2002/7/2 ローザンヌGP
アスレティッシマ観戦&そこそこ取材記

その1 アジア勢のためのグランプリ?
 朝原宣治(大阪ガス)がトップでフィニッシュした男子100 mBレースの取材の間に、110 mHのC組とB組が終わっていた。レースは見られなかったが、B組で劉翔(中国)が13秒12(+1.6)のアジア新で、朝原同様トップでフィニッシュ。劉は今年でまだ19歳。ジュニア世界新でもあった。記者によっては“アジア勢のためのグランプリ”と書くかもしれないレースが続いたのである。ちなみに、110 mHC組では、競技場に来るバスで隣の席だったフィデノフ(ブルガリア)が13秒55(±0)でトップ。内藤真人(法大)と同レベルの記録で、親近感が増した。
 19時30分からスター選手の紹介イベントがあり、それが終わると車椅子の1500m。以前にもどこかで書いたが、スピード感がはるかにある。それが終わると、いよいよ男子400 mHB組。為末大(大阪ガス)と千葉佳裕(富士通)が出場するが、過去、海外のグランプリT以上の大会で、日本選手2人が同時に走ったことがあっただろうか。正確な資料はないので100 %とはいえないが、為末もレース後にその点を喜んでいた。日本の2選手のみならず、アル・ソマイリー(サウジアラビア)、メレシシェンコ(カザフスタン)、アル・フライ(クウェート)と、さながらプレ・アジア大会の様相を呈した、と言ったら書き過ぎのような気もする。もう何人か、有力選手がいるのだ。
 為末大はいつものスタイルで前半から飛ばしたが、その中身はちょっと違う。どう違うかを書くと長くなるので、別の機会に(紙のメディアになるかも)。5台目の通過は21秒2(ビデオから計測したのでかなり正確)で、エドモントンの準決勝より約0.1秒、決勝より約0.3秒遅い(このあたりは風の影響などもあるので、簡単な比較をするのは危険だが)。ソマイリーに追いつかれたのは「よく覚えていませんが、7〜8台目だったんじゃないですか」と為末。あとでビデオで確認すると、並ばれたのは9台目だった。それだけ、“タンク切れ”の状態が早く来たということだろうか。
 ソマイリーは10台目を振り上げ足の裏でハードルを蹴り倒す強引さ(=稚拙さ)だったが、為末との差を広げてフィニッシュ。ソマイリー48秒79、為末49秒01。千葉は50秒58で7位だった。
為末大コメント
「中盤はけっこうよかったんですが、6・7・8台目で息継ぎしたようにアップアップになってしまって…。8台目まで乗せられれば、最後までそんなにひどいレースにならないんですよ。48秒5くらいだと予想していましたし、ゴールしたときもそのくらいだと感じたんですが、読みと違えていました。何が悪かったのか、よくわかりません。
 強いて言えば、身体がまだ400 mHに向いていないのかもしれませんね。レースを繰り返していくうちに研ぎ澄まされていくと思うので、パリ(7月5日)あたりから何とかと思っています。それにしても、この記録は悪いです」
千葉佳裕コメント
「もう少しいけると思ったのですが、全然ダメです。精神的に弱いですね。ここぞというときに走れないんですから。今日は前半いくか後半いくか、迷いが出てしまいました。最終的には後半に出そうとしたのですが、切り換えられませんでした。想像したよりみんな前半が速くて、“これがヨーロッパのグランプリか”と。その点、為末さんはさすがです」

その2 110 mHA組は今大会一の豪華メンバーだったが…
 男子400 mHの取材のため続く女子1500mと100 mHA組は見られなかったが、どちらもオスロGL(ビスレットゲームズ)の優勝者が連勝。女子1500mのシオンカン(ルーマニア)はオスロでは、スパートして数mリードを奪い、しかし徐々に差を詰められて抜かれて、普通ならそのまま後退しそうな展開から、また再度抜き返す粘りを見せた選手。ローザンヌではどうだったのだろうか。
 女子100 mHはディーバースが12秒40(+1.2)と、今季世界最高で優勝。オスロの記事で「追い風だと失敗が多い」と書いたが、今回は適度な追い風。多少の風よりも“技術”なのかな、と考えを訂正。今年36歳となるが、12秒33の自己記録を更新しそうな勢いである。
 110 mHA組は今大会で最も豪華なメンバーだった。昨年のエドモントン世界選手権金メダルのジョンソン(米)、2000年シドニー五輪金のガルシア(キューバ)、35歳だがまだまだ健在の世界記録保持者ジャクソン(英)、そして23歳ながらシドニー五輪銀の実績もあるトランメル(米)。
 ハードルをなぎ倒し続けるジョンソンに目を奪われてしまったが、終盤ではガルシアがリードしているのがはっきりわかった。ガルシアが13秒03(+1.1)の今季世界最高で優勝。2位にはウェイド(米)が入り、ジョンソンが3位。27歳のウェイドはこれまで13秒01の記録を持ちながら、勝負弱くアメリカ代表にはなっていない。今後が注目される選手。ジョンソンは9台のハードルを倒していたことまでは確認できたが、何台目かを数える前に片づけられてしまった。
 しかし、豪華メンバーのはずのA組2位のウェイドが13秒15だったため、劉が朝原同様全体でも2位となった。

