2001/9/29
充実の全日本実業団第1日   対抗得点1日目終了時点
山口が中西、室伏の2強を撃破
福士が31分42秒05のジュニア日本新!!
畑山は歴代3位の56m18


 全日本実業団の初日は、実に充実した一日だった。女子1万mでジュニア日本新、5種目で大会新が誕生した。記録的な部分だけでなく、意外な勝利や何年かぶりの勝利、初めての大台突破など、陸上競技の“感動”という部分を盛り上げる要素が数多く見られたのである。それらをざっと概観してみたい。

男女競歩で幕開き
女子円盤投山口の“意外な勝利”
2日連続の円盤投同パターン
スズキの初日トップに貢献した尾上&渡辺
男子4×100 mRで小坂田が……
男子1万mで佐藤敦之が復調
福士と弘山、女子1万mの若手対……
弘山を4位に追いやった2選手とは?

 充実の一日は女子5000mW、照井貴子(サニーマート)の日本歴代5位、21分47秒11で幕を開けた。世界選手権代表の二階堂香織(サニーマート)が欠場、忠政良子もエントリーしていないなかで、記録まで悪かったら凡レースになるところだったが、照井の好走ならぬ好歩がそんな事態を救った。
 続く男子1万mWは世界選手権20kmW入賞者の柳沢哲(綜合警備保障)は出場しなかったが、同種目代表ながら故障でエドモントンを歩けなかった池島大介(長谷川体育施設)が出場。捲土重来を期したが、最後に藤野原稔人(三栄管理)に離されて2位。地元・石川で再出発を飾りたかった池島には、無念のレースとなった。

 “意外な勝利”といえるのは女子円盤投の山口智子(呉市体育振興協会)だった。この種目は中西美代子(ミキハウス)と室伏由佳(ミズノ)の中京大OBコンビが、ここ数年日本のトップを占め、2人以外が国内の試合で優勝することはできなかった。山口の1、2投目は連続ファウル、3投目が39m55と前半は惨憺たる状態だったが、4投目に48m73と“普通”の記録を残すと、5投目に52m52と中西を2cm上回った。
「ビックリしました。自己新(これまでは51m40)は嬉しいのですが、2人に勝ったという実感はありません。試合前も、(2人に勝ってやろうという)意識はまったくありませんでした。どちらかというと来月の国体に合わせたいと思っていましたから。5投目の感触も48mくらいで、会心ではありませんでした。3投目までが力んで悪すぎて、残りの3本は自分の投げをすることだけを心がけました。結果的に風をうまく利用できたとは言えると思います」

 昨日の日本インカレでは、女子円盤投で島根大初優勝というドラマがあり、男子円盤投では中林将浩(法大)が学生新をマークした。実業団もなぜか同じパターン。女子で山口が全国大会初制覇を成し遂げると。続く男子では畑山茂雄(ゼンリン)が56m18と、日本歴代3位をマーク。日本記録は川崎清貴(大昭和)の60m22、歴代2位は山崎祐司の58m08。過去13年間では最高記録となるのである。
「ここに来る前の練習で調子が良く、その感覚を試合でも出せました。リリースした瞬間は左に引っ張ったかな、と思いましたが、思ったほど左にはいっていませんでした。昨日、中林が学生新を投げていたので、負けられない気持ちがありました。
 自分の場合、練習での記録が試合の記録、となることが多いんです。今回も54〜55mは投げていました。記録が上がったのは、筋力的な部分が上がったから。ベンチプレスが150kgから160kgに、スクワットが190kgから210kgにマックスが上がりました。それに伴い体重も5kgアップしています」
 そのきっかけは、夏の合宿で同学年の砲丸投日本記録保持者、野口安忠(コニカ九州)と話をし、一緒にトレーニングをしたことだったという。中林も同学年。同い年のスローワー2人が、畑山に刺激を与えた。

 男子走高跳は、2m18を尾上三知也(スズキ)1人がクリア。「95年頃の日本選手権以来」(尾上)という全国大会優勝を達成した。総合2連勝を狙うチームに「はずみがついてくれれば」とコメントしたが、男子200 mでも昨年来、故障の影響で不調に陥っていた渡辺辰彦(99年に20秒63)が僅差の2位。スズキは初日を44点でリードすることになった。
 その男子200 mでは田端健児(ミズノ)が21秒20の自己新をマークした。これまでの記録は学生時代の21秒39。この日の記録は向かい風1.2mだったこと、優勝した石塚英樹(三洋信販)と0.01秒差だった点は、評価できる。課題だったスピード養成の成果が徐々に現れつつある。今後、400 mで自分の殻を破ることにつながるだろうか。
 女子200 mでは矢野加奈子(七十七銀行)が個人では全国大会初優勝を達成。由良育英高から入社して6年目。高校時代は400 mで福島国体3位の実績があるが、実業団入りして伸び悩んだ。昨年までのベストは24秒27だったが「練習メニューをこなせるようになり、体重も絞ることができた」(矢野)今年は、これで4回目の自己記録更新。女子短距離・ハードル種目で活躍する七十七銀行勢だが、初めての23秒台選手となった。

