2001/6/23
実業団・学生対抗に関するちょっとした考察
実学観戦ではフィールド種目が要注意

 標記大会(以下、実学)についての印象は
(1)「山田宏臣が日本人で初めて8mを跳んだ大会」
(2)「かつては日本新が多く出た大会」
(3)「フィールド種目で好記録が出る大会」

 というものだった。今回、実学で誕生した日本記録を全てリストアップしたので、上記の印象が正しいものかどうか、少しばかり検討することができた。
 (1)については検討の必要のない事実である。南部忠平が戦前の1931年に出した7m98(当時世界記録)を39年ぶりに更新したのが、1970年6月7日に小田原で行われた実学だった。
 (2)を別の言い方にすれば、「最近はあまり日本記録が出ていない」、ということになる。これは残念だが、正しい印象だった。年代順・実学で生まれた日本記録リストを作成してみたが、かつて実学は日本記録量産大会だったことがわかる。第1回大会は1961年だが、誕生した日本記録の年別の数は以下の通り。
1963年:2個
1964年:1個
1965年:2個
1966年:1個
1967年:1個
1968年:2個
1969年:1個
1970年:4個
1972年:1個
1973年:1個
1974年:1個
1976年:1個
1977年:1個(0個)
1978年:1個(0個)
1979年:2個(1個)
1981年:2個
1982年:1個(0個)
1983年:1個
1993年:1個
1998年:2個(0個)
2000年:1個(0個)
 日本記録の内、スウェーデン・リレー(100 m+200 m+300 m+400 mR)は実質、この大会でしか行われていないため、他の大会で日本新が生まれる可能性はほとんどない。スウェーデンRは日本記録が公認される正式種目であるが、傾向を知るためにその日本新をカウントしない数字を( )で示した。要するに、五輪や世界選手権で行われている種目に限った日本記録の数にしたわけである。
 これを見れば一目瞭然。1963年以降、毎年のように日本記録が誕生し、そのピークは70年。山田の8m01を筆頭に4種目で日本記録が誕生した。83年までは文字通り、たまーに生まれない年はあっても、毎年日本記録が生まれたと表現して差し支えない。それが83年を最後に途絶え、93年に女子3000mで誕生している(日本人初の8分台だ)ものの、その1回を除けばあとはスウェーデンRだけだ。
 実学は各種目、実業団連合登録選手から3人、日本学生連合登録選手から3人が選抜され、対抗得点を競うのが基本コンセプト。往年の選手たちは「実学に選ばれるのは大変な名誉だった」と言う。そのくらい、この大会に賭ける意気込みは強かったし、実際に好記録も量産された大会だったのである。

 最後に(3)であるが、トラックとフィールド別に生まれた日本記録をカウントすると、以下のようになった。
 トラック種目 :男子8個、女子7個、計15個
 フィールド種目:男子9個、女子6個、計15個
 ほぼトラックとフィールドの比は、ほぼ同数だが、前述の理由でスウェーデンRを除くと
 トラック種目 :男子3個、女子5個、計8個
 フィールド種目:男子9個、女子6個、計15個
となる。つまり、五輪種目に限ればフィールドの方が圧倒的に日本記録が多く生まれているし、日本新までいかなくとも好記録は、近年の印象ではフィールドの方が多い。

 実学が60〜80年代前半と比べ、大会のグレードが相対的に低下しているという見方に、異論はないと思う。かつては世界選手権もなかったし、スーパー陸上も国際グランプリもなかった(日刊ナイター等、面白い大会はあった)。現在の選手は国際大会と、国内ではその選考会に力を注ぐようになっているのである。かつては、それがなかったから、実学にも力を注ぐことができた。
 陸上のオールドファンは、実学のレベル低下を嘆かれるかもしれないが、これは社会的な流れとして、どうしようもない。選手たちが、主要大会の谷間に行われる利点を生かして、活用していけばいいように思う。かつてのように、日本代表クラスの選手が全員出ているわけではないが、全国レベルの選手が出ている緊張感はあるし、種目によっては日本選手権と変わらない顔ぶれなのだ。観戦する側にとっても、インカレや日本選手権と違って、リラックスした雰囲気が満喫できる。
 筆者は、インカレや日本選手権、国際大会の選考会に比べ、実学はプレッシャーがかからなくなったためフィールド種目で好記録が誕生している大会と、実学のことをとらえている。緊張感の高い試合では、短距離・ハードル種目で好記録が生まれ、フィールド種目は比較的リラックスできる試合で好記録が誕生する。オリンピックや世界選手権の入賞者の記録を見れば明らかに、短距離種目で各選手の自己ベストやシーズンベストが出ている。フィールド種目間で比較すると、投てき種目よりも跳躍種目で同様の傾向がある。
 これはあくまで傾向で、全てがこの図式に当てはまるわけではないので、注意してほしい。だが、実学観戦においては、フィールド種目に要注意、ということは言えると思う。が、スウェーデンRの日本新もお見逃しないように。もちろん、こうした傾向とは関係なく、記録が出る最大の要因は選手の力、頑張りだ。最近充実しているという種目(今大会でいえば男子110 mHや女子砲丸投)は、“傾向”とは関係なく、注意をして見る必要がある。