その3 女子走高跳のハイレベルな戦いで今井が感じたこと
 このあたりで女子走高跳のバーは1m90に上がっていた。今井美希(ミズノ)は第一跳躍者。1m80を1回目、1m85を2回目、1m90も2回目にクリアした。クリアすると、スタンドの日本人観客に向かって両手を挙げてガッツポーズ。1m90をクリアした時点で、1回目、つまり今井よりも先に成功させていたのは5人だけ。“世界と互角に戦っている”と感じたが、その後で世界のすごさを見せつけられた。
 1m90を2回目以降で成功したのが今井を含めて6人で、結局この高さを跳べなかったのは参加14選手中3人だけ。そして、1m94を9人がクリアした。今井はその高さの2回目が、女子100 m決勝と重なったりして集中しにくい面もあった。しかし、3回目には手拍子を要求するなど、自分のペースで進めようとするなど工夫も見られた。
 びっくりしたのはベリクヴィスト(スウェーデン)。2m01の記録を持ちシドニー五輪・エドモントン世界選手権とも銅メダルの安定感が売りの選手だったが、どちらかというと美人ジャンパーとして名を馳せていた(モデルをやっているらしい)。2m00を2回目で成功して優勝が決まると、2m02の自己新を1回でクリア。この時点までで、この日最高の歓声は女子100 m優勝のマリオン・ジョーンズ(米)が表彰台に上がったときだったが、ベリクヴィストの2m02クリアの瞬間はそれに次ぐものだった。
 しかし、自己記録更新だけで終わらなかったのだからすごい。1・2回目を失敗して“ダメかな”と思われた2m04を、3回目に見事に成功。間違いなく、この日最高の歓声がスタジアムに響き渡った。もちろん今季世界最高で、歴代でも6位タイの好記録。劉のアジア&ジュニア世界新に勝るとも劣らない快記録といえた、と安易に書いてしまったが、違う種目の記録を比較することなどできない。個人的な感想として受け取ってほしい。
 それにしても、昨年もローザンヌではババコワが、今回のベリクヴィストのように1人になってからもバーをクリアし続けて、2m03の好記録・大会記録に成功している。全天候舗装と相性のいい選手がまれにいるのか、大会の雰囲気の成せる業なのか…。

今井美希コメント
「90ですから、1戦目としてはまあまあです。今日は、94でもみんなどんどん跳んでいきますから、“高い”というイメージがありませんでした。怖くないというか、やろうと思えば跳べるような気持ちになったんです。(サーフェスは)ほどよく硬くてスピードも出やすく、跳びやすいと感じました。
 日本選手権(1m92で2位)の時は、最後の3歩に速さというよりスピードがありました。それが今日は、余裕がなかったと思います。前傾して突っ込んでしまい、踏み切り準備が十分にできていませんでした。クロアチア(ザグレブ・7月8日)で修正して、ローマで雰囲気的には1m94いくかなと感じています
 ベリクヴィストは前から好きな選手でしたから、今日はものすごく印象に残っています。男子選手みたいなバネの感じられる跳躍なんです。ババコワ(ウクライナ・2m05)みたいに踏み切りで一直線の姿勢となって地面からの反発をもらうというより、黒人選手みたいにヒザを曲げて踏み切るタイプ。コスタディノワ(ブルガリア・2m09=世界記録)やヘンケル(ドイツ=2m07)とも違います」

その4 新アジア記録保持者・劉翔に突撃取材
 グリーン(米)が欠場した男子100 mA組は、前半でモンゴメリー(米)がちょっと前に出ていたように見えたが、オスロGLではB組で1位だったオビクウェル(ポルトガル)が、寺田の予想通り(レース前にK記者に話しました)終盤で圧倒的な力を見せて快勝。向かい風0.3mで10秒09はそれほどでもないが、モンゴメリーに0.06秒差なのだからやっぱり強い。オビクウェルは50分後の200 mにも20秒26で快勝。こちらはグランプリ種目でなかったため“気楽に”出られたのかもしれないが、100 mのあとにちゃんとウイニングランや表彰という“大会を盛り上げる役目”を果たし、さらに勝ってしまうのである。
 ちょっと日本人にはマネできないかも。そういうメンタリティーの選手はいるだろうが、この手のことは周りが……ね、日本では。どちらがいいとか悪いとかではなく、そういう違いがあるということ。
 取材を終えて、最終(23:30)のシャトルバスで大会ホテルに着いたのが、たぶん23:45頃。日記ですでに紹介しているが、110 mHアジア記録保持者となった劉翔が、玄関前で2人の白人選手と話をしていたので、これは好機と突撃取材を敢行。英語がネイティヴの選手なら二の足を踏んだだろうが、同じアジア人なら、ちょっとはゆっくり話してくれるだろう、と踏んでのことだったが、劉はそれほど英語が話せなかった。
寺田「今日のレースをどう感じているか」(とっても簡単な英語)
「ベリー・グッド。I feel very strong.」
 ちょっと遅れてそこに来たコーチの方が、劉より話せた
寺田「今日は技術的にどこがよかったか」
コーチ「今日は中盤がよかった。4・5・6・7台目とベリー・ファーストだった」
 さすがに、それ以上詳しく聞くことはできなかった。
寺田「12秒台は?」
「可能性はまったくないよ。とても、とても無理」
寺田「100 mと200 mのパーソナルベストは?」
「10.40と21.27」
コーチ「200 mはその1回しか走ったことがないんだ」
 という感じで、こうして文字にしてみると、大した取材ではないなあと落ち込んでいるところ。実際は日記にも書いたように、ハードルとは関係ない話しもしていて、15分前後は話したような気がする。最後に、サインをもらったので、帰国したら掲載予定。
 取材が終わったのは午前0時を過ぎていたはず。2日間にまたがった取材は、もしかしたら初めてのことだったかもしれない。

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