2001/5/1
高橋尚子、ベルリン&シカゴ連続出場表明(?)の狙いを探る
2週連続マラソン出場の可能性も、あながち否定できない理由とは?
昨日の読売新聞が、高橋尚子(積水化学)が9月30日のベルリン、10月7日のシカゴと、2週間連続してマラソンに出場する可能性を報じた。
++++++++++<以下は読売新聞記事>++++++++++
シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子(28)(積水化学)が、今秋のベルリン(独)、シカゴ(米)の両マラソンに2週間連続出場し、世界最高記録更新を狙う異例の計画があることが29日、明らかになった。
9月30日のベルリン、10月7日のシカゴとも、これまで男女の世界最高記録が樹立されたコース。ただ、世界の主要レースでは招待選手が直前の大会へ参加することを認めない取り決めになっており、両大会に出場できるかどうかは微妙。織田記念陸上が行われた広島で会見した高橋は、明言は避けたものの、「びっくりすることを狙っています。すごいチャレンジになる」と話した。
++++++++++
これは読売新聞だけに出た記事で、高橋自身が直接、「2大会に続けて出る」とコメントしたわけではない。だが、ここまではっきり出すのだから、独自の、確かな情報源に基づいて書かれているはずだ。
さらに本日、CM撮影後の記者会見でこの件についての質問が出たが、高橋は否定しなかったという。明日(5/2)のスポーツ新聞の何紙かには、2週連続出場のことが記事になるはずである。
高橋サイドが読売新聞の記事を読んでいないとは、考えられない。その上で否定しなかったということは、否定するメリットがないということで、「2週連続出場する」との情報が世間に流れてもいいというスタンスだ。
最終的にどうするか、高橋サイドには3通りの選択肢がある。
(1)どちらかのレースに絞る
(2)両レースに出るが、片方は全力で走らない
(3)両レースに出て、両方とも全力で走る
実は、ベルリン・シカゴのどちらも走らないという、奥の手もあるが、現段階ではその可能性を考慮しても仕方がないので、置いておくことにする。とにかく、小出監督は有森裕子や高橋尚子のレース選択を見ればわかるように(今回のロッテルダムもそうだ)、選手の状態と、自分たちを取り巻く状況を勘案し、どのレースに出れば一番効果があるか、天才的に見抜く眼力がある。
高橋サイドがすでに(1)の結論に達しているのなら、今回のような情報を否定しないメリットは、出場料のつり上げにある。自分を高く買ってくれる方に出る――これは、自らを商品化しているプロ選手なら当然、考えることで、恥ずべきことでも何でもない。これを倫理的にいけないことと考える人は、中世カトリック的価値観で、近代資本主義の精神とは相いれない価値観を持っている、と断定せざるを得ない。
それによって、大会ディレクターや代理人たちに嫌われるかもしれない。だが、そんなことは、どうでもいいのである。順位賞金は公表しても、出場料は公表しないのが、この世界の常識である。どんな条件を選手側と主催者が結ぼうと、他人がとやかく言うことはできない、というか、第三者にはわからないのだから、とやかく言いようがないのだ。
高橋サイドのこのやり方がいやなら、高橋をレースから締め出せばいい。それだけである。
(2)の方法を採った場合、どんな走りを実際にするのか。先に行われるベルリンで、実際に走り出してからのペースや気象条件を見て、世界最高が出せそうにないと判断したら、途中でやめるか、中盤からペースを落とす。もちろん、出場の契約条件で、そういう内容にする。結果次第で出場料の金額が増減する契約の仕方もあるだろう。
仮にベルリンで世界最高が出れば、シカゴは全力を出さない。そういう契約をシカゴと結べれば、これも可能となる。
上記2つの方法は、金メダリストという看板にものを言わせるやり方で、ちょっと強引だと感じる人に聞きたい。あなたは就職活動のとき、自分を売り込もうと必死にならなかったか、と。例えば、「英語が話せるから、あなたの会社の役に立てます」というように。自分の収入を高くしようとする目的は、どちらも一緒なのだ。
そして、最もスペシャルな可能性が(3)である、2週連続で全力で走るというものだ。常識的にはあり得ないが、これまで数々の“マラソン界の常識”を覆してきた高橋尚子と小出監督である。絶対にあり得ないとは、言い切れない。
「2週連続マラソンを、全力で走れるわけがない」と言う人に聞きたい。あなたは、シドニー五輪1週間後の高橋の体調を確認したのか、と。
実際、高橋がマラソンを走った1週間後にどういう状態になるかは、本人と小出監督の2人にしかわからないこと。シドニー五輪代表を決めた昨年の名古屋国際女子マラソンのあと、高橋は1週間後に松江レディースの10kmに出場、その後、温泉で休養したが、小出監督は「今ね、Qちゃん、スッゲーいいよ。名古屋が終わって3週間だけど、今マラソン走れば2時間20分いける」(陸上競技マガジン2000年5月号)と言っているのだ。
シドニー五輪の1週間後、高橋が体調的にどんなだったかを、気にした人はいただろうか。日本のどこもかしこも、金メダルという結果だけに気を奪われ、高橋が走れる状態かどうかなど、気にしなかったはずだ。そこで小出監督と高橋だけは、“マラソンの1週間後でも走れる”感触を得ていたのかもしれない。