2005/1/22
女子短距離リレー代表候補3選手のある共通点
競技環境獲得にプラスとなる「地元に愛される選手」について


 陸マガ2月号で記事を書いた女子短距離の現時点での4×100 mRメンバー候補は、小島初佳、鈴木亜弓、石田智子、信岡沙希重、瀬戸口渚の5人。学生時代から活躍していた選手たちで、全員が日本インカレの優勝経験がある。ところが、5人のうちストレートに今の会社に入ったのは小島と鈴木の2人だけ。他の3人は別の登録で試合に出ていた年があることに気がついた。
 このことは、女子の短距離が置かれているポジションを示している、と言えそうだ。男子のように日本のトップ、イコール五輪や世界選手権の代表になれる、というわけではない。しかし、その可能性があるから、大学卒業後も頑張って力を伸ばしている選手は、存在価値が認められて競技優先の環境を獲得できる。遠回りをしたのは受け入れ側の採用事情もあるかもしれない。簡単に言い切れない部分もあるが、大筋では間違った見方ではないだろう。

 アテネ五輪代表では、男子走幅跳の寺野伸一と七種競技の中田有紀も、同じような立場。女子競歩の川崎真裕美は就職に際し、地元の先生の尽力が大きかったと聞いている。後述する瀬戸口選手と似たケースだろうか。だが、それ以外の代表選手はだいたい、ストレートに実業団チーム入りができている(向井裕紀弘が、所属チームが廃部になるが)。
 考えてみたら、女子短距離は100 m日本記録保持者の二瓶秀子も、実業団選手ではなかった。大学卒業後は通常の教員として働きながら力を伸ばし、大学院に入り直して日本記録を出すに至った。200 mでは教員時代にも、当時の日本記録を出している。

 リレーメンバーで遠回りをした3人の中では、瀬戸口が地元密着型として注目される。鹿児島女高出身。福岡大を卒業して1年目が徳洲会で実業団選手、徳洲会が撤退したため2年目は鹿児島県体育施設協会でフルタイムの勤務に。勤務場所は鴨池の陸上競技だったが、仕事の合間に練習をするのでなく、夕方に勤務を終えた後の練習。休みが認められる試合も、国体と海外遠征だけだったという。3年目の2004年から競技力が認められて、財宝グループ(鹿屋市に本拠を置き飲料を中心に通販などで販売する企業。WEBサイトはこちら)所属で競技優先の環境になった。鹿児島大の研究生にもなっている。
 話を聞いていると、鹿児島という地域が瀬戸口を育てている要素が本当に強い。徳洲会所属だった1年目の国体のリレーメンバーが、少年選手も含めて翌年も、そっくり残る状況だった。そういった部分もあって、地元の先生方が尽力してくれたとのこと。2年目は前述のようにフルタイム勤務だったが、鹿児島に残れる環境が確保された。瀬戸口がその年に11秒5台を出すと、3年目からさらに上を狙えるようにと、競技優先の現在の環境となった。

 これまでも、そういった例はいくつかあった。長く強豪高校の監督をやっている先生方は、地元でも顔が広いことも多いのだ。ただ、そういったケースでも、選手側が愛される存在でないと、周囲も「あいつのために」という気持ちにはならない。
 愛されるための方法はケース毎に違うと思うので、こうするのがいいと言い切るのは難しい。国体で成績を挙げるのがいいのか、国体よりも国際大会で頑張るのがいいのか。受け取る側の感覚で違ってくる部分でもある。
 競技以外の面に左右されることもあるかもしれない。選手の日頃の態度、地元への接し方の誠意のあるなし。最終的には、その選手の存在全体が、地元でどう評価されているか。
 取材中、瀬戸口に次のような質問をした。
「瀬戸口さんって、地元から愛されていますよね?」
 と。
「はい。おかげさまで」
 と、瀬戸口。こちらは、彼女が愛される存在かどうかを確認したかったのだが、彼女は自分がどうだと聞かれているのでなく、自分を応援してくれる周囲のことを質問されていると勘違いしたようだ。それで、感謝の言葉を口にしたわけである。
 考えてみたら、選手が自分のことを「愛される存在ですから」とは、言えないだろう。こちらの質問のし方が、不適切だった。反省します。


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