2001/2/27
国際陸連の処分に疑問点
88年以降では唯一のアフリカ人以外の長距離金メダリスト
バウマンと同じレースに出場した選手全員が失格


 国際陸上競技連盟(IAAF)は26日、25日に行われたドイツ室内選手権3000m決勝に出場した選手全員に資格停止処分を科した。禁止薬物のナンドロロン使用でIAAFから資格停止処分を受けているディーター・バウマンが走るレースに出場したためだという。
 36歳のバウマンは1999年に筋肉増強剤のナンドロロンに陽性反応を示した。その後、歯の治療に使われたものに薬物が含まれていたと主張して、ドイツ陸連には潔白が認められたが、昨秋IAAF仲裁委員会が2年間の国際試合出場停止処分を科した。
 バウマンは92バルセロナ五輪5000m優勝者。1988年以降のオリンピック・トラック長距離種目で唯一人の、ヨーロッパ人金メダリスト。というか、アフリカ選手以外で優勝したのは彼だけなのだ。当然、ドイツ国内でも注目度の高い選手。
 ドイツ陸連は、処分の撤回を求めてIAAFと話し合いの場を持ちたいとしている。
<以下は寺田のオピニオン>
 国際陸連が、バウマン選手と一緒に走った選手に科した処分(2月26日)に、疑問を感じました。
 選手の身体から禁止薬物が検出されれば、それが故意であろうが歯の治療であろうが、第三者の陰謀だろうが、その選手が出場停止となるのは仕方がないと思います。薬物が体内にある選手だけ、他の選手よりも明らかに有利となっているわけですから。同じレースを走る選手はたまったものではありません。
 ですが、同じレースに出た選手まで資格停止(期間がはっきりしませんが)にするというのは、どういう原則なのでしょう。薬物使用選手と一緒に走れば、不利となるのは自分なのです。薬物使用選手は不正なアドバンテージを得ているわけですが、同じレースに出た選手は不利な状況で走っているのです。
 たぶん、国際陸連は事前に警告を出したのではないかと思います。「IAAFは薬物使用を根絶させたい。それに違反して資格停止処分になっている選手と走ることは、我々の大義に背くことになる」というような。
 ですが、選手側から見れば、ドイツ陸連が主催する国内のチャンピオンシップに出ただけです。もしかしたら、バウマン選手の無実を信じる気持ちが働いたのかもしれませんが、形の上では公式のレースです。処罰するのなら、バウマン選手をレースに出したドイツ陸連をするのが筋であって、それを飛び越えて選手を処罰するというのはおかしなことだと思います。
 IAAF側に「お前たちは、俺たちの言うことを聞けないのか」的な感情が働いたように勘ぐられても、仕方のない処罰のように思えます。薬物違反で選手を処分するときは、故意であったか事故であったかという選手の精神面の真実よりも、体に薬があるかないかという“形”を優先させながら、今回はバウマン選手と同じレースを走るという“形”を作ったドイツ陸連でなく、バウマン選手に同情する選手の精神面を処罰したように思えるのです。