2001/4/29
鈴木の牙城に綾が肉薄!!
女子ハンマー投史上最小差の70cm
女子ハンマー投選手が世界選手権代表となる可能性も濃厚


 女子ハンマー投は綾真澄(中京大)が今季、日本人2人目の60m台を記録し、この種目の女王・鈴木文(チチヤス乳業)との“あやあや対決”が注目されたが、鈴木が僅差で優勝した。鈴木の優勝記録は2投目の60m66。フィールドの勝負には流れがあるので断言はできないが、セカンド記録は59m45で、綾の59m96を下回っていただけに、かなりきわどい勝負だったと言える。
「学生新を出したときより調子はいいと感じていました。天候と気持ちの部分で問題があったと思います」と綾。一方の鈴木は「2投目(60m66)はあっさり出してしまった感じ。もうちょっと上を狙っていたんです。2投目以降は力んでしまいました。練習の流れもよくなかったと思います。ちょっと練習をやりすぎてしまいました」と、振り返った。
 さて、今さら説明の必要もないだろうが、33歳の鈴木は女子ハンマー投の文字通りパイオニアである。砲丸投の元日本記録保持者だったが、ハンマー投が公認種目となる少し前からこの種目にも進出。徐々に比重を移してきた。日本選手権は6連勝、日本記録変遷史にも鈴木の名前しか記載されていない。
 その鈴木が長らく望んできたのが、ハンマー投での世界大会への出場だ。99年セビリア世界選手権で初めて実施され、昨年は五輪でも正式種目となった。だが、その参加標準記録はAが65m00でBが63m50。99年に61m33と日本記録を更新した鈴木でも、手が届かなかった。まして、セビリア、シドニーと、A標準突破者がを派遣する原則だった。
 それが、今年のエドモントン世界選手権は、多くの種目で標準記録が高く変更された。フィールド種目は特にその傾向が大きく、その結果A標準突破者は、男子は三段跳の杉林孝法(ミキハウス)とハンマー投の室伏広治(ミズノ)の2人だけ、女子にいたっては皆無となってしまった。その結果、日本陸連は全種目というわけではないが、B標準でも派遣する方針を固めた。そんな状況のなか、女子ハンマー投だけはA標準は65m00のままだが、B標準が62m00に引き下げられたのだ。鈴木にとっては、千載一遇のチャンスともいえた。しかし――。
「つねに65mを目標にしています。(A標準を目標にして、なんとかB標準突破ということは)考えていません」と、きっぱり。たぶん、これが本心と思われるが、実際問題として、B標準は綾も手が届くところに来ており、代表切符を確実なものとするにはA標準を突破することしかない。
 それにしても、鈴木が日本選手とこれだけ僅差の勝負を繰り広げたことはなかったのではないか。本人に、日本選手に負けたことがあるか確認したところ、覚えていないとの答え。本人の記憶にないのだから、まずは間違いないと見てよさそうだ。そして、最小差は何mだったかを質問したが、これもはっきりとしなかった。当事者である選手は、意外とこういった点を気にしていないものなのだ。中には意識している選手もいるが、それは選手の性格によることが多いようだ。
 もしかしたら、鈴木が不調で54〜55mで優勝し、今回以上の僅差の勝負があった可能性はある。だが、常識的に考えれば、室伏由佳(ミズノ)が59m台、綾が58m台に記録を伸ばしてきた昨年以降に、最小差の勝負があったと考えるのが妥当だ。そうすると、昨年11月の浜松中日カーニバルで59m67の鈴木に対し、58m31と綾が1m36差に迫ったときが最小差ということになる。
「(綾さんの存在は)刺激になります。高いレベルで競い合えるのはいいことだと思います」(鈴木)
「(鈴木さんは)自分が高3のとき、すでに日本選手権を何連覇かされていた人。自分がハンマー投をやるきっかけにもなった人です。日々、目標にして練習しています」
 4回転の綾と、3回転の鈴木は、技術的にはそれほど、交流することはない。鈴木は元日本記録保持者の父・規市氏から教えを受け、その父の元からも数年前に独立して1人で練習を行っている。綾は言わずとしれた、室伏重信監督率いる中京大と、それぞれ練習方法が確立した環境にあるからだ。
「今年中には日本記録を」と綾は言う。そう言えるのも、ここまでこの種目を1人で引っ張ってきた鈴木がいたればこそ。室伏由佳も含めて、日本選手権までに日本新の応酬ということになれば、世界選手権代表を出すことになるだろう。