2001/7/4
ローザンヌGP寺田的観戦記 その3
トラック種目も佳境に グリーンが9秒90の快走
大会人気ナンバーワンは、この選手だ!!


 さて、トラック種目も佳境に。100 mにはマリオン・ジョーンズ(アメリカ)、モーリス・グリーン(同)と、女男のスーパースターが登場する。
 女子のジョーンズは辛勝。スタラップ(アメリカ)と0.01秒差だった。向かい風1.5mのため優勝記録は11秒04。この風でも好調時のジョーンズなら、10秒9台は出せていたと思う。今年は、不安を抱えてのシーズンとなるのだろうか、それとも立て直してくるのだろうか。
 続く男子は、幸い追い風(+1.1)に。シーズンイン当初は絶不調だったアト・ボルドン(トリニダードトバゴ)が9秒99と復調したため、グリーンの圧勝とはいえなかったが、いつも通りの危なげない走りで9秒90の快勝。ローマで右脚を引きずっていたのが嘘のようで、今回はフィニッシュ後も脚を引きずっていなかった。
 場内の興奮は、グリーンが登場したことで、この日最高の盛り上がりを見せた。洋の東西を問わず、100 mはやはり陸上競技の花形種目ということなのだろう。グリーンはフィニッシュ後に歩いて場内を一周。ホームストレートまで来ると、そのまま表彰式に。マイケル・ジョンソン(アメリカ)がプレゼンターを務める演出だった。
 タイムの正式発表を待って、選手たちに「1位だれだれ、2位だれそれ、3位はだれ」と、確認してからでないと何も運営が進まないどこかの国とは大違いである。別にどこかの国のやり方を批判しているわけでは決してない。そのやり方はやり方で、安全第一、間違って選手の気持ちを傷つけることのない素晴らしいやり方だと思う。どちらの方法を採用するかは、主催者の自由である。
 さて、大会の人気ナンバーワンはやっぱりグリーンか、と思った矢先、それがとんでもない思い違いであることを、思い知らされた。男子800 mに地元スイスのアンドレ・ブヒャーが登場したのだ。
 ラビットのエプリニウス(ドイツ)と、それにぴったりつくブヒャーが白人で、残り全員が黒人(ケニア6人、南アフリカとキューバが各1人)という構成でレースが進んだ。歓声はすさまじく、明らかにグリーンのときより大きい。400 mの通過は50秒55。500mでラビットがやめてブヒャーが先頭に立つと、歓声のボルテージは一段と上がり、650mでブヒャーがスパートして差を広げると、ホームストレートの観衆はスタンディング・オベイションだ(全員ではなかったが)。このとき、記者席に「ウォーーーッ」と響いてきた地響きのような歓声は、間違いなくこの日最高のものだった。
 ブヒャーは昨年、1分43秒12で世界リスト1位。やはり、ローザンヌGPで出した記録だ。シドニー五輪は5位だったが、地元が熱狂するのは史上最速男よりも、世界でトップになる可能性のある地元選手、ということなのだろう。大会スポンサーに、Le Matinという新聞社が名を連ねていたので、翌朝の同紙を購入してみた。案の定、ブヒャーの写真が一面に(小さくではあるが)掲載され、スポーツ面ではブヒャーの扱いが一番大きかった。ちなみに2番目に大きかった写真は、男子400 mHAレースで8位ながら49秒19と、スイス陸連の世界選手権派遣記録の49秒50を突破したアラン・ロールが喜んでいる写真だった。たぶん、ここまでに色々とドラマがあったのだろう。
“Stars events”と銘打たれた種目では、男子110 mHが最後だった。アレン・ジョンソン(アメリカ)が1台目を、派手な音響とともにぶっ飛ばした。別の選手の音だったのかもしれないが、ジョンソンの振り上げ足がハードルにぶつかったシーンと同時だったので、まずは間違いないだろう。音があれだけはっきり聞こえるのも、ローザンヌの競技場だからこそで、ローマだったらどうだかわからない。
 日本では“ハードルなぎ倒し男”として名を馳せているジョンソンだが、それは振り上げ脚の大腿裏がかすってハードルを倒すことが多いからで、その倒し方ならスピードロスは少ない。この日の1台目のように振り上げる際に踵かどこかを当ててしまったら、ロスは絶対に生じるし、この日は派手にぶつけたためバランスを大きく崩した。あきらめずに立て直そうとしたが、その後も7〜8台はハードルを倒し、シドニー五輪金メダリストのA・ガルシア(キューバ)に再度、名をなさしめた。

 トラックがメインの大会だが、フィールド種目も男子棒高跳でハートウイック(アメリカ)が5m90の大会新に成功し、6m00にも挑戦。男子やり投ではJ・ゼレズニー(チェコ)が後半3投、89m台の投てきを連続して披露した。残念だったのはやり投の90mにラインが引かれていなかったことだ。選手の顔ぶれを見たら、当然引いてしかるべきだった。80m台なのか、90mオーバーなのかでは、観客にとって興奮の度合いが違う。ローザンヌにしては珍しい失態ともいえただろう。
 しめくくりは、22時25分から「fireworks」とタイムテーブルにあった。キャンプファイアでもやって、スイスだからフォークダンスでもするのかと、変な先入観があった。実際の「fireworks」とは、花火のことだった。スイス最後の夜は、花火で締めくくられたが、異国で見たからといっても特に感動もしなかったし、感慨もなかった。