「私、男子マラソンの味方です」
私は「男子マラソンの味方」だ。
別に女子マラソンが嫌いなわけではない。それどころか、女子マラソン関係者には取材などで大変よくしてもらっている。感謝しこそすれ、「味方でない」などと宣言できるわけがない。もちろん、高橋尚子(積水化学)の金メダルには、心の底から感動した。日本選手がオリンピックで金メダルを胸に掛ける、これは陸上競技と関わって以来、私の長年の夢だったからだ。
では何が言いたいのかといえば、世間の男子マラソンに対する評価が気に入らない。風当たりがちょっと強過ぎる。女子マラソンばかりを華やかに取り上げ、男子はまるで日陰者扱いだ。言うまでもなく、男子選手だって頑張っているのだ。
こう書くと「オリンピックの成績を見ろ」、と言う人がいるだろう。男子3選手は21位、41位、途中棄権。女子とは雲泥の差ではないか――確かにその通りである。オリンピックの順位だけに価値を置く人には、とても反論できない。過去40年間で最低の順位なのだから。
だが、テレビで放映される男女のマラソン・レースを見比べてほしい。11月に行われた東京国際女子マラソンは土佐礼子(三井海上)が日本最高記録ペースで前半を独走した。そして12月の福岡国際マラソンも藤田敦史(富士通)が日本最高記録ペースで走っていた。だが、20`までは10人が集団を作っていたのである。
「男子の場合、日本人が尚子さんみたいに20`前からスパートしたり、最初から行っても、絶対に付いてこられちゃうんですよ」
以前、シドニー五輪について話をしているときに、藤田はこんなことを言っていた。つまり、トップレベルの層は男子の方が厚いということ。これは、記録を見れば明らかだ。世界最高記録と歴代30位の記録を比較すると、男子は2時間05分42秒と2時間07分40秒。その差は1分58秒。女子は2時間20分43秒と2時間24分47秒で、その差4分04秒だ。シドニー五輪のタイム差も同様だった。優勝と30位の差は、男子の7分53秒に対し女子は13分31秒。
実力差が小さければ独走に持ち込むのは難しくなる――単純な理屈だ。そして、ちょっと調子が悪いだけで、一気に順位が落ちてしまう。その傾向が強いのが男子マラソンと言っていい。シドニー五輪の順位こそ悪かったが、世界と決定的な差があるのではなく、小さなミスが順位に大きく反映されてしまったのだ。川嶋伸次と佐藤信之の旭化成コンビ、そして日本最高記録保持者だった犬伏孝行(大塚製薬)。彼らの世界へのアプローチの仕方が間違っていたとは、思えないのだ。
藤田の快走を待つまでもなく、男子マラソンは有望種目である。