2001/4/29
室伏広治、シドニーと同じ“雨”を克服
1投目に81m35!
「自分の環境を作り上げる」ことの重要性



 広島は雨だった。織田記念が雨に降られるなんて珍しいのではないかと思ったので、報道受付の際に「何年ぶりくらいですかねえ」と受付の先生に尋ねたら「ここ数年はないと思います。5〜6年前に一度、降られたかもしれませんが」とのこと。
 室伏広治(ミズノ)にとって雨は、記憶にはっきりしみついているはずだ。
 シドニー五輪決勝。予選は余裕で通過した室伏だったが、雨の中で行われた決勝は、1投目は距離は70m代後半が出ていたものの、ハンマーがラインの左側にそれてしまうファウル。それが尾を引き、2投目、3投目と力をまったく発揮できなかった。
 競技後の記者会見で「オリンピックを思い出したか」との質問に「それは内緒です」と答えている。つまり、肯定しているのだ。
 本来、今回は投げやすい環境にあるはずだった。これまで、織田記念の会場のビッグアーチは、サークルの表面があまりにもひどかった。昨年のこの大会で優勝後も、室伏はその点をさかんにアピールした。
 なにも、強くなったから文句をつけているわけではない。投げやすい環境が整わないと、投てき種目自体が盛り上がらず、衰退してしまう可能性があるから、看板選手が代表して、状況の改善を訴えているのだ。そのアピールが認められた結果、サークルの改修工事が行われた。
 ところが、雨で、せっかくの改良点が生かせるかどうか、わからなかった。多少濡れているくらいなら、かえってスムーズにターンできることもあるのだが、室伏の妹の由佳や、男子の外国選手S・レンドル(豪)らが、足をスリップさせるシーンもあったのだ。
 注目の室伏の1投目。リリースの手応えがいいときに出る雄叫びは、出なかった。だが、ハンマーは雨空を突いて伸び、80mラインを明確に突破したのがわかった。81m35。4月7日にマークした82m60には届かなかったが、昨年までの日本記録の81m08は上回ってみせた。
 結局、これが優勝記録となったが、父親の室伏重信コーチは「多くの選手はいいときと悪いときで、5mの差が生じます。82mの選手なら78mと。それが、(広治は)今、3m以内に抑えることができる。しかもこの天候で81mなら上出来です」と、この日の投てきを高く評価する。
 室伏広治自身が、競技後に強調したのは、「自分の環境を作り上げる」ことの必要性だった。
「中京大での試合でも、どこかに行っての試合でも、雨が降ったり対戦相手が変わったりと、条件はいろいろと変わります。要は、自分の環境を作る必要があるんです。去年に比べれば、それはできるようになりました。それは意識して作る部分もあり、(試合などを経験することで)無意識的に作られる部分もあるのかもしれません。雨の試合はよくあることなんですが、そういった外の環境になじむことで、結果として、(雨などが)気にならなくなるのかもしれません」
 こうして書いてみると、やや難解なところがある。精神的な部分を言っているようでもあるが、精神的な部分と身体の調和、さらに、外的環境に適応させること全てを包括して言っているのだと思われる。
 室伏に「そんなのわかりませんよ」と答えられるのがオチだろうからあえて口にはしなかったが、「今の環境を作る能力がシドニー五輪当時あったら、どのくらい投げられたか」と、質問してみたかった。

 この日は3回目、4回目とパスをした室伏だが、昨年までの室伏は試技をパスしたことは一度もなかった。この部分から突っ込んで記事を書くこともできる。また、室伏のピーキングに対する意見も聞くことができた。この2点については、別の機会に記事にできればと思う。