 男子4×100 mR最大の注目選手は大阪ガスの朝原宣治で、シドニー五輪、エドモントン世界選手権同様アンカーに座った。これまで4×100 mRでは大学・実業団を通じてずっとアンカーを務めてきた小坂田淳が2走になり、予選で「高校1年以来、10年ぶりにバトンを渡した」と言う。決勝は大槻、河邊、伊藤、土江の富士通が3走までに大きくリード。3〜4番手でバトンを受けた朝原が、同じ世界選手権代表の安井章泰(スズキ)をかわし、やはり代表だった土江寛裕(富士通)にも迫ったが、終盤はさすがに差を詰められなかった。
 富士通は39秒60の大会新。3チームが39秒台と、実業団の試合ではハイレベルといえる内容だった。スズキは2走の馬塚貴弘が万全ではなく、アンカーの安井も世界選手権来肉離れ気味の状態が続いていたせいか、朝原にまったく抵抗できなかった。

 男子1万mは2組タイムレースで行われた。有力選手のあつまった2組のスタートした17時30分には、無風で肌寒い気温と、絶好のコンディションとなった。ジェンガが28分11秒57で優勝し、池谷寛之(本田技研)が2位、そして佐藤敦之(中国電力)が28分13秒18の自己新で3位に入ったのが明るい話題だった。
 佐藤は昨シーズン前半、1万mで28分25秒84の自己記録をマークしたり、関東インカレに優勝するなど好調だった。しかし、9月の日本インカレ(5000m2位、1万m3位)以後、疲れが抜けないことから試合に出られなくなった。早大のエースとしての活躍が期待された箱根駅伝も、結局出場できなかった。中国電力に入社半年で、ここまで回復してきた。

 しかし、最大のドラマは最後の最後、女子1万mに残されていた。男子と違って強豪選手が集まった2組が先に行われた。
 3分10秒から3分15秒のペースで推移していたが、7000mで19歳の福士加代子(ワコール)が一気にペースアップ。8000mまでを3分04秒でカバーし、集団に5秒5の差をつけた。ラスト3000mを9分09秒8で上がる見事なロングスパートだった。これには弘山晴美(資生堂)もつけず、2位争いを制するにとどまった。
 1500mと5000m日本記録保持者の33歳、弘山は「あのペースの切り換えには付いていけませんでした。頑張ったんですが、スピード練習ができていなかった分、つけませんでした。福士さんは5000mのベストタイム(15分10秒23=日本歴代2位)から考えると余裕があったのでしょう。楽に走っているように見えました。1周74秒へのペースアップでしたが、そのくらいならいけそうだと思っていました」と、福士の好走を予想外とはとらえていなかった。
 一方の福士は31分42秒05のタイムについて、「驚きです」と、正直に答えている。スパート地点についても特に戦術を考えていたわけではなく、「体が軽くて行けそうな気がしたから」というのが理由だった。「今日はたまたま、体が軽い日に当たっただけなんです」と、謙遜しているのか本心なのか、わからないコメント。
 福士は入社2年目の19歳だが、1万mレースは2回目で最初は今年5月の関西実業団。32分34秒74だった。「これまでは5000m中心で、駅伝の10kmも高校時代に走っただけ。記録は34〜35分だったと思います。スピードがついたとは思いますが…」と、始めて間もない距離をこなせる理由がわからない、といった表情だった。
 福士のタイムは千葉真子(当時旭化成)が95年に出した31分43秒7のジュニア日本記録を更新していた。

 ドラマはここで終わらなかった。2組の記者会見が行われている間に進んでいた1組は、岩本靖代(日本生命)が31分50秒97のトップでフィニッシュしていた。千葉・東葛高から中京大と進み、昨年日本生命に入社した。1万mは3回目でベスト記録はなんと33分11秒12。実に1分20秒もの自己記録更新だった。この日の5000m通過は16分05秒だったが、5000mの自己記録は16分10秒だという。
「夏に練習ができて、1000m3分05〜10秒のペースなら驚かなくなりました。でも、来週の世界ハーフに合わせていましたし、タイムは32分30秒を上回れたら上々と考えていたんです。そういうレースの方がうまくいくのかもしれませんね」
 高校時代の3000mは10分01秒がベストでインターハイ路線は千葉県大会止まり。しかし、駅伝の1区では20分30秒を関東大会でマークしたことがある。中京大では3年時の日本インカレ1万m6位。西日本インカレの1万mを3、4年時に連覇して日本生命・森岡監督の目にとまった。
「とりあえず世界クロカンに出たい」と言う、少々変わった目標を持つ。また、自身の特徴を問われると「リズムもフォームもよくないんですが、最後まで“まだ上げられるかもしれない”と、欲張って走れる点」だと、自己評価している点もユニークに感じられた。将来的な目標は「マラソンの岩本と呼ばれるようになりたい」と言う。
 岩本に続き1組で2位に入ったのが、京セラに入社2年目の原裕美子。彼女も福士と同様早生まれのため、31分53秒68はジュニア歴代4位の好タイムになる。タイムレースのため、この2人が全体でも2位、3位となり、なんと弘山を4位に追いやってしまう結果となった。

対抗得点第1日終了時点
■男子■
1)33点 富士通
2)25点 スズキ
3)18点 西濃運輸
■女子■
1)28点 七十七銀行
2)19点 グローバリー
3)19点 スズキ
■男女総合■
1)44点 スズキ
2)33点 富士通
3)32点 七十七銀行
4)27.5点 ミズノ
5)27点 グローバリー
6)18点 西濃運輸