや・のぶゆき 1979年12月6日生まれ。兵庫・西脇工高3年時に全国高校駅伝優勝。箱根駅伝は5区、2区に出場し、チームは2位、1位。2年時には順大・高橋に食い下がり駒大初優勝に貢献。1万b28分35秒8。日本インカレ・ハーフマラソン優勝。177a、61`。
●徳本一善(法大3年)
とくもと・かずよし 1979年6月22日生まれ。広島・沼田高3年時に1500bで高校日本人最高記録を樹立。箱根駅伝は1区、1区に出場し、チームは14位、10位。2年時にはスタートから独走して区間1位。1万b28分38秒88。日本インカレ1500b優勝。173a、58`。
●ジョン・カーニー(平成国際大3年)
John Kanyi 1980年9月6日生まれ。ケニア・ジコディ高出身。箱根駅伝予選会(20`の個人レース)2位、1位、1位で箱根駅伝は今回が初出場。1万b27分47秒44。日本インカレ1万b優勝。160a、50`。
●フランシス・ムヒア(平成国際大3年)
Francis Mwihia 1978年2月27日生まれ。ケニア・キエニ高出身。箱根駅伝予選会は6位、2位、2位。チームは13位、10位、6位(上位10人の合計タイムで6校が本戦出場)。1万b28分45秒07。日本インカレ1万b4位。166a、53`。