2002/5/8
1万m日本新1000m毎通過&スプリットタイム
今回の渋井のすごかった点を分析すると……
分析というよりあれこれ考えたこと、でしょうか
渋井陽子の1万m日本新記録(30分48秒89=日本人初の30分台)の1000m毎の通過タイムが判明した。日本選手初の31分台は89年4月30日の松野明美(ニコニコドー)による31分54秒0。そのときの1000m毎の通過タイムが資料として残っている。その2つを比較したのが表1だが、13年間の女子長距離種目の進化がよくわかる。
ちなみに、13年前の5月7日には男子110 mHで日本人初の13秒台(13秒95)も、岩崎利彦(順大)によって出されている。現在の日本記録は13秒50。13年間で0.45秒もタイムが縮められている種目だが、そのうちの0.37秒は岩崎1人で縮めている(その後、谷川聡、内藤真人と続く)。
表1 渋井と松野の1000m毎通過&スプリット・タイムアコム・長沼祥吾監督計測。400 m毎のタイムは陸上競技マガジン6月号に掲載されます
渋井陽子 松野明美 通過 1000m毎 5000m毎 距離 通過 1000m毎 5000m毎 03:05.7 03:05.7 1000 0:03:09 0:03:09 06:11.3 03:05.6 2000 0:06:22 0:03:13 09:15.4 03:04.1 3000 0:09:34 0:03:12 12:20.8 03:05.4 4000 0:12:46 0:03:12 15:26.4 03:05.6 15:26.4 5000 0:15:58 0:03:12 0:15:58 18:31.4 03:05.0 6000 0:19:08 0:03:10 21:37.2 03:05.8 7000 0:22:21 0:03:13 24:43.4 03:06.2 8000 0:25:33 0:03:12 27:48.0 03:04.6 9000 0:28:46 0:03:13 30:48.89 03:00.9 15:22.5 10000 0:31:54 0:03:08 0:15:56
その点、女子1万mは31分台に突入した後も、表2のように6人の選手によって現在の日本記録まで縮められている。そのなかで、今回の渋井の20秒57という短縮幅は、過去の5人と比べても格段に大きい数値なのである。
表2 女子1万mの日本記録変遷
記録 短縮 選手 所属 年月日 大会 場所 35:46.6 坂梨智子 大阪ガス 1980/11/30 中大女子中距離記録会 中大多摩 33:20.0 02:26.60 増田明美 成田高 1981/4/19 中大女子中距離記録会 中大多摩 33:13.22 00:06.78 増田明美 成田高 1981/6/7 アジア選手権 国立 33:01.5 00:11.72 増田明美 成田高 1981/10/25 日本選手権 国立 32:48.1 00:13.40 増田明美 川鉄千葉 1982/5/2 兵庫リレーカーニバル 王子 32:19.57 00:28.53 松野明美 ニコニコドー 1988/9/26 ソウル五輪 ソウル 31:54.0 00:25.57 松野明美 ニコニコドー 1989/4/30 熊本県選手権 水前寺 31:40.38 00:13.62 真木 和 ワコール 1992/5/3 兵庫リレーカーニバル 神戸 31:31.12 00:09.26 片岡純子 富士銀行 1995/5/7 水戸国際 水戸 31:28.15 00:02.97 千葉真子 旭化成 1996/4/21 兵庫リレーカーニバル 神戸 31:19.40 00:08.75 鈴木博美 リクルート 1996/6/9 日本選手権 長居 31:09.46 00:09.94 川上優子 沖電気宮崎 2000/7/1 メーン・ロングディスタンス・フェスティバル ブランズウィック 30:48.89 00:20.57 渋井陽子 三井住友海上 2002/5/3 カーディナル招待 スタンフォード大
ちなみに、渋井のこれまでの1万mベスト記録は31分48秒73。それでも、下記のコメントにあるように、ずいぶん以前から30分台を出せると考えていた。それは、表3に示したように、過去の駅伝の10km区間のタイムから、そう判断していたのだろう(もちろん、練習中のタイムやそのときの感覚、コーチからの示唆による部分も大きいと思われる)。
日本の長距離界には、トラックよりもロードの記録の方が良くて当然、という考えが散見される。ロードレースの場合、トラックよりも条件がいいことがあるからだろう。追い風だったり、下りのコースだったり。
だが、駅伝の11〜13kmの区間の10km途中計時で出したタイムより(場合によってはハーフマラソンの10km途中計時より)、トラックの1万mベスト記録が悪くて当然と考えるのは、あまりに消極的ではないかと感じていた。記録をどこで出そうとも、出さないよりはいいことなので、ロードで出すことが悪いと言っているわけではないのだが。
渋井がこの「ロードの記録の方が良くて当たり前」的な考えに縛られず、敢然とハイペースに挑戦したことに敬意を表したい。そういった初めて体験するハイペースのレースでも、ラストの競り合いで世界クロカン2位のドロッシン(アメリカ)に勝ってしまうのだから、二重の脱帽である。
表3 渋井の駅伝10km区間ベスト4
日付 大会 区間 記録 備考 2000/11/3 東日本実業団女子駅伝 3区 31分09秒 前半15分43秒、後半15分26秒 2000/11/12 東日本女子駅伝 9区 31分11秒 前半15分31秒、後半15分40秒 2001/11/3 東日本実業団女子駅伝 3区 31分15秒 最初の1km2分59秒 2002/2/24 横浜国際女子駅伝 5区 31分10秒 前半15分27秒、後半15分43秒。最初の1km2分59秒
2001年世界選手権マラソン(4位)レース後のコメント
Q.次の目標は?
渋井 マラソンはしばらく考えられないですね。来年はトラックをやりたいと思っています。1万mでまだ納得のいくタイムを出せていませんから。去年くらいのスピードが戻って、条件が整えば30分台も行けると思っています。とか言って、今回の5km通過が18分もかかってるんですけどね。
2002年2月の横浜国際女子駅伝レース後のコメント
Q.31分10秒という記録、レース経過など、終わってみての感想は?
渋井 30分台を出すつもりだったんですが、ラスト1kmで時計を見たら28分05秒くらいで「無理だなー」って思って。はい、ちょっと残念です。
Q.最初は気負った?
渋井 ホント、全然軽くて、抑えて、抑えて、抑えたつもりが3分を切ってしまって。
Q.最初が少し上りで、終盤が向かい風の中で出した31分10秒は、トラックで30分台を出す自信になった?
渋井 はい、なります。
Q.………(もうちょっと言葉を、という沈黙)。
渋井 これでもっと行けるというか、これからもっとスピード練習をやって、出したいと思います。
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